にんちてきふきょうわ|cognitive dissonance|心理学
「物はよく考えて、必要なものだけ買う」と決めていたのに、勢いで高価なカメラを買いました。しばらくたってもほとんど使っていません。棚に置かれたカメラが目に入るたび、少し落ち着かなくなります。そして「いつか旅行で役に立つ」「いい物は長く使える」と、買った理由を考え始めます。
自分が大切にしている考えと、実際にしたことがうまくかみ合いません。このような認知の不整合に伴う不快な状態を、認知的不協和といいます。英語ではcognitive dissonanceです。その不快さをきっかけに、人は考え方や行動を変えて、食い違いを小さくしようとします。認知的不協和理論は、この動きを説明しています。
「認知」には、自分について知っていることも含まれる
この理論を1957年の著書で体系化したのが、心理学者レオン・フェスティンガーです。ここでいう認知は、知識、意見、信念に加えて、「自分は何をしたか」という理解も含んでいます。カメラの例なら、「必要なものを選んで買いたい」と「使わないものを買った」が、同時に意識に上っています。「必要なものなら使うはずだ」という見通しがあるからこそ、棚に置いたままの状態が気になります。
二つの考えがどのくらいぶつかるかは、本人にとっての意味によって変わります。同じ買い物でも、道具を集めることを楽しんでいる人なら、使う回数の少なさはあまり問題にならないかもしれません。「無駄な買い物をしない自分でありたい」と強く思う人には、その一台が気になることがあります。
身近な品物についての知識にも、同じ構造があります。「この製品は丈夫だと思う」と「買ったばかりなのに壊れた」が並ぶと、評判を考え直したり、自分の使い方に原因を探したりするかもしれません。何を信じ、どんな事実に出会ったのかによって、引っかかる場所は変わります。
日常の説明例です。使っていない買い物があれば必ず不協和が起こる、という意味ではありません。
退屈な作業を「楽しかった」と伝える実験
1959年、フェスティンガーとジェームズ・カールスミスは、単調な作業を使ってこの考えを調べました。参加した男子大学生は、糸巻きをトレーに並べては取り出す作業と、台に差した棒を少しずつ回す作業を、それぞれ30分ずつ繰り返しました。その後、次の参加者役として待っている人に、作業は楽しく面白かったと伝えるよう頼まれました。
その説明を引き受けた報酬は、あるグループでは1ドル、別のグループでは20ドルでした。そうした説明を頼まれないグループも用意されました。その後、別の担当者との面接で作業をどう感じたか尋ねると、1ドルのグループは、20ドルのグループや説明をしなかったグループより、作業を好意的に評価していました。
研究者は、20ドルなら「お金のためにそう言った」という理由で、自分の発言を説明しやすいと考えました。1ドルでは、その理由だけでは、自分の発言に納得しにくくなります。そこで「作業には面白いところもあった」と感じ方が変われば、経験と発言の間の食い違いが小さくなります。
この節の出典:D2
自分で選んだ、という意味
発言に至る事情は、その後の感じ方に関わります。たとえば、練習用の討論で、くじによって決まった立場を代弁するときには、「練習の役割だから」と説明できます。自分で引き受け、人にも勧めた意見であれば、それが自分の考えとどうつながるのかが気になりやすくなります。
1967年、ダーウィン・リンダーらは、自分の意見に反する文章を書く課題で、報酬の説明と依頼の仕方を変えました。報酬を知ってから断ることもできる条件では、少額の方が、書いた内容に近い意見を示しました。もう一つの実験では、詳しい課題や報酬を知らされる前に参加を引き受けたグループも設けました。こちらでは、報酬が多い方が、書いた内容に近い意見を示しました。
日常の頼まれごとにも、好意、責任、断りにくさなど、いくつもの事情があります。「相手を助けたかったから」という理由で自分の発言に納得できれば、意見まで変える必要は小さくなります。どんな事情で引き受けたかが、その後の考え方にも関わります。
不快さと、その後の変化を調べる
意見が変わると、その人の不快さも和らぐのでしょうか。1994年、アンドリュー・エリオットとパトリシア・ディヴァインは、学費の値上げに強く反対していた学生に、値上げを支持する文章を書くよう依頼しました。書くかどうかは本人の自由だと伝え、不快感や落ち着かなさも尋ねました。
研究の一つでは、文章を書いた後に、まず気持ちを尋ねるグループと、学費に対する意見を先に尋ねるグループを比べました。両グループとも、学費への反対は以前よりも弱くなっていました。気持ちを先に答えたグループでは不快さが強く、意見を先に答えたグループでは不快さが弱く報告されました。
研究者は、意見を表明する機会に、書いた文章へ自分の考えを近づけることで不協和を減らしたと解釈しました。
この節の出典:D3
食い違いを小さくする、いくつかの道
