買い物袋を持ち上げる、その高さで保つ、床へ静かに下ろす。どの場面でも腕の筋肉は働いていますが、筋肉の長さと力の関係は同じではありません。「力を入れる」を一種類の働きとして考えると、下ろすときの働きや、動かずに保つときの働きを見落としやすくなります。
等尺性収縮、短縮性収縮、伸張性収縮は、力を出している筋肉を、長さの変化によって分類した呼び名です。長さをほぼ保つのが等尺性、短くなるのが短縮性、外からの力によって長くなりながら力を出すのが伸張性です。ここでは骨格筋の働きを扱います。
力を出す働きを、長さの変化で分ける
日常語の「収縮」は縮むことを指しますが、筋生理学では、筋肉が活動して力を発揮することを含めて使います。その際の長さの変化は、筋肉自身の働きと、重力や他の筋などから加わる力の関係によって変わります。力を出したまま同じ長さにとどまる場合も、引き伸ばされる場合もあります。
短縮性収縮はコンセントリック収縮、伸張性収縮はエキセントリック収縮とも呼ばれます。日本語ではそれぞれ求心性収縮、遠心性収縮という表現も使われます。伸張性を「伸長性」と書く資料もあります。いずれも、神経が中枢へ向かう求心性線維、外へ向かう遠心性線維とは別の分類です。
この分類では、筋肉が活動しているかと、長さがどう変わるかを合わせて見ます。脱力した腕を他人に伸ばしてもらう場合と、自分で重さを受け止めながら肘を伸ばす場合では、同じように筋肉が長くなっても、その働きは異なります。
同じ重さを、上げる・保つ・下ろす
肘を体の横に置いて、手に持った重りをゆっくり持ち上げる場面を考えてみます。肘を曲げる上腕二頭筋などが力を出しながら短くなるのが、短縮性収縮の例です。腕を曲げる筋肉が、重りを下へ引く重力に抗して力を出しています。
途中で肘の角度を一定に保つと、等尺性収縮の例になります。止まっていても、筋肉の力が消えたわけではありません。重りや前腕によって肘を伸ばそうとする作用と、筋肉が曲げようとする作用がつり合い、その位置を保っています。
そこから重りを静かに下ろすときも、肘を曲げる筋は働き続けます。筋肉が長くなりながら、落下を調整するのが伸張性収縮です。腕を曲げる筋が、下りる速さを調整するブレーキのような役割を果たしています。この三つの働き方は、一連の動作の中で切り替わります。
関節が止まっていても、筋の内部は変わる
等尺性という言葉を使うときには、どこの長さを見ているのかも大切です。実際の体では、筋肉は腱につながっています。腱などの弾性のある組織が伸びれば、関節角度が同じでも、筋内部の長さは変わることがあります。
2003年にリーブスとナリチは、8人に足首を動かす運動や角度を保つ運動を行ってもらい、すねの前にある前脛骨筋を超音波で調べました。筋線維の束である筋束は、最大の等尺性収縮中に、安静時より短くなっていました。また、関節の動きから伸張性と分類した条件でも、筋束はほぼ同じ長さにとどまる様子を示しました。
この筋と実験条件での観察は、外から見える関節の動きと、筋束の長さの変化が一致するとは限らないことを示しています。日常の説明では関節運動に沿って分類できても、精密な研究では筋束、腱、筋と腱を合わせた全体を区別して測ります。
参考記事→腱
出典:N04-S3
動かないことと、楽であることは別
荷物を同じ高さで持ち続けると、外から見える動きは小さくても、疲れを感じることがあります。等尺性収縮でも、力を出すためにエネルギーを使います。動いていなくても、筋肉は働いているのです。
重い物をゆっくり下ろすときは、持ち上げるときとは違う感覚になることがあります。1991年のメナールらの研究では、健康な8人の筋内のエネルギー代謝を磁気共鳴分光法で測定し、短縮性、伸張性、等尺性の条件を比較しました。疲労を生じない強度範囲で、短縮性運動では機械的な出力と代謝的な消費が対応して増えましたが、他の条件では同じ増え方を示しませんでした。
運動の見た目、出している力、エネルギーの消費は、それぞれ違う側面です。研究で調べたのは、限られた強度での代謝の違いです。動作の負荷を理解するときには、収縮の種類に加えて、力の大きさや続ける時間を合わせて見ると整理しやすくなります。
長くなりながら働くことと、ストレッチの違い
伸張性収縮では、筋肉が活動していることが要点です。筋を緩めた状態で外から伸ばす受動的なストレッチとは、長さが増える点が共通していても、筋肉の活動の条件が違います。伸びる感覚だけで、どちらの状態かを厳密に判定することはできません。
また、伸張性収縮は「伸ばすから負担が軽い」という意味でもありません。1995年の野坂とクラークソンの研究では、筋力トレーニングに慣れていない男性12人が、強い負荷で肘を曲げる筋の伸張性運動を行いました。初回の運動後には、筋力や筋肉痛など、筋損傷の程度をみる指標に変化が見られました。これは強い負荷を用いた条件であり、日常の小さな動きが同じ影響を起こすという意味ではありません。
同じ伸張性収縮でも、負荷の強さや加える時間によって、日常の動きと強い負荷の運動は区別できます。
動きの途中にある働きを見つける
ボディワークでは、動き始めだけでなく、途中で保つ場面や元に戻る場面も観察の対象になります。同じ腕の運動でも、机に前腕を置く場合と、空中で重さを受け止める場合では、必要な筋の働きが変わります。腕の重さをどこで受けているかを比べる、身近な観察の例です。
一つの筋の長さの変化を表す収縮様式と、複数の筋が同時に働く共収縮は、別の見方です。等尺性収縮は、反対の筋が同時に活動していること自体を意味しません。また、腕のある筋が短くなるとき、反対側の筋が必ず伸張性収縮をしているとも限りません。長くなる筋がどれだけ活動するかは、課題に応じて変わります。
参考記事→共収縮
「上げたか、下げたか」だけでなく、どの筋が重さを受け、どの位置を保っているのかを見る。三つの収縮様式を知ると、静止も、ゆっくり戻る動きも、筋肉の働きが調節される過程として捉えられます。
関連記事→筋緊張
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関連語
共収縮、筋緊張、腱、運動学習
参考文献
- [N04-S1] UC San Diego Muscle Physiology. Types of contractions.
- [N04-S2] Betts JG, et al. Anatomy and Physiology 2e. 10.4 Nervous System Control of Muscle Tension. OpenStax; 2022.
- [N04-S3] Reeves ND, Narici MV. (2003). Behavior of human muscle fascicles during shortening and lengthening contractions in vivo. Journal of applied physiology (Bethesda, Md. : 1985), 95(3), 1090-1096.
- [N04-S4] Menard MR, Penn AM, Lee JW, Dusik LA, Hall LD. (1991). Relative metabolic efficiency of concentric and eccentric exercise determined by 31P magnetic resonance spectroscopy. Archives of physical medicine and rehabilitation, 72(12), 976-983.
- [N04-S5] Nosaka K, Clarkson PM. (1995). Muscle damage following repeated bouts of high force eccentric exercise. Medicine and science in sports and exercise, 27(9), 1263-1269.