めたにんち|metacognition|心理学
組み立て説明書を読んで、「手順はわかった」と思いました。ところが、一緒に作業する人へ説明しようとすると、どちらの板を先に留めるのか、言葉が止まります。「ここを読み飛ばしていたのか」と気づき、図を見直します。 M1 M2
読むことに加えて、自分がどこまで理解しているかを確かめ、その見立てに合わせて進め方を変えます。このような、自分の認知について知り、見積もり、調整する働きを、メタ認知といいます。英語ではmetacognitionです。 M1 M2
認知には、覚える、理解する、推理する、注意を向けるといった働きがあります。メタ認知では、その働きそのものが、知識や判断の対象になります。 M1 M2
自分の覚え方について、知っていること
心理学者ジョン・フラヴェルは、1970年代に子どもの記憶や理解をめぐる研究を進め、メタ認知という考え方を発展させました。子どもは「覚えた」と思って学習を終えても、テストではまだ思い出せないことがあります。覚える力に加え、覚えられたかを知る力も、研究の対象になりました。 M1
フラヴェルが1979年の論文で整理したのは、認知に関する知識や、認知に伴って生じる経験です。「自分は人の名前をすぐ忘れやすい」という見立てがあります。「話の大筋を覚えるより、一字一句を覚える方が難しい」という課題についての知識もあります。「項目を意味のまとまりに分けると覚えやすい」という方法についての知識も、メタ認知的知識に含まれます。 M1
こうした知識は、人、課題、方略に関するものに分けられます。方略は、目的に応じて用いる方法のことです。自分の認知について持つ考えも、経験を通じて変わります。いつも名前を忘れると思っていた人が、仕事で繰り返し会う相手の名前はよく覚えている、と気づくこともあるでしょう。 M1
説明の途中で生じる「何かつながらない」「今なら説明できそうだ」という感覚は、その場でのメタ認知的経験です。普段から持っている知識と、いま感じている理解の手応えが、次の行動に関わります。 M1
見積もることと、進め方を変えること
メタ認知の働きは、モニタリングとコントロールという二つの方向から説明されます。トーマス・ネルソンとルイス・ナレンズが1990年に示した枠組みです。 M2
モニタリングは、理解や記憶の状態を見積もる働きです。説明書の例なら、「部品の向きがあやふやだ」と気づくことが当たります。コントロールは、その情報をもとに、認知活動の進め方を変える働きです。該当する図へ戻る、実物を並べて確かめる、相手に質問する、といった行動につながります。 M2
図を見直した後で、「これで向きがわかった」と判断し、次の工程へ進むこともあります。作業の途中で理解の具合を確かめ、それに応じて行動し、変わった状態をまた確かめる、という行き来が生まれます。 M2
理解の見積もりが常に正しいという意味ではありません。矢印は情報と調整の向きを表します。
思い出すまで待つか、調べるか
知っている俳優の名前が、すぐには出てこないことがあります。出演していた作品や、名前の最初の音は浮かびます。「もう少し考えれば出てきそうだ」と思い、そのまま思い出そうとします。まったく知らない人について聞かれたときには、早い段階で検索に切り替えることもあるでしょう。 M2
この「知っているはずだ」という感覚は、記憶に関するメタ認知、つまりメタ記憶の研究で扱われてきました。まだ答えが出ていない段階でも、思い出せそうかという見積もりが、探し続けるか、やめるかに関わります。 M2
正解できる力と、確かさを見分ける力
自分の答えにどれくらい自信があるかを、確信度といいます。メタ認知の研究では、問題に正解できたかと、確信度を合わせて調べます。たとえば、ある二人が十問中八問に正解したとします。一人は十問とも同じくらい確信していました。もう一人は、間違えた二問について、答える時点で自信が低かったのです。成績は同じでも、自分の答えの確かさについて持っていた情報が違います。 M6
自信の高さを比べるなら、全体にどれくらい確信して答えたかを調べます。答えの確かさを見分けられたかを知るには、正解したときと間違えたときで、確信度がどう変わったかを調べます。 M6
答えを提出する前に確認の時間があるとします。あやふやだと感じた二問がわかっていれば、そこへ戻って調べ直せます。どの答えにも同じくらい確信していた人には、その二問を優先する手がかりが乏しくなります。 M2 M6
実験では、多くの回答を集めて、正誤と確信度の関係を調べます。課題が簡単か難しいかによって、正答率も、正誤と確信度の結びつきも変わります。そこで、課題の成績をそろえたり、その差を計算で考慮したりして、メタ認知の働きを比べます。 M6
「覚えた感じ」は、何を手がかりに生まれるのか
学んだ内容を後で思い出せそうかという見積もりを、学習判断といいます。英語ではjudgment of learningです。記憶研究者アッシャー・コリアットは、学んだ内容の特徴や学習した条件、思い出す際の感覚などを手がかりに、この判断を行うと説明しました。 M3 M5
単語同士の関係がわかりやすいか、何度学んだか、思い出すときにどのくらいすらすら出てくるか、といった手がかりがあります。記憶について考えるとき、こうした情報が材料になります。どの情報を手がかりにするかによって、見積もりの正確さも変わります。 M3
