後ろを振り向く、靴ひもに手を伸ばす、椅子の上で座り直す。体幹は、そのたびに少しずつ形を変えています。体を支えながら、こうした動きを可能にしているのが脊柱、日常語でいう背骨です。椎骨という骨が積み重なり、下では仙骨・尾骨へと続いています。
背中を縦に走る一本の棒を想像すると、背骨は硬くて動かないものに思えるかもしれません。実際には、多くの骨とそのつながりからできています。骨と骨の間の小さな動きが重なることで、頭や体幹の位置を変えられます。
出典:N03-S01
首、胸、腰で、骨の形と役割が変わる
脊柱は、上から頸椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨に分かれます。通常、頸椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個です。首にある頸椎は頭を支え、胸椎には肋骨がつながります。腰椎は比較的大きく、上半身を支える骨格の下部をつくっています。
仙骨は通常5個の仙椎が癒合してできる骨で、脊柱の一部であると同時に、骨盤の後ろ側を構成します。その下に小さな尾骨が続きます。「背骨を動かす」といっても、成人の仙骨は一体になった骨として働きます。
同じ椎骨という名前でも、首の上部には特別な形があります。第1頸椎は環のような形で頭蓋骨を支え、第2頸椎には回旋に関わる突起があります。こうした違いを知ると、首、胸、腰で動かしたときの感覚が異なるのも、構造と結びつけて理解できます。
出典:N03-S01
背中の出っ張りは、椎骨の一部分
背中の中央に触れると、縦に並ぶ硬い出っ張りを感じられます。主に椎骨の棘突起という、後ろへ伸びた部分です。椎骨全体は、その出っ張りから体の奥へ広がっています。
典型的な椎骨には、前側の厚い部分である椎体と、後ろ側へ弓なりに続く椎弓があります。椎体は荷重を受ける部分です。椎体と椎弓に囲まれた穴が上下に連なると、脊柱管という通路になります。脊髄や、その下方に続く神経が通る空間です。脊柱が骨格の名前なのに対して、脊髄は中枢神経の一部を指します。
また、椎骨の突起には筋肉や靱帯が付きます。背中の表面で触れられる輪郭だけでなく、その奥には体を支える部分と神経を保護する空間がある。この奥行きを知ることが、背骨を立体的に捉える手がかりになります。
椎間板と関節が、支えと動きをつくる
隣り合う椎体の多くは、椎間板でつながっています。外側の丈夫な線維の層と、内側の水分を多く含む組織から成り、荷重を受けながら形を変える性質があります。骨と骨をつなぎ、動きを可能にする組織の一つです。ただし、首の最上部の関節や、一体になった仙骨の内部には、同じように椎間板が並んでいるわけではありません。
椎骨の後ろ側では、上下の関節突起が左右一対の関節をつくります。これを椎間関節と呼びます。前側の椎間板と後ろ側の関節が組み合わさることで、隣り合う椎骨はつながりを保ちながら動けます。靱帯もそのつながりを支えています。
さらに周囲には、多裂筋や脊柱起立筋などの筋肉があります。骨や関節が動ける構造をつくり、筋肉が力を加えることで、動作中の姿勢が調節されます。脊柱は骨格、多裂筋は筋肉の名前です。骨・関節・筋肉を区別したうえで、それぞれがどう協力しているかを見ると、背骨の働きを理解しやすくなります。
参考記事→多裂筋
「椎骨」は一つひとつの骨、「椎間板」は主に椎体同士をつなぐ組織、「椎間関節」は後ろ側にある関節、そして「脊柱」はそれらが連なる骨格全体です。名前が似ていても、全体と部分、骨とつなぎ目という違いがあります。この区別ができると、背中についての説明を読んだとき、どの構造の話をしているかをたどりやすくなります。
小さな動きが重なって、体幹の動きになる
背骨を前へ曲げる方向を屈曲、後ろへ反らす方向を伸展、横へ曲げる方向を側屈、軸のまわりにねじる方向を回旋と呼びます。体幹全体では大きく見える動きも、複数の椎骨の間の動きが重なって生まれます。
動きやすい方向は部位によって違います。頸椎は頭の向きを変える動きに関わり、胸椎は肋骨を伴って動きます。腰椎では前後に曲げる動きが可能である一方、軸まわりの回旋は比較的小さくなります。関節面の向き、椎間板、肋骨、周囲の組織などが、この違いに関わっています。
