きんきんちょう|muscle tone; tonus|生理・バイオメカニクス
筋緊張は、姿勢や運動を支える筋肉の活動や、力を抜いた手足が動かされるときの抵抗を表す言葉です。筋トーヌスとも呼ばれ、生理学と診察では着目する点が異なります。たとえば、前腕を机に預けるときと、机から離して空中に保つときでは、筋肉の働きが変わります。腕を動かさずに保つだけでも、その重さを支える力が必要なのです。
姿勢を保つ筋肉の活動
立っているときや、腕を一定の位置に保つときには、重力に対して体を支える筋肉の力が必要です。外から見て動きが小さくても、支えに必要な筋肉は活動しています。姿勢を保つための持続的な活動は、姿勢筋緊張と呼ばれることがあります。
体の支え方が変わると、必要な筋肉の力も変わります。机に前腕を預ければ、自分の筋肉で腕を持ち上げ続ける力を減らせます。人に腕の重さを支えてもらう場合も、その支えに応じて、姿勢を保つための筋活動を減らせます。
筋肉に収縮の指令を伝えるのは、α(アルファ)運動ニューロンという神経細胞です。筋肉をつくる細長い細胞は筋線維と呼ばれます。一つのα運動ニューロンと、それにつながる筋線維をひとまとまりにしたものが、運動単位です。活動する運動単位の数や、神経が信号を送る頻度が変わると、筋肉が出す力も変わります。
診察では、動かされるときの抵抗をみる
神経学的な診察では、本人が力を抜いている手足を検査者が動かし、その抵抗を調べます。自分の力で関節を動かすことを能動運動、外から動かされることを他動運動と呼びます。診察では、この他動運動への抵抗をもとに筋緊張を評価することが多いのです。
検査者は手足の重さを支え、関節を動かす方向や速さを変えながら、抵抗の程度と現れ方を確認します。筋肉が伸ばされたときの反応に加え、筋肉や関節周囲の組織そのものがもつ性質も、この抵抗に含まれます。
一方、自分でどれほど力を出せるかは、筋力の検査で調べます。たとえば肘を曲げてもらい、検査者が伸ばそうとしても、その位置を保てるかを確かめます。動かされたときの抵抗と、自分から出せる力は、別々に診察します。
二つの用法を説明する図です。正常・異常の比較や、診察・自己検査の手順を示すものではありません。
筋肉そのものにも伸びに抵抗する性質がある
筋肉は、神経からの信号を受けて力を出すとともに、伸ばすと元へ戻ろうとする性質をもっています。筋線維の内部を支えるタイチンなどのタンパク質や、筋線維の周囲を包む結合組織が、その性質に関わります。
参考記事→結合組織
ばねのように、変形すると元に戻ろうとする性質が弾性です。変形する速さに応じて抵抗を生む性質は粘性といい、両方を合わせて粘弾性と呼びます。筋肉の抵抗も、どこまで、どのように伸ばすかによって変わります。力学では、伸ばした量に対して抵抗する力がどれほど増えるかを、硬さ(スティフネス)として表します。
ヒトの指を曲げる筋肉を調べた研究では、筋電図に活動が見られない状態でも、指を伸ばす力への抵抗が記録されました。筋電図は、筋肉の電気的な活動を記録するものです。力を抜いた筋肉にも、伸びに抵抗する機械的な性質があります。
伸ばされた情報が筋活動へ戻る
筋肉の中には、長さや伸び縮みの速さを捉える筋紡錘(きんぼうすい)があります。筋肉が伸ばされると、その情報が感覚神経を通って脊髄へ届き、α運動ニューロンの活動を高めます。その結果、伸ばされた筋肉が収縮する反応を、伸張反射と呼びます。
例えば、外から肘を伸ばすと、肘を曲げる側の筋肉が引き伸ばされます。そこで伸張反射が起これば、肘を曲げる方向の力が加わり、伸ばしている人はその力を抵抗として感じます。反応の大きさには、伸ばす速さや、筋肉があらかじめどれほど活動しているかも関わります。
脊髄の回路には、筋肉や皮膚からの情報だけでなく、脳幹や大脳などからも信号が届きます。これらの信号に応じて、運動ニューロンの活動や、筋肉が伸ばされたときの反応が変わります。
参考記事→求心性線維
直前に動かしたことも、抵抗に影響する
同じ関節角度でも、その前にどのように動かしたか、どれくらい静止していたかによって、筋肉の抵抗が変わることがあります。
