腸腰筋

Oct 21, 2026

ちょうようきん|iliopsoas|筋・運動器

階段に足をかけるとき、太ももは骨盤に近づく方向へ持ち上がります。この股関節の動きで力を発揮する筋の一つが腸腰筋です。腰の背骨から始まる大腰筋と、骨盤の内側に広がる腸骨筋を合わせた名前で、体の左右にあります。 IP-S1 IP-S2

二つの筋はお腹の奥から脚の付け根を通り、太ももの骨へ続きます。股関節を曲げる働きに加え、脚と体幹の位置関係を保つ場面にも参加します。 IP-S1 IP-S2 IP-P3 IP-S5

背骨から始まる大腰筋、骨盤に広がる腸骨筋

大腰筋は、腰椎の左右に沿って縦に伸びる、厚みのある筋です。最下部の胸椎から腰椎にかけて、椎体の側面や椎間板、横突起に付着します。椎体は背骨を構成する骨の前方の大きな部分、横突起は左右に出た骨の突起です。大腰筋は腹部の後ろ側の壁に位置し、下方へ進むにつれて骨盤の中を通り、股関節へ向かいます。 IP-S1

腸骨筋は、大腰筋の外側にあります。骨盤の上部をつくる腸骨の内面には、腸骨窩という浅いくぼみがあります。腰に手を当てたときに触れる骨の上縁が腸骨稜で、腸骨窩はその内側の面に当たります。腸骨筋はここに広く付着し、扇状に広がった筋線維が脚の付け根へ集まります。筋線維は筋肉を構成する細長い細胞で、それが集まった束を筋束といいます。背骨に複数の付着部を持つ大腰筋と、骨盤の内面から集まる腸骨筋が、股関節の前で近接する構造です。 IP-S2 IP-S3 IP-S5

腸腰筋体幹前面の骨格に重ねて、左右の大腰筋と腸骨筋を示した図。大腰筋は腰椎の左右に沿って縦に伸び、腸骨筋は骨盤の内側にあり、どちらも股関節の前へ向かう。腰椎の位置にラベルを付けている。

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大腰筋は背骨から、腸骨筋は骨盤の内面から股関節へ向かいます。図は二つの筋肉の大まかな位置関係を示しています。起始・停止の正確な付着点や、股関節の動作は示していません。

小腰筋という名前との関係

大腰筋の前には、小腰筋という細い筋がある人もいます。小腰筋は下部胸椎と上部腰椎の付近から始まり、長い腱となって骨盤の前上部へ付きます。下側の付着部は股関節を越えず、骨盤のところで終わります。 IP-S7

腸腰筋という名前は、通常、大腰筋と腸骨筋をまとめて使われます。小腰筋が付くのは、腸恥隆起や恥骨櫛と呼ばれる、骨盤の上縁に沿った部分です。小腰筋は生まれつき存在しない人もおり、存在する場合には体幹を曲げる働きを補助します。 IP-S1 IP-S2 IP-S7

股関節の前を通り、大腿骨へ届く

脚の付け根には、骨盤の前方を斜めに走る鼠径靱帯があります。腸腰筋はその奥をくぐり、股関節の前面を通って、大腿骨の小転子へ向かいます。小転子は太ももの骨の上部、内側のやや後ろ寄りにある突起です。大腰筋から小転子へは、丈夫な結合組織である腱が続き、筋線維の生み出した力を骨へ伝えます。 IP-S1 IP-S2 IP-S4 IP-S5

参考記事→結合組織

この付近では、大腰筋と腸骨筋の筋束や結合組織が連続しています。2026年に80体、左右合わせて160側を調べた研究では、両者が合流する場所は鼠径靱帯の上、靱帯の深部、その下に分かれていました。各型から採った組織標本でも、二つの筋の間を横断する筋線維や腱の線維が確認されています。 IP-P1

大腿骨への付き方にも幅があります。28体から片側ずつを調べた別の研究では、骨へ向かう腱の数は一本から三本でした。腸骨筋の外側の一部は、筋線維のまま小転子の前面や、その下の大腿骨へ付いていました。 IP-P2

脚を持ち上げる力が生まれる仕組み

股関節は、骨盤側のくぼみである寛骨臼と、大腿骨の丸い骨頭でできています。大腿骨が骨盤に対して前方へ動き、太ももが体幹に近づく動きが股関節の屈曲です。腸腰筋は関節の前側を通るため、張力が生じると、この屈曲方向に骨を回す力が働きます。 IP-S1 IP-S2 IP-S4