不協和を減らす道は複数あります。カメラを持ち出して写真を撮り始めれば、「使わないものを買った」という状況が変わります。買い物の意味を見直し、「趣味の道具を持つ楽しさも大事にしたい」と考えることもできます。
「今月は忙しくて使えなかったが、来月には撮影の予定がある」と、別の事情を加える場合もあります。また、「たまに使わないものを買うこともある」と考え、一度の買い物をあまり気にしなくなることもあります。
どの道をたどるかには、変えやすさも関わります。撮影の時間をつくるのが難しければ、買い物の意味を見直す方が容易かもしれません。「必要なものだけ買う」という方針を大切にしている人は、カメラを使う機会を増やしたり、手放したりすることを考えます。
行動した後で、自分の選択がもっともらしく見える理由を組み立てることは、事後合理化と呼ばれます。不協和を減らす過程でも、このような理由づけが現れることがあります。「使わない高価なカメラを買った」という引っかかりが、「長く使える道具を選んだ」という説明によって和らいでいく場合です。
参考記事→選択盲
二つは食い違いを小さくする反応の例です。対処法として勧める図ではありません。
考えに合わせて、行動が変わることもある
不協和が行動の変化につながる様子は、節水についての実験でも調べられました。1992年のクリス・アン・ディッカーソンらの研究では、大学のプールを利用した女性80人を対象に、シャワーで水を無駄にした経験を振り返ってもらったり、短いシャワーを勧めるチラシに署名してもらったりしました。参加者は、事前の質問で節水に賛成だと答えていました。
チラシは学内で掲示するためのもので、「自分にできるのだから、あなたにもできる」という意味の呼びかけがありました。過去の行動を振り返り、チラシへの署名もしたグループでは、どちらもしていない対照グループより、直後のシャワーで水を出していた時間が短くなりました。
節水の大切さは知っていても、普段のシャワーではつい水を出したままにしています。研究者は、署名と過去の振り返りによってこの食い違いが意識され、直後の行動を変える動きにつながったと解釈しました。
関連記事
この節の出典:D4
参考文献
- Festinger, L. (1957). A Theory of Cognitive Dissonance. Chapter 1: An Introduction to the Theory of Dissonance. Stanford University Press版。
- Festinger, L., & Carlsmith, J. M. (1959). Cognitive consequences of forced compliance. Journal of Abnormal and Social Psychology, 58(2), 203–210.
- Elliot, A. J., & Devine, P. G. (1994). On the motivational nature of cognitive dissonance: Dissonance as psychological discomfort. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 382–394.
- Dickerson, C. A., Thibodeau, R., Aronson, E., & Miller, D. (1992). Using Cognitive Dissonance to Encourage Water Conservation. Journal of Applied Social Psychology, 22(11), 841–854.
- Harmon-Jones, E., & Mills, J. (2019). An Introduction to Cognitive Dissonance Theory and an Overview of Current Perspectives on the Theory. In Cognitive Dissonance: Reexamining a Pivotal Theory in Psychology (2nd ed.), pp. 3–24. American Psychological Association.
- Linder, D. E., Cooper, J., & Jones, E. E. (1967). Decision freedom as a determinant of the role of incentive magnitude in attitude change. Journal of Personality and Social Psychology, 6(3), 245–254.
- Cushman, F. (2020). Rationalization is rational. Behavioral and Brain Sciences, 43, e28. オンライン公開2019年。