きょうしゅうしゅく|Co-contraction|運動制御・神経生理学
水の入ったコップを持って移動するとき、手首を大きく動かさないように保ちながら、肩や肘を動かしています。このとき筋肉は、体を目的の方向へ動かすだけでなく、コップや体が不用意に揺れないようにも働いています。
共収縮とは、一つの関節に反対向きの作用をもつ筋肉が、同じ時間帯に活動することです。共同収縮とも呼ばれます。肘を曲げる筋肉と伸ばす筋肉のように、互いに拮抗する筋の活動が重なることで、関節の動きや外からの力への応じ方が変わります。
反対の働きをする筋肉が協力する
骨格筋は縮もうとする力を出し、腱を介して骨を引っ張ります。一つの関節を曲げる方向に働く筋と、伸ばす方向に働く筋は、互いに拮抗する関係にあります。ある動作を生む中心的な筋を主動筋、その作用に対抗する筋を拮抗筋と呼びます。役割は動かす向きや課題に応じて変わります。
「反対の働き」と聞くと、一方が働く間は他方が完全に休むように思えるかもしれません。しかし、実際の運動では両方が活動する時間があります。1987年のデ・ルカとマンブリトの研究では、ヒトの親指を曲げる筋と伸ばす筋から、運動単位の電気活動を同時に記録しました。運動単位とは、一つの運動ニューロンと、その神経細胞が支配する筋線維の組です。両筋を同時に活動させて関節を保つ課題では、両側の運動単位に協調した活動が観察されました。共収縮は、反対の作用をもつ筋を一緒に使う運動制御として考えられます。
動かさずに支えるときにも筋肉は働く
コップを持つ例では、反対向きの作用をもつ筋が一緒に力を出すと、関節を回す力の一部が打ち消し合います。同時に、外から関節を動かそうとする力に抵抗する性質も変わります。
この「動かされにくさ」を表す力学的な量の一つが、関節のスティフネスです。同じ角度に見える関節でも、筋の活動の組合せによって、押されたときの動き方は違います。共収縮は、こうした性質を調整する方法の一つです。
動きの大きさと、筋活動の大きさは別に見る
関節の動きを考えるときには、筋肉が出す力と、関節を回そうとする力を分けると理解しやすくなります。関節を回す作用はトルクと呼ばれ、力の大きさだけでなく、その力が関節軸からどれくらい離れて作用するかにも左右されます。静止している関節では、筋と外力によるトルクがつり合うことで、その角度を保てます。
両側の筋が活動していても、トルクにつり合いがなければ、回転の速さが変化します。共収縮という語が表すのは「筋活動が時間的に重なること」であり、関節が止まっているかどうかは別の観察事項です。指を動かす場面にも、姿勢を保つ場面にも、この重なりは現れます。
そのため、動きが小さい人ほど筋活動が少ない、速く動く人ほど共収縮が多い、と見た目だけで判断することはできません。動作の結果を観察することと、その結果を生んだ筋の組合せを調べることは、別の問いです。
この節の出典:T06-CC0、T06-CC1、T06-CC3
同時に働く量によって、関節の応じ方が変わる
1994年にニールセンらは健康な成人7人を対象に、足首を下へ向ける筋だけを活動させた場合と、上へ向ける筋も同時に活動させた場合を調べました。足首へ小さな動きを加え、抵抗する力や反射を測定した研究です。強い共収縮では、比較した条件より足関節のスティフネスが高くなりました。一方、弱い共収縮では同じ変化が全員に見られたわけではありませんでした。
反対の筋が同時に働くという事実に加え、その強さ、関節の位置、課題の条件を見る必要があります。共収縮は、単に「入っている・入っていない」で良し悪しを判断できるものではありません。
この節の出典:T06-CC2
慣れない動作から、必要な働き方へ
新しい動きを覚えるときには、動きを正確にすることと、不安定にならないよう保つことの両方が必要です。2002年に大須らは、参加者に通常とは異なる軌道に沿って腕を動かしてもらい、肩や肘の筋電図を調べました。軌道や関節に必要な力がそろった成功試行を比較しても、多くの参加者で、練習に伴って共収縮の指標が小さくなる変化が見られました。
別の研究では、ロボットが腕の動きを不安定にする環境に対し、人は腕の硬さを方向に応じて調整して適応しました。どの方向にも強く固めるだけではなく、課題に合う応じ方を学ぶことができるのです。
筋電図では何を確かめているのか
共収縮を研究する際には、反対の作用をもつ筋の筋電図を同じ時間軸で比較します。筋電図は、筋の活動に伴う電気信号の記録です。大須らの研究では表面電極で肩や肘の周囲の筋活動を測り、共収縮の指標を計算しました。研究でいう「共収縮が減った」とは、定められた課題と計算方法で得た指標が変わったという意味です。
筋電図が小さくなった理由を考えるには、動作の条件もそろえる必要があります。たとえば練習後に腕を動かす軌道そのものが変われば、関節に必要な力も変わります。大須らが軌道や関節トルクをそろえた成功試行を比べたのは、単に違う動きになった影響と、学習に伴う筋活動の変化を分けるためです。
一方、スティフネスを知るには、外から関節をわずかに動かし、そのときの抵抗を調べる測定が使われます。電気活動と力学的な応答を合わせて見ると、どのように関節の安定を保っているかが分かってきます。
ボディワークでは「いつ、何を保っているか」を見る
動作がぎこちなく感じられるとき、共収縮という語は、反対の働きをする筋の活動がどのように重なっているかを考える手がかりになります。姿勢を保つ、外からの力に備える、慣れない動きを試す。それぞれで必要な活動は異なります。
観察の入口は、同じ動作でも支える場所や速さが変わると、力の入り方も変わるかという点です。ただし、見た目や触れた硬さだけで、特定の筋の共収縮量を測ることはできません。研究では筋電図や関節の力学的な測定を用います。
たとえば手を伸ばす動きは、肘を机に置く場合と、腕を空中で保つ場合に分けて考えられます。支え方が違えば、同じ場所へ手を運ぶ場合でも、必要な筋の働きは変わります。比べるときに支え方などの条件をそろえると、力の入り方の違いを具体的に捉えやすくなります。
「力を抜く」という一言だけで済ませず、何を動かしたいのか、何を保ちたいのか、どの方向の揺れに備える必要があるのかを言葉にすると、体の使い方を整理できます。共収縮はその中で、動作の安定と柔軟な調整を一緒に考えるための用語です。
この節の出典:T06-CC1、T06-CC3、T06-CC4
関連語
参考文献
- [T06-CC0] Betts JG et al. Anatomy and Physiology 2e. 11.1 Interactions of Skeletal Muscles, Their Fascicle Arrangement, and Their Lever Systems. OpenStax, 2022.
- [T06-CC1] De Luca CJ, Mambrito B. Voluntary control of motor units in human antagonist muscles: coactivation and reciprocal activation. J Neurophysiol. 1987;58:525–542.
- [T06-CC2] Nielsen J, et al. Segmental reflexes and ankle joint stiffness during co-contraction of antagonistic ankle muscles in man. Exp Brain Res. 1994;102:350–358.
- [T06-CC3] Osu R, et al. Short- and long-term changes in joint co-contraction associated with motor learning as revealed from surface EMG. J Neurophysiol. 2002;88:991–1004.
- [T06-CC4] Burdet E, et al. The central nervous system stabilizes unstable dynamics by learning optimal impedance. Nature. 2001;414:446–449.