横隔神経

Oct 24, 2026

おうかくしんけい|phrenic nerve|神経・呼吸

静かに座っているときも、声を出す前に大きく息を吸うときも、横隔膜には収縮を起こす信号が届いています。その信号を運ぶのが横隔神経です。左右に一本ずつあり、首から胸の中を通って、胸とおなかを隔てる横隔膜へ達します。 PN-S1 PN-S3 PN-S4

ボディワークで胸やおなかの動きを感じている間にも、この神経を通って横隔膜の運動が調節されています。横隔神経には、筋肉へ信号を届ける運動線維と、横隔膜や周辺の組織から情報を中枢へ返す感覚線維が含まれています。 PN-S1 PN-S3

首の脊髄から横隔膜へ伸びる

脊髄は背骨の中を通り、脳とともに中枢神経系をつくっています。首の部分を頸髄といい、その前側には横隔膜を動かす運動ニューロンの細胞体が集まっています。細胞体は神経細胞の本体です。そこから長く伸びた軸索が、筋肉まで電気信号を運びます。 PN-S2 PN-S3

横隔神経は、主に第3〜第5頸神経の前枝から形成され、とくに第4頸神経が大きく関わります。前枝は、脊髄を出た頸神経が分かれた枝の一つです。図で使われるC3、C4、C5は、それぞれの頸神経の番号を表しています。 PN-S1 PN-P3 PN-S7

一本の横隔神経の中には、多数の軸索が結合組織に包まれて走っています。運動線維は頸髄から横隔膜へ、感覚線維は横隔膜などから中枢へと信号を運びます。運動と感覚の線維を含む神経を、混合神経といいます。 PN-S7 PN-S3

首から心臓のそばを通る経路

首では、横隔神経は前斜角筋という筋肉の前面を下ります。前斜角筋は、首の奥で頸椎と第1肋骨をつなぐ筋肉です。横隔神経は、鎖骨付近の鎖骨下動脈と鎖骨下静脈の間を通って胸の中へ入り、左右の肺の内側を下っていきます。 PN-S8 PN-S1

胸の中では、心臓を包む心膜と、胸腔の内壁を覆う壁側胸膜の間を通ります。肺の内側で気管支や血管が出入りする場所を肺門、そこにつながる気管支や血管などのまとまりを肺根といいます。横隔神経は、この肺根の前側を通ります。 PN-S8 PN-S1

右の横隔神経は心臓の右側、左の横隔神経は心臓の左側に沿って横隔膜へ達します。そこで細かい枝へ分かれ、右の神経は主に右半分、左の神経は主に左半分の筋肉へ分布します。 PN-S1 PN-S3 PN-S4

神経の枝分かれには個人差がある

頸神経からどのような枝が集まるかには、個人差があります。2008年のBannehekaの研究では、106体の解剖で横隔神経の構成を調べました。C4とC5からの枝で形成されるものが最も多く、C4からの線維はほぼすべての例に含まれていました。 PN-P3

横隔神経の太い幹である本幹に、細い枝が加わることもあります。副横隔神経と呼ばれる枝は、その一つです。この研究では、追加の枝が鎖骨下静脈の前側を通る場合と、後ろ側を通る場合が記載されています。首でいくつかに分かれている枝が、下方で本幹へ合流する形もあります。 PN-P3 PN-S3

神経の信号が筋肉の収縮に変わる

運動神経の末端と筋線維の間で信号を受け渡す場所を、神経筋接合部といいます。末端へ電気的な信号が届くと、アセチルコリンという伝達物質が放出されます。アセチルコリンは、ごく狭いすき間を渡り、筋線維の膜にある受容体に結びつきます。 PN-S5

これをきっかけに筋線維へ電気的な変化が広がり、細胞内の貯蔵場所からカルシウムが放出されます。アクチンとミオシンというたんぱく質が互いに滑るように動き、筋線維が力を発揮します。接合部のアセチルコリンは酵素によって速やかに分解され、受容体への作用が終わります。 PN-S5

一つの運動ニューロンの軸索は、筋肉の中で枝分かれして複数の筋線維につながります。このニューロンと、それが動かす筋線維のまとまりを運動単位といいます。横隔膜には多数の運動単位があり、それぞれの活動が合わさって筋肉全体の力になります。 PN-S3 PN-S5

