体性感覚野

Oct 25, 2026

たいせいかんかくや|somatosensory cortex|脳・身体表現

目を閉じて、服の縫い目を指でなぞると、平らな布と、少し盛り上がった縫い目の違いがわかります。どの指で触っているか、縫い目がどちらへ続くかも感じられます。こうした身体の感覚情報を処理する大脳皮質の領域が、体性感覚野です。よく知られている一次体性感覚野に加えて、二次体性感覚野などがあり、ほかの脳領域ともつながりながら、触れるものや自分の身体を捉える働きを支えています。

この節の出典:C_S1、C_S2、C_S3

大脳のどこにあるのか

脳の表面を覆う大脳皮質には、溝と、その間に盛り上がった部分があります。大脳の上側から側面へ走る深い溝の一つが中心溝です。中心溝のすぐ後ろの盛り上がりを、中心後回と呼びます。一次体性感覚野は、中心溝の後ろ側の壁から中心後回へ広がり、大脳の内側へ続いています。英語では primary somatosensory cortex といい、S1と略されます。

中心溝の前側には、身体を動かすことに深く関わる一次運動野があります。感覚と運動の領域が隣り合い、互いに情報をやりとりしています。布をなぞるときも、指を動かすことと、そこから新しい感覚を受け取ることが続いています。

二次体性感覚野はS2と呼ばれ、大脳の側面にある外側溝の上側の壁に位置します。溝の奥に折れ込んでいるため、脳の表面からは見えにくい部分です。中心後回にあるS1と、外側溝に沿うS2は、互いにつながっています。

この節の出典:C_S1、C_S2

図の説明:S1は中心溝の後壁から中心後回へ広がり、大脳の内側にも続きます。S2は外側溝の奥の上壁にあります。

体性感覚野大脳を外側から見た模式図。前が左、後ろが右。中心溝の位置と、その前側の一次運動野(M1)、後ろ側の一次体性感覚野(S1)の位置を、3本の指示線と小さな環で示している。

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大脳の外側面で位置関係を示した模式図です。領域の正確な境界や内側面への広がり、運動前野・補足運動野・二次体性感覚野の位置は示していません。

皮膚から脳へ届く情報

布に触れると、皮膚にある感覚受容器が押され方や振動などに反応し、その情報が神経の信号として伝わります。指を動かすときには、筋肉などから届く固有感覚の情報も加わります。固有感覚は、自分の身体の位置や動きなどに関わる感覚です。

手からの細かな触覚の情報は、身体の各部へ延びる末梢神経から脊髄へ入り、脳の下部にある脳幹を通り、視床という脳の深部の構造を経て大脳皮質へ届きます。この経路は、脳幹の一部である延髄で左右が交差するため、右手の情報は主に左側のS1へ、左手の情報は主に右側のS1へ伝わります。顔からの情報は、主に三叉神経を通る経路で脳に入ります。

参考記事→求心性線維

体性感覚には、触覚や固有感覚に加えて温度や痛みも含まれます。それぞれの情報は、複数の神経経路や脳領域で処理されます。たとえば痛みでは、痛む場所を捉える働きに加えて、不快さや注意に関わる脳の働きも関係しています。体性感覚野は、この広い仕組みの一部です。

この節の出典:C_S3、C_S5、C_S2

脳にある身体の地図

S1には、身体のどこから情報が届くかに応じた、おおまかな並び方があります。足や脚は大脳の内側寄りに、体幹や腕、手は上部から側面に、顔はさらに下方の部分に対応します。このような身体部位と脳の位置の対応を、体部位再現、あるいは体部位局在と呼びます。

その対応を人の形で描いたものが、感覚のホムンクルスです。手や唇が大きく描かれているのは、それらの感覚情報を扱う皮質の領域が、身体の実際の大きさに比べて広いことを表しています。指先や唇では、細かな違いを捉えるための感覚の仕組みが発達しています。

人の脳の働きを調べる方法に、fMRI(機能的MRI)があります。神経活動に伴って、血液中の酸素の状態が変わることを利用する方法です。細かな位置の違いを捉えられるfMRIを使い、成人の顔や指、足の皮膚へ振動を与えた研究では、刺激した身体部位に応じて、反対側のS1の異なる場所に信号が現れました。親指から小指までにも、おおまかな順序が認められています。

この節の出典:C_S1、C_S2、C_S4、C_P1

図の説明:身体の各部の感覚に対応する領域にはおおまかな並びがあります。手や唇は身体の寸法に比べて広い皮質の領域で扱われます。

触れた場所から、形や手ざわりへ

S1と総称される範囲は、一般に3a野、3b野、1野、2野という領域に分けられます。この番号は、皮質の細胞の並び方などに基づいて区分した名称です。3a野は筋肉や関節に由来する固有感覚、3b野は皮膚からの触覚と深く関わります。2野では、皮膚からの情報と手の姿勢などの情報が組み合わされます。それぞれに身体の部位に対応する並びがあり、S1の中にも身体の地図が複数あります。

