多裂筋

Oct 22, 2026

たれつきん|multifidus muscle|筋肉・脊柱

前へ伸ばした手で洗濯かごを持つと、腕に加えて背中の筋肉も働き、身体を支えます。多裂筋は、背骨のすぐ後ろに沿って左右に並ぶ筋肉です。筋肉をつくる細い筋線維が束になったものを、筋束といいます。多裂筋では、長さの異なる筋束が重なり、複数の椎骨をつないでいます。首から腰にかけて存在し、とくに腰の部分がよく発達しています。 MF-S1 MF-P1 MF-P4 MF-S4

多裂筋は、背骨を伸ばす動きや、動作中に椎骨どうしの位置関係を調節する働きに関わります。ボディワークでも、姿勢を保ちながら手足を動かすときに、背骨の近くで働く筋肉として登場します。 MF-S1 MF-P3 MF-P5

背骨の突起を斜めにつなぐ

背骨は、椎骨と呼ばれる骨が積み重なった構造です。椎骨の後ろ側には棘突起、左右には横突起などの突起があり、筋肉や靱帯が付着しています。多裂筋は棘突起の左右に位置し、下方の付着部から上方の棘突起へ向かって、斜めに走ります。 MF-S5 MF-S1

多裂筋背骨に沿う多裂筋の左右の分布を示す位置模式図。
背骨に沿う多裂筋の左右の分布を示す位置模式図。

多裂筋のおおまかな位置を示す模式図です。筋束の長さや重なり、正確な付着を説明する図ではありません。

付着する場所には、首・胸・腰で違いがあります。首では下位頸椎の関節突起、胸では胸椎の横突起、腰では腰椎の乳頭突起などにつながります。乳頭突起は、腰椎の上関節突起にある小さな出っ張りです。 MF-S1 MF-P8 MF-S6

腰の下部では仙骨や骨盤後方にも付着し、筋束は腱や、幅広い膜状の腱である腱膜を介してつながっています。背骨の外側には脊柱起立筋が並び、多裂筋はそれより背骨の中心に近い部分を占めます。腰の下部では、多裂筋の一部が脊柱起立筋に覆われず、比較的表面に近いところまで広がります。 MF-P1 MF-P8 MF-S3 MF-P9

短い筋束と長い筋束が重なる

腰部多裂筋の内部には、骨に近い短い筋束と、いくつもの椎骨をまたぐ長い筋束が重なっています。筋肉の中にも腱が入り込み、線維は腱に対して角度を持って配列しています。 MF-P2 MF-P8

2008年のRosatelliらは、10体の解剖標本から腰部多裂筋の三次元構造を調べました。この研究では第1〜第4腰椎の高さを浅部・中間部・深部に分け、深部ほど筋束が短いことを示しました。第5腰椎の高さでは、同じ中間部の構造は見られませんでした。 MF-P2

2026年のHaranoらは、9体の解剖標本で、棘突起への付着部から筋束をたどりました。一つの腰椎棘突起につながる筋束を、走行の異なる二つのまとまりとして記載しています。腱に向かって線維が斜めに集まる、羽状の構造も観察されました。健常な6人では第5腰椎の高さを超音波で調べ、解剖で見えた構造と照合しています。 MF-P8

筋束を浅い側から見るか、骨への付着部からたどるかで、そのまとまりの見え方が変わります。浅部・深部という呼び方にも、腰のどの高さにある筋束かという位置の情報が伴います。 MF-P2 MF-P8 MF-S3

背骨を伸ばす力をつくる

腰部多裂筋は椎骨の後方にあるため、収縮すると椎骨を後ろへ回転させる方向の力を生じます。前へ曲がった腰を起こす、伸展の動きに関わる力です。 MF-P3 MF-S1

筋肉がどの方向へ骨を動かすかは、付着位置と、関節の回転中心からどれだけ離れているかに関係します。5体の解剖標本と21人の画像を用いた力学解析では、腰部多裂筋の主な作用は腰椎の伸展で、長軸回りにひねる作用は小さいと報告されています。 MF-P3

腰部多裂筋は、筋全体の長さに対して筋線維が比較的短く、生理学的断面積が大きい構造をしています。2009年のWardらが8体の解剖標本を調べた研究でも、この特徴が示されました。生理学的断面積は、筋線維一本ずつを、走る方向に直角に切った面積を合計した指標です。多くの筋線維が並んで力を発揮できる構造が、背骨を支える働きに関わります。 MF-P4

