じごごうりか|post hoc rationalization|心理学
昼休みに、いつもの店で、いつもの定食を注文しました。メニューを見比べたわけでもなく、ほとんど習慣でした。同僚に「どうして、それにしたの」と聞かれ、皿を眺めてから「野菜も魚もあって、栄養のバランスがいいから」と答えます。口にすると、その理由は自分でも納得できます。 R1
事後合理化とは、すでにした行動や選択に、あとから筋の通った理由をつけることです。英語ではpost hoc rationalizationといいます。その理由で選んだかのように説明していても、実際には選んだあとで理由が形になっている場合があります。 R1
定食に野菜と魚が入っていて、その取り合わせが好みに合うのは本当でしょう。ただ、ここでは注文したあとに皿を見て納得したことを、「なぜ注文したのか」の答えにしています。 R1
説明用の場面です。すべての理由説明が後付けだとは述べていません。
自分の選択を、手がかりから説明する
選択を振り返る手がかりは一つではありません。注文前に「昨日は肉だったから、今日は魚にしよう」と考えていれば、その考えを思い出せます。あまり考えずにいつもの品を頼んだときは、選んだ品の特徴や普段の食事の好みが、理由を説明する手がかりになります。 R2 R6
心理学者のニスベットとウィルソンは、1977年に、自分の心の働きについての説明を検討した論文を発表しました。二人は、人が理由を尋ねられると、「こういうとき、人はこの理由で選ぶものだ」という知識を使い、もっともらしい原因を推測すると考えました。 R2
食事なら味や栄養、服なら色や着心地は、選ぶ理由として思い浮かびやすいものです。目の前の品物にその特徴があれば、自分の行動にもよく当てはまります。定食の野菜と魚を見て、「自分は健康に気を遣うほうだ」という知識と結びつければ、なぜそれを頼んだのかを説明できます。本人には、もともとの理由を思い出したように感じられることもあります。 R2 R6
参考記事→メタ認知
同じストッキングでも、選ぶ理由が語られる
この論文では、著者ら自身が行った消費者調査も紹介されています。五十二人に、同じナイロン製ストッキングを四組並べて示し、もっとも品質がよいと思うものを選んでもらいました。そのあとで、選んだ理由を尋ねました。 R2
選択には、置かれた位置による偏りがありました。いちばん右のものは、いちばん左のものの約四倍選ばれました。それでも、自分から位置を理由に挙げた人はいませんでした。位置が影響した可能性を直接尋ねても、ほぼ全員がその影響を否定しました。 R2
著者らは、買い物でいろいろ見比べる習慣が持ち込まれた可能性を考えています。左から順に比べているうちに、早く見たものより後から見たものを選びやすくなる、という仮説です。 R2
人への印象にも、理由が付いてくる
ニスベットとウィルソンは、大学教員への印象を用いた実験も、1977年に報告しました。百十八人の学生が、同じ教員のインタビュー映像を見ました。一方の映像では、教員は学生との討論を歓迎し、学ぶ意欲を尊重していました。もう一方では、学生を信用せず、討論もあまり認めないと話しました。温かく親しみやすい教員と、冷たくよそよそしい教員という印象を与える二つの映像です。 R3
学生は、教員をどのくらい好ましく思うかに加えて、外見、しぐさ、話す英語のアクセントも評価しました。温かい映像を見た人は、冷たい映像を見た人より、これらの特徴も好ましく評価しました。音声なしで映像を見た別の学生群では、外見としぐさの評価に大きな差は見られませんでした。全体的な印象が個々の特徴の評価にも及ぶ、ハロー効果の研究です。 R3
さらに、参加者の一部には、教員への好悪が外見などの評価に影響したかを尋ねました。温かい映像でも冷たい映像でも、多くの人が影響を否定しました。別の参加者には、外見などの評価が教員への好悪に影響したかを尋ねました。冷たい映像を見た人は、外見や話し方が気に入らないことが、教員への嫌悪につながったと答えました。 R3
教員全体への印象が細部の評価を変えていても、本人は「この細部が気になるから印象が悪い」と、逆の順序で理解することがあります。外見や話し方は実際に見聞きしたものなので、その説明は自分の経験に合っていると感じられます。 R3
納得したい気持ちが、説明の方向を決める
心理学でいう合理化には、自分のしたことを受け入れやすく説明して、自尊心を保ち、罪悪感や批判から自分を守る、という用法もあります。精神分析では、不安や心の葛藤から自分を守る働きである防衛機制の一つとして位置づけられてきました。 R4