マシュー・ローズとアラン・キャステルの2008年の研究は、文字の大きさを調べました。最初の実験では、参加者は大きな文字と小さな文字で単語を見て、一語見るごとに、後で思い出せそうかを評価しました。後で思い出せるという予測は、大きな文字の方が高くなりました。約五分の別の作業の後に行ったテストでは、実際に思い出せた割合に、文字の大きさによる差は確認されませんでした。 M4
時間を置いて、答えを隠したとき
「庭―時計」のような単語の組を覚えて、後で「庭」を見て「時計」と答える課題を考えてみましょう。覚えた直後なら、時計という言葉はすぐ浮かぶかもしれません。ほかの単語をいくつか覚えた後では、すぐ思い出せる組もあれば、答えが出てこない組もあるでしょう。 M5 M7
ネルソンとジョン・ダンロスキーは1991年、単語の組を覚える課題で、学習直後の見積もりと、少し時間を置いた見積もりを比べました。判断するときには手がかりとなる側だけを見せ、答えは隠しました。時間を置いた条件では、その後のテストでどの単語を思い出せるかを、よりよく予測できました。 M5
翌年の研究では、判断するときに答えも一緒に見せる条件を加えました。手がかりだけを見せた場合には、時間を置くことで予測の正確さが高まりました。答えも見せた場合には、直後と時間を置いたときで、予測の正確さに明確な差はありませんでした。 M7
実際に思い出せた単語の割合については、時間を置いて判断する条件同士を比べると、答えも見せた方が高くなりました。自分の記憶を正確に見積もれた条件と、後で多く思い出せた条件は、この実験では異なっていました。 M7
答えを見ながら「これは知っている」と思うときには、読んだ言葉のなじみ深さも判断の材料になります。答えを隠して「庭」だけを見ると、「時計」が浮かぶかどうかを試せます。すぐ出てきたか、しばらく探したかという経験も、次のテストで思い出せそうかを考える手がかりになります。 M3 M7
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出典
- M1 Flavell, J. H. (1979). Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive–developmental inquiry. American Psychologist, 34(10), 906–911. DOI: 10.1037/0003-066X.34.10.906
- M2 Nelson, T. O., & Narens, L. (1990). Metamemory: A Theoretical Framework and New Findings. Psychology of Learning and Motivation, 26, 125–173. DOI: 10.1016/S0079-7421(08)60053-5
- M3 Koriat, A. (1997). Monitoring one’s own knowledge during study: A cue-utilization approach to judgments of learning. Journal of Experimental Psychology: General, 126(4), 349–370. DOI: 10.1037/0096-3445.126.4.349
- M4 Rhodes, M. G., & Castel, A. D. (2008). Memory predictions are influenced by perceptual information: Evidence for metacognitive illusions. Journal of Experimental Psychology: General, 137(4), 615–625. DOI: 10.1037/a0013684
- M5 Nelson, T. O., & Dunlosky, J. (1991). When People’s Judgments of Learning (JOLs) are Extremely Accurate at Predicting Subsequent Recall: The “Delayed-JOL Effect”. Psychological Science, 2(4), 267–271. DOI: 10.1111/j.1467-9280.1991.tb00147.x
- M6 Fleming, S. M., & Lau, H. C. (2014). How to measure metacognition. Frontiers in Human Neuroscience, 8, 443. DOI: 10.3389/fnhum.2014.00443
- M7 Dunlosky, J., & Nelson, T. O. (1992). Importance of the kind of cue for judgments of learning (JOL) and the delayed-JOL effect. Memory & Cognition, 20(4), 374–380. DOI: 10.3758/BF03210921