参考記事→固有受容感覚

体性感覚野の神経細胞には、身体のある範囲への刺激に反応する性質があります。この範囲を受容野と呼びます。指先の狭い範囲への接触に反応する細胞もあれば、複数の指からの情報を扱う細胞もあります。多くの細胞の反応を通して、接触の位置や広がりなどが処理されます。

サルが視覚の課題に取り組んでいる間に、3b野の個々の神経細胞の活動を、細い電極で記録した研究があります。指先の皮膚に棒状の突起を当てて滑らせると、突起の向きによって反応の強さが変わる細胞が見つかりました。

布の縫い目をなぞるときには、指先の凹凸の感覚に、指が動いた方向や距離の情報が重なります。S2や頭頂葉のほかの領域にも情報が伝わり、手ざわりや形の認識につながります。

この節の出典:C_S3、C_S2、C_P4

体性感覚野指で服の縫い目をなぞる場面。皮膚で感じる凹凸と指の位置・動きの情報を組み合わせ、縫い目の向きや形を捉える体性感覚野の働きを説明しています。
服の縫い目をなぞると、指先では平らな布と盛り上がった部分の違いを感じます。同時に、指がどこへ、どのくらい動いたかという情報も得られます。体性感覚野は、こうした身体から届く情報を処理する脳の領域です。S1・S2や頭頂葉のほかの領域が連携し、手ざわりや、縫い目が続く方向・形を捉えることにつながります。図は日常の一例で、神経の詳しい通り道は省略しています。

注意を向けると反応が変わる

服はいつも皮膚に触れていますが、別のことに夢中になると、その感触をほとんど意識しなくなります。縫い目の当たる場所へ注意を向けると、触れている範囲や圧迫感がはっきりしてくることがあります。

ヨハンセン=バーグらは、視覚と触覚の刺激を受けている参加者に、どちらかへ注意を向け、指定された感覚の刺激を見つける課題に取り組んでもらいました。fMRIで調べると、触覚に注意を向けたときには、視覚に注意を向けたときに比べ、S1とS2の信号の変化が大きくなりました。

ボディワークで床に触れる背中や、手を置かれた場所を感じるときも、触れられていることと、そこへ注意が向くことが重なります。

この節の出典:C_P2、C_S4

経験によって変わる感覚の表現

体性感覚野の働きには、経験に応じて変化する性質があります。これは、神経可塑性と呼ばれる性質の一例です。研究では、身体への刺激を一定の条件で繰り返し、その前後で感覚の課題成績と脳の反応を比べる方法が使われます。

プレーガーらの実験では、右利きの成人16人の右手人差し指に、小型の装置を取り付けました。指先の一定の範囲をまとめて刺激する条件を、3時間続けています。参加者には、刺激に注意を向けず、普段の仕事を続けてもらいました。その後、近い二つの接触点を二点として感じ分ける成績が改善しました。刺激を与えていない左手人差し指では、同じ改善は見られませんでした。

うち10人では、指へ短い電気刺激を加えたときに生じる脳の反応を、頭皮に付けた電極で記録しました。こうして記録する反応を、体性感覚誘発電位と呼びます。記録した反応をもとに、電気的な活動が生じた皮質の位置を推定すると、3時間の刺激の前後で変化が見られました。感じ分ける成績の改善が大きい参加者ほど、活動源の位置の変化も大きいという関連がありました。

翌日の測定では、二点を感じ分ける成績は刺激前の水準に戻りました。

この節の出典:C_P3

感じることと動かすことがつながる

指で縫い目をたどるとき、指が少し外れれば、盛り上がりの感覚が変わります。その情報を使って指の向きを戻し、縫い目の続きを確かめられます。触覚の処理は、その場で行っている動作にも使われています。

S1やS2は、運動に関わる領域や、身体と周囲の位置関係を扱う頭頂葉の領域とつながっています。手で物を探る場面では、身体からの情報、見えているもの、これまでに触れた経験などが関わり、次の動作が決まっていきます。

この節の出典:C_S2、C_S3

関連語

  • 体性感覚:触覚・固有感覚・温度感覚などの総称
  • 固有感覚:自分の身体の位置や動きなどに関わる感覚
  • ボディマップ:身体と神経活動などの対応を地図に例える言葉
  • 運動野:動作に関わる大脳皮質の領域
  • 神経可塑性:神経系が経験などに応じて変化する性質

主な出典

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