たとえば、友人との約束を忘れていた人が、「相手も忙しそうだったから、会わないほうがよかった」と考えます。相手が忙しいという事情があれば、それは一応もっともらしい理由になります。その説明によって、約束を忘れた自分への気まずさが和らぐことがあります。 R4 R1
認知的不協和の理論は、自分の考えと行動の食い違いから生まれる不快さを、どう和らげようとするかを説明します。「約束を大切にしたいのに忘れてしまった」ときに、「会わないほうがよかった」と理由をつければ、自分の行動を受け入れやすくなります。行動に合う理由を見つけることも、不協和を和らげる方法の一つです。 R1
参考記事→認知的不協和
理由の材料になる記憶も、選択に沿って変わる
時間がたってから選択を振り返るときには、当時の選択肢についての記憶が材料になります。メイザー、シャフィール、ジョンソンは、2000年に、採用候補者やルームメイトなどを選ぶ仮想場面を使い、その記憶を調べました。 R5
参加者は、それぞれに長所と短所のある二つの候補から一つを選びました。ルームメイトを選ぶ課題では、候補には「もめごとの解決がうまい」といった長所や、汚れた洗濯物を部屋にためるといった短所がありました。別の課題を挟んだあと、さまざまな特徴を示され、それがどちらの候補に書かれていたか、あるいは初めて出てきた特徴かを答えました。 R5
記憶の誤りには、自分が選んだ候補を有利にする偏りが見られました。とくに、よい特徴を、自分が選んだほうのものとして答えやすくなっていました。特徴自体を覚えていても、それが誰の特徴だったかを取り違えることがあります。 R5
たとえば、選ばなかった候補の「もめごとの解決がうまい」という長所を、選んだルームメイトの特徴として思い出すような誤りです。その記憶をもとに理由を説明すれば、「問題が起きてもうまく対処できる人だから選んだ」という話ができあがります。 R5
あとから得た理由が、次の選択に入る
あとからつけた理由は、自分が何を大切にしているかという理解にもつながります。クッシュマンは、習慣などで起こした行動の理由を推測し、今後の判断に使える形にすることが、事後合理化の働きだと理論的に提案しています。 R1
いつもの定食を食べながら「栄養のバランスがいい」と説明した人が、次の日には、メニューの野菜や魚に目を向けるかもしれません。注文したあとで見つけた理由が、今度は注文する前の関心になっています。 R1
出典
- R1 Fiery Cushman (2020). Rationalization is rational. Behavioral and Brain Sciences, 43, e28(オンライン先行公開2019年). DOI: 10.1017/S0140525X19001730
- R2 Richard E. Nisbett, Timothy DeCamp Wilson (1977). Telling More Than We Can Know: Verbal Reports on Mental Processes. Psychological Review, 84(3), 231–259. DOI: 10.1037/0033-295X.84.3.231
- R3 Richard E. Nisbett, Timothy DeCamp Wilson (1977). The Halo Effect: Evidence for Unconscious Alteration of Judgments. Journal of Personality and Social Psychology, 35(4), 250–256. DOI: 10.1037/0022-3514.35.4.250
- R4 American Psychological Association (2018). Rationalization. APA Dictionary of Psychology(更新2018-04-19).
- R5 Mara Mather, Eldar Shafir, Marcia K. Johnson (2000). Misremembrance of Options Past: Source Monitoring and Choice. Psychological Science, 11(2), 132–138. DOI: 10.1111/1467-9280.00228
- R6 Timothy D. Wilson, Elizabeth W. Dunn (2004). Self-Knowledge: Its Limits, Value, and Potential for Improvement. Annual Review of Psychology, 55, 493–518. DOI: 10.1146/annurev.psych.55.090902.141954