日常の「振り向く」動作には、首だけでなく胸や骨盤の向きの変化も加わります。また、床の物へ手を伸ばす動作では、脊柱の屈曲と股関節の屈曲を組み合わせられます。体全体が動いた量と、一つの部位が動いた量を分けて見ると、同じ動作にもいくつかの組み立て方があると気づきます。
たとえば、胸の正面を大きく変えずに顔を横へ向ける場合と、胸の正面ごと横へ向ける場合を思い浮かべてください。どちらも「横を見る」動作ですが、首と体幹の動きの配分が違います。背骨がいくつもの節に分かれているため、目的に合わせて各部の動きを組み合わせられるのです。
参考記事→背骨の3つの動き
曲線を持ち、その形には幅がある
成人の脊柱を横から見ると、頸部と腰部は前方に、胸部と仙骨部は後方にふくらむ曲線が見られます。前方へふくらむ曲線を前弯、後方へふくらむ曲線を後弯と呼びます。どちらも、まずは曲がりの方向を表す言葉です。
曲線の深さや、骨盤との位置関係には個人差があります。無症状者160名の立位X線を調べた研究では、腰椎と骨盤の形状にいくつかのパターンが確認されました。症状のない人でも形は一様ではありません。なお、この研究で調べたのは形状の違いで、姿勢を変える治療の効果ではありません。
また、立っているときと、座っているとき、前へ手を伸ばしているときでは、背骨と骨盤の関係が変わります。人体図の曲線は位置を学ぶ目安として使い、動作中はその変化にも目を向けます。一つの形だけを、誰にとっても正しい姿勢とすることはできません。脊柱は、場面に応じて形を変えながら支える構造です。
背中を、動く部分の連なりとして捉える
安定した椅子で座り直す場面を思い浮かべてみます。骨盤を少し起こしたとき、腰や胸、頭の位置はどう変わるでしょうか。無理のない小さな範囲で観察すると、背中全体の形と、それぞれの部分の関係に注意を向けられます。
動きの練習では「背骨を一節ずつ動かす」と表現することがあります。これは細かな違いへ注意を向ける手がかりとして使えますが、感じた一点だけの椎骨が単独で動いたと確かめられるわけではありません。首、胸、腰、骨盤のあいだにどんな変化があったかを、わかる範囲から捉えていきます。痛みやしびれが出る動きは続けず、気になる症状は医療者に相談します。
脊柱を知ることは、背中の曲線を採点することよりも、体の軸にある構造と動きのつながりを知ることです。支える部分があり、動けるつながりがあり、それらが重なって日々の姿勢と動作をつくっています。
関連記事→仙骨
関連記事→靱帯
関連語
仙骨、仙腸関節、多裂筋、股関節、身体図式
参考文献
- [N03-S01] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 7.3 The Vertebral Column OpenStax, Rice University .
- [N03-S02] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.6 Anatomy of Selected Synovial Joints OpenStax, Rice University .
- [N03-S03] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.5 Types of Body Movements OpenStax, Rice University .
- [N03-S04] Roussouly P, Gollogly S, Berthonnaud E, Dimnet J (2005). Classification of the normal variation in the sagittal alignment of the human lumbar spine and pelvis in the standing position Spine 30(3):346–353 .
- [N03-S05] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 11.3 Axial Muscles of the Head, Neck, and Back OpenStax, Rice University .
- [N03-S06] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 13.2 The Central Nervous System OpenStax, Rice University .