LakieとRobsonは、力を抜いた指の筋肉を動かした後、休ませる時間を変えて硬さを測りました。休む時間が長いほど硬さが増し、自分で指を動かしたり、外から動かしたりすると小さくなりました。このように、静止中に硬さが増し、動かすと再び小さくなる性質を、チキソトロピーと呼びます。筋肉では、小さく伸ばしたときの抵抗が、直前の動きや静止によって変わる現象として研究されています。
Hagbarthらの指の研究でも、筋電図上の活動がない状態で、先に指を曲げた後には抵抗が増え、伸ばした後には小さくなりました。筋肉の位置が同じでも、そこに至るまでの動きによって、次に動かすときの抵抗が変わるのです。
力を合わせて、関節の動かされやすさを変える
肘を曲げる筋肉と伸ばす筋肉のように、反対方向へ働く筋肉が同時に活動することを、共同収縮、または共収縮と呼びます。手足の重さや外からの力と釣り合いを保ちながら、両側の筋肉の活動量を変えると、関節の角度をあまり変えずに、外から動かされるときの抵抗を調節できます。
GomiとOsuは、成人4人に腕の位置を保ってもらい、装置で手先を水平面のいろいろな方向へ数mm動かして、抵抗する力を測りました。肩と肘の筋肉の共同収縮の配分を変えると、抵抗が大きくなる方向や、その大きさが変わりました。手を身体の近くに置くか、遠くに置くかによっても、方向ごとの硬さは変わりました。
道具を支えたり、手で物を押さえたりするときには、腕の位置を保ちながら外からの力を受けます。筋肉の活動の組み合わせを変えることで、そうした力を受けたときの腕の動かされやすさを調節できます。
この節の出典:P3
筋緊張の亢進と低下
他動運動への抵抗が通常より大きい状態は筋緊張亢進(こうしん)、小さい状態は筋緊張低下と呼ばれます。医療では、どの手足に現れるか、関節の動かし方でどう変わるかを、ほかの神経学的な所見と合わせて調べます。
筋緊張亢進の一つに、痙縮(けいしゅく)があります。筋肉を速く伸ばすほど伸張反射による抵抗が強くなることが、その特徴です。脳卒中や脊髄損傷などに伴ってみられます。パーキンソン病などでみられる筋強剛(きんきょうごう)では、ゆっくり動かしたときにも持続する抵抗が診察の手がかりになります。
脊髄損傷後に痙縮が現れた人と健康な人の足関節を調べた研究では、筋・腱などの力学的な抵抗と、伸張反射によって加わる抵抗を、関節の動きと力の記録に基づく計算で推定しました。前者には、あらかじめ活動している筋肉の硬さも含まれます。中間の角度では、損傷のある人の反射による抵抗が大きく、つま先をすねへ近づけきった位置では、二つの成分とも健康な人より大きくなりました。力を抜いた条件と力を出している条件でも、差の現れ方が変わりました。
筋肉の活動と抵抗を一緒に記録する
筋電図では、筋肉がいつ、どのように活動しているかを調べます。関節を動かす装置と力のセンサーを組み合わせると、筋活動、動かす力、関節角度の変化を対応させて記録できます。
先ほどの腕の実験では、参加者は画面に表示された筋電図を見ながら、肩と肘の筋肉の活動を保ちました。その状態で装置が手先を動かし、抵抗する力を測りました。筋活動の組み合わせを変えて同じ測定を繰り返すと、共同収縮によって手先の硬さがどう変わるかを調べられます。
指の実験では、同じ強さの力で指を伸ばし、動く速さや角度を測りました。小さな力で指を半ば曲げた位置に保つ仕掛けを使い、毎回同じ角度から伸ばしています。出発する角度と加える力を揃えたうえで、直前に指を曲げた場合と伸ばした場合の抵抗を比べたのです。
関連語
- 筋活動:運動ニューロンからの信号に応じた筋線維の活動。
- 筋力:筋肉が発揮できる力。
- 伸張反射:筋肉の伸びをきっかけに生じる反射性の収縮。
- 筋紡錘:筋肉の長さやその変化に関わる感覚受容器。
- 粘弾性:弾性と粘性を合わせた物質の機械的な性質。
- 共同収縮:反対方向へ働く筋肉が同時に活動すること。
参考文献
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