椅子に座った姿勢から片脚を持ち上げる場面では、骨盤側が支えられ、大腿骨側が動きます。立って太ももを前へ上げるときも同じ方向の作用が使われます。腸腰筋は股関節をまたぎ、大腿骨で終わります。足を段に載せる実際の動作では、股関節の屈曲に、膝をまたぐ筋による膝の屈曲が組み合わさります。 IP-S1 IP-S2

参考記事→股関節から動く

椅子に腰かけて太ももを座面に載せた状態と、立って太ももを同じ向きに上げて保つ状態では、脚を支える条件が変わります。立って脚を上げたままにするには、脚の重さで太ももが下がる方向の力に対して、股関節を曲げる筋の力が必要です。脚を上げたまま止めると、股関節の角度はほとんど変わらなくても、筋は力を出し続けます。 IP-S5 IP-S8

脚側が支えられている場合には、骨盤や体幹の側が大腿骨へ近づく動きにも力が使われます。筋の両端に張力が伝わるため、どちら側が動くかは、そのときに体を支えている場所と、周囲の筋の働きによって変わります。座位で体を前へ傾けるボディワークでも、大腿骨と骨盤の角度が変わります。腰椎も一緒に曲がる場合には、股関節と腰の両方で動きが起こります。大腰筋の上側にある腰椎の位置も、この動きとともに変わります。 IP-S1 IP-S2 IP-S5

股関節を曲げる働きには、太ももの前にある大腿直筋や、斜めに走る縫工筋なども加わります。大腿直筋は膝を伸ばす作用も持ち、縫工筋は膝を曲げる作用も持ちます。複数の筋が、それぞれの関節に及ぼす力を組み合わせて、脚全体の形を変えます。 IP-S8

腰と骨盤を支える場面での働き

大腰筋は腰椎に直接付着しているため、その力は股関節と腰の両方に作用します。腸骨筋の上側の付着部は骨盤にあり、こちらの力は骨盤と大腿骨の間に伝わります。腰椎まで力が届く大腰筋と、骨盤から力が伝わる腸骨筋は、動作に応じて活動の仕方を変えています。 IP-S1 IP-S2 IP-P3

健康な成人7人を対象にした研究では、超音波で位置を確認しながら、二つの筋へ細い電極を入れました。筋線維に生じる電気的な活動を記録する筋電図によって、大腰筋と腸骨筋が働く時期や大きさを同時に調べています。 IP-P3

股関節を曲げる力が必要な課題では、二つの筋がともに活動しました。背筋を伸ばした座位や、測定した筋とは反対側に荷重が加わる課題では、主に大腰筋の活動が高まる場面がありました。立位で反対側の股関節を伸ばす課題では、主に腸骨筋の活動が高まり、研究者は骨盤を保つ役割との関係を考えています。 IP-P3

二つの筋へ神経が届く経路

大腰筋には、腰部の脊髄神経の前枝から分かれる枝が届きます。腸骨筋を動かす神経は大腿神経です。大腿神経も腰部の脊髄神経に由来し、複数の前枝からの線維が合わさった神経として骨盤内を進み、腸骨筋へ枝を送ります。 IP-S1 IP-S2 IP-S6

大腰筋の後方部分には、腰神経叢という、脊髄神経の前枝が合流し、再び分かれる神経の網があります。ここから出る枝は、大腰筋の周囲を通って腹部や下肢へ向かいます。大腿神経は大腰筋の外側へ出て、腸骨筋との間を下ります。骨盤内は、筋だけでなく、神経や血管、腹部の臓器が近くに位置する場所です。 IP-S1 IP-S6

歩く速さに合わせて活動が変わる

歩行では、脚を後方に残した位置から、次の一歩に向けて前方へ運びます。この股関節の屈曲に腸腰筋が参加します。一歩の中で筋の活動には強まる時期と弱まる時期があり、歩く速さに応じてタイミングも変わります。 IP-P4

健康な成人11人がトレッドミルで歩いたり走ったりする研究では、大腰筋と腸骨筋を含む五つの股関節屈筋の活動を、筋内の電極で測定しました。歩行と走行を合わせて、毎秒1〜6メートルの速度条件を調べています。 IP-P4

歩く速度が上がると、股関節を曲げる動きに関係する活動が、全体として早い時点から始まる傾向が見られました。大腰筋と腸骨筋の活動の大きさにも、速度や歩行・走行の違いに応じた変化がありました。 IP-P4

関連語

股関節、骨盤、腰椎、大腰筋、腸骨筋、多裂筋、腱、筋収縮

出典

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