姿勢を保ちながら椎骨の動きを調節する

手を前へ出して洗濯かごを持つと、かごと腕の重さは、体幹を前へ倒す方向に働きます。背中の筋肉がそれに応じた力を出すことで、体幹の向きが保たれます。多裂筋が腰椎を伸ばす方向へ生む力も、この調節に加わります。 MF-P3 MF-P6

腰椎の前側では、上下の椎体の間に椎間板があり、後ろ側では関節突起どうしが椎間関節をつくっています。椎体は、椎骨の前側で重さを支える太い部分です。椎間板と椎間関節でつながった椎骨は、隣り合う骨との間で少しずつ向きを変えられます。 MF-S5

背骨全体を動かすときには、一つひとつの椎骨の間でも小さな動きが起こります。短い筋束が骨の近くで力を及ぼす構造は、こうした局所の動きを調節するうえで重要です。浅部と深部は、筋束の長さや位置に応じて、体幹全体の向きと椎骨間の動きに異なる形で関わると考えられています。 MF-P2 MF-P5

参考記事→背骨の3つの動き

このとき、脊柱起立筋や腹筋群も活動し、椎間板や靱帯とともに身体を支えています。手を伸ばす方向や、持つ物の重さが変わると、必要な力の組み合わせも変わります。 MF-S5 MF-P5 MF-P9

腕の動きや予測に合わせて活動が変わる

2002年のMoseleyらは、腕を一度動かす課題と繰り返し動かす課題で、腰部多裂筋の浅部と深部の筋電図を記録しました。一度の腕の動きでは、浅部の活動開始の時刻が腕を動かす方向によって変わり、深部ではこの違いが見られませんでした。腕を前後に繰り返し動かすと、多くの参加者で浅部の活動は前に動かすときに大きくなり、深部では前後の両方向で活動の山が現れました。 MF-P5

翌年の研究では、健康な7人が立って両手で容器を持ち、そこへ重りを落としました。右の腰部多裂筋に細い電極を入れ、深部・浅部・外側部の反応を記録しています。落ちる時刻が予測できない条件では、多裂筋の三つの部分はほぼ同時に反応しました。 MF-P6

自分でボタンを押して重りを落とす条件では、落下前から深部の活動が増えました。浅部と外側部では、同じ事前の増加は見られませんでした。 MF-P6

参考記事→フィードフォワード

背中側へ分かれた神経が筋肉を動かす

多裂筋への運動の信号は、脊髄神経の後枝を通って届きます。脊髄神経は脊柱の外へ出ると前枝と後枝に分かれ、後枝は背中の側へ向かいます。腰部多裂筋では、後枝のさらに内側へ分かれた枝が筋肉へ入ります。 MF-S1 MF-S2

神経の末端と筋線維の接点は、神経筋接合部と呼ばれます。神経の末端から放出されるアセチルコリンが筋線維の受容体に作用し、筋線維に電気的な変化を起こします。これに続いて細胞内の貯蔵場所からカルシウムが放出され、収縮が始まります。筋線維が生み出した力は、周囲の結合組織や腱を通じて、骨の付着部へ伝わります。 MF-S4

画像と筋電図で働きを調べる

超音波画像やMRIでは、多裂筋の形や大きさを捉えられます。超音波は動いている筋肉を続けて映せるため、収縮に伴う厚さの変化も測れます。筋電図は、筋線維に生じる電気的な活動を記録する方法です。 MF-S3 MF-P7 MF-P9

2007年のKieselらは、症状のない5人について、第4腰椎の高さで多裂筋の厚さと筋内筋電図を同時に測りました。4種類の課題による筋活動は、姿勢を保ったまま最大限に力を出したときの筋電図を基準に、19〜34%の範囲にあり、この範囲では厚さの変化と筋電図の大きさに関連が見られました。 MF-P7

筋電図の電極は、筋肉の中にも皮膚の上にも置けます。2020年に健康な15人を調べた研究では、うつ伏せで腕を上げるなどの課題を行う際、多裂筋と脊柱起立筋がともに活動していました。皮膚上の電極は、狙った筋肉に加えて、近くの筋肉の信号も拾っていました。測定する高さや深さ、電極を置く場所によって、記録に含まれる筋線維の範囲が変わります。 MF-P9

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関連語

脊柱、脊柱起立筋、椎骨、運動単位、筋電図

出典

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