横隔膜の筋線維が縮むと、中央の腱が下がり、胸腔が広がります。肺も広がって肺胞内の圧力が外気より低くなると、空気が流れ込みます。 PN-S4 PN-S6

意識せずに続く呼吸の信号

呼吸のリズムをつくり調節する神経回路は、脳の下部にある脳幹の延髄や橋にあります。そこから脊髄へ下る経路を通して、横隔膜の運動ニューロンへ信号が届きます。身体の中の二酸化炭素などに関わる情報を受け、呼吸の深さと速さが調節されます。 PN-S2 PN-S6 PN-S3

吸気の間には横隔膜へ向かう運動出力が増え、続く静かな呼気では活動が弱まります。吸気で広がった肺が弾性によって戻ると、空気が外へ流れます。次の吸気では再び運動出力が増え、横隔膜が収縮します。 PN-S6 PN-S3

横隔膜は骨格筋で、収縮を担う運動線維は体性運動神経に分類されます。体性運動神経は、手足の筋肉などへも信号を届ける経路です。横隔膜では、眠っている間も脳幹からの周期的な調節を受けて、この経路が働き続けます。 PN-S5 PN-S3

自分で吸う量やタイミングを変える

声を出す前に息を吸ったり、動作に合わせて呼吸をゆっくりにしたりするときには、大脳からの随意的な調節が加わります。大脳の運動に関わる領域からの信号も、脊髄の運動ニューロンを通して横隔膜へ届きます。 PN-S6 PN-S3

横隔神経読書中も意識せず呼吸する場面と、声を出す前に自分で息を吸う場面。首の脊髄から横隔神経が信号を運び、横隔膜が縮む役割を一つの矢印で示す。
意識せずに続く呼吸にも、自分で吸い方を変える呼吸にも、横隔膜へ届く運動の信号が関わります。横隔神経は、その信号を運びます。矢印は機能の関係を示し、実際の神経の走行や接続数を表しません。横隔神経には感覚情報を戻す線維も含まれます。

1987年のGandeviaとRothwellの研究では、健康な人の頭の表面から電気刺激を与え、運動皮質から横隔膜へ至る経路を調べました。食道と胃に置いたカテーテルを使い、横隔膜の電気活動と、横隔膜を挟んだ圧の差を記録しました。 PN-P1

運動皮質への刺激から短い時間で、横隔膜に電気活動と収縮による反応が生じました。頸髄の高さで刺激したときの反応と比較することで、大脳から横隔膜の運動ニューロンへ速く信号を伝える経路があることが示されました。 PN-P1 PN-S3

参考記事→運動野

一呼吸の中でも出力が調節される

横隔膜が出す力は、活動する運動単位の数や、信号を出す頻度などによって変わります。新たな運動単位が活動に加わることを「動員」といいます。すでに活動している運動単位も、信号を出す頻度を変えています。 PN-S3 PN-P2

神経細胞が電気的な信号を生じることを、発火と呼びます。一回の吸気が続いている間にも、運動ニューロンは繰り返し発火しています。その頻度は、一秒間に何回という単位で表します。 PN-P2 PN-S5

1999年のButlerらの研究では、健康な4人が座って行う吸気課題を調べました。右の横隔膜の肋骨に近い部分に筋内電極を置き、60個の運動単位の電気活動を記録しました。参加者は画面の目標に合わせ、吸う速さを一定にして量を変える課題と、吸う量を一定にして速さを変える課題を行いました。 PN-P2

運動単位は吸気の途中でも順次活動に加わりました。吸う量や、単位時間に吸い込む空気の量が大きい課題では、吸気の終わりの発火頻度が高くなりました。 PN-P2

横隔膜から戻る感覚の情報

横隔神経には、横隔膜の筋肉や腱から中枢へ向かう感覚線維があります。筋肉が力を出したときの機械的な変化や、筋肉内の状態に関わる情報が、この経路を通ります。その入力は、呼吸筋へ送る運動出力の調節にも関わっています。 PN-S3 PN-S4

参考記事→求心性線維

胸やおなかの動きを感じるときには、皮膚、胸郭、呼吸筋などからの情報が組み合わされています。横隔神経は、その中でも横隔膜や周辺の組織からの感覚情報を運んでいます。 PN-S9 PN-S3

感覚を受け持つ範囲には、横隔膜の中央部を覆う胸膜や腹膜、心臓を包む心膜なども含まれます。横隔膜の周辺部を覆う膜では、下部の肋間神経などが感覚を受け持ちます。 PN-S4 PN-S1

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関連語

横隔膜、横隔膜呼吸、運動単位、脳幹、頸神経叢

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