きんぼうすい|Muscle spindle|解剖学・感覚生理学
テーブルの上のコップを口へ運ぶとき、肘が曲がり、腕の筋肉の長さも変わります。力こぶの側にある筋肉は短くなり、肘を伸ばしてコップを戻すと再び長くなります。私たちは腕をじっと見ていなくても、肘が曲がる方向や手の位置をつかみながら、こうした動作を行っています。
動いている腕からは、筋肉や皮膚などの情報が神経を通って脊髄や脳へ届きます。筋肉の長さや伸ばされる速さに関わる情報を送る器官が、筋紡錘(きんぼうすい)です。筋紡錘から届く信号は、腕の位置を感じる働きや、筋肉の活動の調節に使われます。
筋肉の中に組み込まれた感覚受容器
筋紡錘は、腕や脚を動かす骨格筋の内部にあります。身体に起きた変化を神経の信号に変える構造を、感覚受容器と呼びます。筋紡錘は、筋肉が伸びることで形が変わり、その変化を感覚神経へ伝える受容器です。
筋肉を縦に切って拡大すると、筋線維と呼ばれる細長い細胞がいくつも並んでいます。その間に埋まるようにして、筋紡錘があります。内部には、錘内筋線維(すいないきんせんい)という特殊な細い筋線維が数本あり、周りを被膜が包んでいます。被膜をつくる結合組織は、身体の組織を支えたり、つないだりする組織です。
筋肉の大部分を占めているのは、錘外筋線維(すいがいきんせんい)です。これらが収縮すると、骨を引く力が生まれます。「錘内」は筋紡錘の内側、「錘外」はその外側を意味します。筋紡錘は、力を出す錘外筋線維と同じ方向に、ほぼ平行に並んでいます。この配置によって、筋肉が引き伸ばされると、その中の筋紡錘にも伸びが伝わります。
伸びが神経の信号に変わるまで
錘内筋線維の中央付近には、感覚神経の末端が取りついています。筋肉が伸びてこの部分が変形すると、神経に電気的な信号が生じます。一回ごとの短い信号を活動電位と呼びます。伸びに応じて、一定の時間に信号が出る回数や、そのタイミングが変化します。研究では、この信号を神経から記録することで、筋紡錘がどのように応答したかを調べています。
たとえば、力を抜いた筋肉を少しずつ伸ばしていくと、筋紡錘から出る信号の頻度が高まります。伸ばしたところで動きを止めると、活動を続けながら、そのときの長さに関わる情報を送る線維もあります。神経系は、動き始めから動いている途中、姿勢を保つ間まで、筋肉から届く情報を受け取っています。
信号を運ぶのは、神経細胞から長く伸びた神経線維です。筋紡錘から出た感覚神経線維は、背骨の中にある脊髄へ向かいます。脳と脊髄を合わせて中枢神経系と呼び、身体の各部から中枢へ向かう情報の流れを「求心性」といいます。筋紡錘の説明に出てくる「求心性の信号」は、筋肉から脊髄や脳へ向かう知らせを指しています。
ゆっくり伸びるときと急に伸びるとき
肘を同じ角度まで伸ばす場合でも、ゆっくり伸ばすときと急に伸ばすときでは、筋肉の中で起きる変化の速さが違います。その速さに応じて、筋紡錘から送られる信号の出方も変わります。ヒトの指の筋肉を調べた実験では、筋肉を伸ばす速さを変えると、感覚神経の活動の出方が変わることが確かめられています。
筋紡錘には主に、Ia群(いちエーぐん)とII群(にぐん)という二種類の感覚神経線維がつながっています。どちらも筋肉の長さに応じて活動し、Ia群は伸ばされる速さにも強く反応します。II群にも、筋肉の長さと、その変化の速さに関わる情報が含まれます。
また、手首の筋肉を小さく繰り返し伸ばした実験では、Ia群とII群の両方に、位置と速度に応じた活動が見られました。筋紡錘からの信号には、筋肉がどれくらい伸びているか、その長さがどのように変わっているかという情報が重なっています。
筋肉が短くなる間の調整
コップを口元へ持ち上げるとき、肘を曲げる筋肉は短くなります。すると、その内部に並ぶ筋紡錘は緩みやすくなります。感覚神経の末端がある中央部も緩むと、伸びによる変形が伝わりにくくなります。動いている間も情報を受け取るために、筋紡錘の張りを調整する仕組みがあります。
ここで働くのが、γ(ガンマ)運動ニューロンです。運動ニューロンは、筋線維へ収縮の指令を送る神経細胞です。γ運動ニューロンは、錘内筋線維の両端につながっています。両端が縮むと、その間にある中央部に張りが保たれ、感覚神経が伸びを受け取りやすくなります。
腕を動かす錘外筋線維には、α(アルファ)運動ニューロンが収縮の指令を送ります。動作中はαとγが協調して働きます。錘外筋線維が短くなって肘を曲げる間に、錘内筋線維の両端も縮み、筋紡錘が信号を送り続けられるようにします。
γからの指令は、筋紡錘が伸びに反応する程度も変えます。伸びに対する応答のしやすさを、感度と呼びます。同じ程度の伸びが加わっても、γからの指令に応じて、筋紡錘から出る信号の頻度は変わります。
届いた情報が感覚と動きにつながる
腕がどこにあるか、どちらへ動いているかを捉える感覚を、固有受容感覚といいます。筋紡錘からの情報は、その重要な手がかりです。脳や脊髄には複数の筋肉から信号が届き、皮膚や関節などからの情報も加わります。これらの情報が、腕全体の位置や動きを捉えるために使われています。
筋紡錘からの信号は、素早く筋肉の働きを調整する回路にも入ります。筋肉が引き伸ばされると、その筋肉の収縮を促す反応が起こります。これが伸張反射です。腕や脚の基本的な回路では、Ia群の信号が脊髄に入り、同じ筋肉へ指令を送るα運動ニューロンの活動を高めます。すると錘外筋線維が収縮し、筋肉を短くする向きに力が働きます。
診察で膝の下の腱を軽く叩くと、脚が跳ね上がることがあります。これは膝蓋腱反射と呼ばれます。腱は、筋肉の力を骨へ伝える組織です。腱を叩いた力で太ももの前側の筋肉が短時間だけ伸ばされ、その中の筋紡錘から反射の信号が送られます。
腱からは力の情報も届く
コップを支える腕からは、力に関わる情報も送られています。筋肉と腱がつながる付近には、ゴルジ腱器官という感覚受容器があります。筋線維と直列に配置され、筋肉が生み出す力を腱へ伝える経路に入っています。
ゴルジ腱器官が受け取るのは張力、つまり筋肉と腱にかかる引っ張る力です。信号はIb群(いちビーぐん)の感覚神経線維を通って神経系へ向かいます。筋肉の中の筋紡錘から長さや動きに関わる情報が届き、腱のゴルジ腱器官から力に関わる情報が届くことで、神経系は動いている身体の状態を捉えています。
動き出す前にも活動は変わる
筋紡錘の活動には、これから行う動作の準備も表れます。ヒトを対象としたある実験では、目標の位置を見せてから少し待ち、合図とともにそこへ手を伸ばしてもらいました。研究者は、待っている間に筋肉から届く神経の信号を記録しました。
腕に目立った動きが起こる前から、向かう方向に応じてIa群の活動は変わっていました。筋肉を伸ばす方向へ手を動かす準備中には、その筋肉からのIa群の活動が減少しました。
関連語
固有受容感覚/伸張反射/ゴルジ腱器官/α運動ニューロン/γ運動ニューロン
参考文献
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