ボールを的へ投げるとき、「手首をどう動かすか」を考えることもあれば、「ボールを的の中央へ届ける」と考えることもあります。目指す動作は同じでも、注意を向ける対象は異なります。
運動学習の研究では、自分の身体の動きに向ける注意を内的注意焦点、動作が周囲にもたらす効果に向ける注意を外的注意焦点と呼びます。指導の一言によって、何に注意が向くのかを考えるための区別です。
出典:N06-01
「外を見ること」とは違う分類
内的注意焦点の例は「膝の曲がり方に注意する」「指先の動きを意識する」などです。外的注意焦点では「板を水平に保つ」「ボールを狙った場所へ運ぶ」のように、動作の効果へ注意を向けます。どちらに当たるかは、目を開けているか、どこを見ているかだけでは決まりません。
たとえば前方の的を見ていても、頭の中でずっと肘の角度を調節していれば、注意の内容には内的焦点が含まれます。反対に、自分が動かす道具の動きを思い描く場合には、目に見える位置だけでなく、その効果が注意の対象になります。
研究でいう外的焦点は、運動と無関係な景色や音へ気をそらすこと全般ではありません。「何を達成しようとしているか」と注意の対象が結びついている点が重要です。指導の言葉を比べるときには、身体の部位名が含まれるかだけで判断せず、実際に何を調節しようとしているかを確かめます。
また、「床を感じる」という同じ言葉でも、足裏の感覚を調べているのか、床をどう押すかに注意しているのかで内容が変わります。言葉だけで分類せず、本人が何に注意を向けたかを聞くと、指示がどう伝わったかを確かめられます。
同じ動作への、違う指示を比べた研究
1998年、ウルフらは、スキーのような左右の動きを行う装置で、33人の参加者の練習を調べました。足の使い方へ注意を向ける群、足のすぐ下にある装置の車輪へ注意を向ける群、注意焦点を特に指示しない群を比較しました。参加者は2日間練習し、3日目に保持テストを受けました。
保持テストは、練習から時間を置いた後、身についた動きを確かめるものです。この研究では、車輪へ注意を向けた群の学習が、他の2群より良好でした。別の実験では16人が左右に傾く板の上でバランスを取り、自分の足に注意を向ける条件と、板の目印に注意を向ける条件を比べました。こちらも2日間の練習後の保持テストで、目印へ注意を向ける条件が良好でした。
注目したいのは、参加者にまったく違う運動をさせたのではなく、同じ課題に取り組む際の指示を変えた点です。また、練習している瞬間の成績だけでなく、時間を置いて確かめたことで、運動学習との関係を調べています。
出典:N06-01
跳ぶ高さと筋活動は、別々に測る
2010年、ウルフらは、健康で身体活動を行っている大学生8人に、跳び上がって高い位置の目盛りに触れる課題を行ってもらいました。注意を指先へ向ける条件と、触れる目盛りへ向ける条件で、それぞれ10回ずつ跳びました。どちらの条件を先に行うかは、参加者の間で偏らないようにしました。
目盛りへ注意を向ける条件では、到達した高さがより大きくなりました。同時に記録した脚の5つの筋の電気的活動は、全体として低くなる結果でした。ただし、筋肉が活動し始める時刻には、注意焦点による差は確認されませんでした。
筋電図は筋肉の活動に伴う電気信号を記録します。主観的な「力み」や、気持ちの緊張を直接測るものではありません。この研究が示すのは、限られた参加者の跳躍課題で、到達成績と筋電図の特徴が注意の指示に伴って変わったことです。身体のどこへ注意を向けても過緊張が起こる、という一般則には広げず、課題に即して読むことが大切です。
出典:N06-02
結果と、その説明の仮説を分ける
外的焦点の利点を説明する考え方の一つに、動きを細かく意識的に管理しようとすると、自動的な調整が制約されるという仮説があります。目標とする動作の効果へ注意を置くことで、細部の制御を逐一指示せずに済む、という説明です。
これは研究結果を説明する仮説で、外的焦点によって特定の神経回路が働くことを、すべての課題で直接確かめたわけではありません。「意識すると下手になる」ではなく、何を意識するかによって動きの調整が変わる、と捉えると役立ちます。
参考記事→過コントロール
外的焦点の指示自体も、意図的に注意を向ける働きを使います。注意を向ける働きと、自動的な運動調整は組み合わせて考えられます。達成したい結果を意識しながら、細かな身体の協調は一つひとつ言葉にせず進める、という進め方もあります。
何を上達とするかで、評価が変わる
2002年のウルフらの研究では、初心者と上級者を含む48人が、バレーボールのサーブを練習しました。身体の動きに関する助言と、動作の効果に関する助言を比較すると、後者では練習中と保持テストでサーブの正確さが高くなりました。一方、評価した動作の質には、助言の種類による違いがありませんでした。
同じ実験でも、「狙いに届いたか」と「どのような動き方だったか」は別の評価です。この研究では、外的焦点で正確さは向上しましたが、評価した動作の質には違いがなかったのです。
身体部位の位置や動かし方を確かめる練習と、道具や対象へ働きかける技能の練習では、学びたい内容が違うこともあります。注意の指示を選ぶ前に、いま何を確かめたいかを言葉にすると、研究の知見をその場に合う形で考えやすくなります。
参考記事→ボディリマッピング
外的焦点の利点が報告された課題と、新しく取り組む練習の違いも見ます。目標、道具、習熟度、評価項目が違えば、同じ言葉が同じ働きをするとは限りません。研究で有効だった指示を出発点にしながら、実際の達成度を確認して調整するという使い方ができます。
出典:N06-03
指示を変え、達成したことを確かめる
ボディワークでは、身体の部位を感じ分ける説明と、環境へどう働きかけるかを示す説明を、区別して使えます。たとえば軽い物を台へ置く場面なら、「指を開くタイミング」と「物を静かに台へ置く」では、向ける注意が違います。これは注意の向け先の違いを示す例で、どちらが優れているかを示すものではありません。
試すときには、まず一つの目的を決め、指示を短くします。そして、狙った場所へ置けたか、動きやすさはどうだったかなど、結果と本人の感覚を分けて確かめます。多くの指示を一度に重ねると、どの違いが関係したのか分かりにくくなります。
一度のよい感触と、翌日にも使える変化は別々に観察できます。同じ条件でやり直したときにも役立つかを見れば、注意の向け方が、その場の動作と練習後の学習にどう結びつくか考えられます。内的・外的という区別は、自分に合う言葉を探し、何に注意を向けて学んでいるのかを確かめる手がかりになります。
関連記事→賢い体と自律の動き
関連記事→軽集中
関連語
運動学習、注意、フィードバック制御、身体図式
参考文献
- [N06-01] Wulf G, Höß M, Prinz W. (1998). Instructions for motor learning: differential effects of internal versus external focus of attention. Journal of motor behavior 30(2):169-179.
- [N06-02] Wulf G, Dufek JS, Lozano L, Pettigrew C. (2010). Increased jump height and reduced EMG activity with an external focus. Human movement science 29(3):440-448.
- [N06-03] Wulf G, McConnel N, Gärtner M, Schwarz A. (2002). Enhancing the learning of sport skills through external-focus feedback. Journal of motor behavior 34(2):171-182.
- [N06-04] Wulf G, Prinz W. (2001). Directing attention to movement effects enhances learning: a review. Psychonomic bulletin & review 8(4):648-660.