初めて使う箸や道具も、繰り返し扱ううちに動かしやすくなることがあります。次の日に手に取っても使い方が残り、違う物を扱うときにも工夫が利くなら、練習中だけでなく、その後にも変化が残っていることになります。
運動学習とは、練習や経験を通じて、動作を行う能力に比較的持続する変化が生じる過程です。「その場でうまくできたか」に加え、「時間を置いてもできるか」「条件が変わったときにも使えるか」を確かめることが、学習を理解する鍵になります。
出典:N07-01
いまの成績と、身についた能力
練習中に見える動作の成績を、パフォーマンスと呼びます。的に当たった回数、かかった時間、狙いからのずれなど、そのときの実行結果です。運動学習で知りたいのは、それらの結果を支える能力が、経験を通してどう変わったかです。
同じ人でも、疲労や集中の程度、その場で与えられる助言などによって成績は変わります。練習の終わりに成功が続いても、翌日には細かな助言がないと再現しにくい場合があります。反対に、練習中は試行錯誤が多くても、後から安定した成績として表れることがあります。
2012年のカンタクとウィンスタインの総説は、練習の終わりの成績と、時間を置いた保持・転移テストの成績を区別する重要性を整理しています。「比較的持続する」とは永久に失われないという意味ではありません。条件をそろえてもう一度測り、その場限りではない変化が残っているかを確かめます。
出典:N07-01
保持と転移は、違う問いに答える
保持は、練習した技能が時間を置いた後にも残っているかを確かめることです。たとえば同じ道具、同じ距離、同じ目標で、翌日にも動作を行います。練習中の特別な助言を外すなど、何に支えられて成功していたかを確かめる条件を設けることもあります。
転移とは、練習で学んだことが、練習していない条件にも広がることです。距離や道具を変える、反対側の手を使うなど、変える条件はさまざまです。保持がよくても転移が限られる場合があり、両方を分けて評価します。
2012年、ブタンらは、利き腕の右腕で伸ばす・曲げる動きのパターンを練習し、左腕で元のパターンや鏡に映したように左右を反転したパターンを行う実験を報告しました。練習直後の上達がそのまま反対の腕へ移るわけではなく、練習量や時間の間隔によって転移の表れ方が異なりました。ある技能が身についたかを考えるには、何を練習し、どの条件で使えることを確かめたかを一緒に見る必要があります。
速さと正確さを、一緒に見る
上達を測るとき、速くなっただけでよいとは限りません。急いだ分だけ失敗が増えれば、正確さを犠牲にして速くなっただけかもしれません。反対に、十分な時間をかけたために正確になった場合も、動作能力の変化とは分けて考えます。
2012年、シュムエロフらは、画面を見ながら手首で曲線をたどる課題を用い、速度と正確さの関係を調べました。ある速度範囲で練習すると、その範囲だけでなく、速さと正確さの関係全体に改善が表れました。動きの解析では、試行ごとの軌道のばらつきが減り、滑らかさが増すことが、成績向上の主な特徴でした。
この研究は、上達を「もっと速く」や「もっと慎重に」の一方向だけで判断しない見方を示します。日常の練習でも、同じ程度の正確さを保って動ける速さや、同じ速さで行ったときの安定性を比べると、変化を具体的に捉えられます。
出典:N07-02
結果を教わることと、自分で確かめること
練習では、目や身体の感覚から結果を受け取るほか、指導者や装置から情報を得ることがあります。目標にどれほど近づいたかを知らせる情報を「結果の知識」といい、英語の頭文字でKRと呼びます。たとえば「目標より強すぎた」という知らせです。
2019年、青柳らは健康な成人46人を3群に分け、左肩を前方へ動かす方向の力を、最大の力の60%に合わせる課題を調べました。関節を動かさず力を出す練習を1日20回、4日間行い、結果を毎回知らせる群、半分の回で知らせる群、知らせる割合を日ごとに減らす群を比較しました。
直後のテストに加えて、翌日、1週間後、2週間後にも、結果を知らせずに確かめました。知らせる割合を減らす群では、練習前より誤差が小さい状態が1週間後まで見られました。ただし、各テストでの3群間の差は統計的に有意ではありませんでした。助言を減らせば誰でも上達するとはいえませんが、練習中と後日の成績を分けて見る大切さがわかる例です。
出典:N07-03
神経可塑性や内部モデルとの関係
経験に応じて神経系の働きや結びつきが変わる性質を、神経可塑性と呼びます。運動学習を支える神経の変化は重要な研究対象ですが、運動学習という言葉は、まず技能を行う能力の変化を扱います。神経活動の変化と、技能の持続は、それぞれ別の方法で測ります。
参考記事→神経可塑性
2020年のヒト研究では、タイミングと空間的位置を調節する技能の練習に伴い、運動成績と、大脳皮質から脊髄へ信号を送る皮質脊髄系の興奮しやすさが変わりました。一方、興奮しやすさの変化と成績の変化には関連が見られませんでした。神経の変化から技能の変化を理解するには、両方の測定が必要になることを示す一例です。
内部モデルは、身体や環境と動作の関係を予測・調節する仕組みを説明する考え方です。慣れた動作を新しい力や視覚条件に合わせ直す運動適応では、こうしたモデルの更新が研究されます。一方、曲線を滑らかにたどるような技能の熟達では、動きのばらつきや速さと正確さの関係も変わります。
運動学習は、既にできる動作を環境へ合わせることも、新しい技能を身につけることも含む広い領域です。内部モデルの更新だけでなく、何を学び、どう測ったのかも合わせて考えることが大切です。
参考記事→内部モデル
練習の成果を、次の機会へつなぐ
ボディワークで動き方が変わったときには、「楽だった」という感触に加え、何をできるようになったかを短く残すと、次回と比べやすくなります。無理のない範囲で、動かした距離、狙った場所への届き方、必要だった助言など、目的に合う項目を選びます。
その場では一つの条件を練習し、時間を置いて同じ条件を確かめ、必要なら日常に近い条件でも試す。この順序を意識すると、練習・保持・転移を具体的に区別できます。すべてを一度に変えるより、椅子の高さや道具など、何を変えたかが分かる方が、学びの範囲を整理できます。
ゆっくり動くことは、動作の途中を確かめる方法の一つです。最終的に身につけたい動作に速さや別の条件が必要なら、それらにも安全に取り組める練習を考えます。一つの速さだけにこだわらず、身につけたい動作に合わせて練習条件を選びましょう。
運動学習の視点は、一回の成功や失敗だけで自分の能力を決めず、経験を重ねる中での変化を見るために役立ちます。今日できたことを、次の機会に自分の力で使えるか。その問いを持つことで、練習の目的が日常の動作へつながります。
関連記事→ゆっくり丁寧に動く
関連記事→固有受容感覚
関連語
神経可塑性、内部モデル、内的注意焦点・外的注意焦点、フィードバック
参考文献
- [N07-01] Kantak SS, Winstein CJ. (2012). Learning-performance distinction and memory processes for motor skills: a focused review and perspective. Behavioural brain research 228(1):219-231.
- [N07-02] Shmuelof L, Krakauer JW, Mazzoni P. (2012). How is a motor skill learned? Change and invariance at the levels of task success and trajectory control. Journal of neurophysiology 108(2):578-594.
- [N07-03] Aoyagi Y, Ohnishi E, Yamamoto Y, Kado N, Suzuki T, Ohnishi H, Hokimoto N, Fukaya N. (2019). Feedback protocol of 'fading knowledge of results' is effective for prolonging motor learning retention. Journal of physical therapy science 31(8):687-691.
- [N07-04] Boutin A, Badets A, Salesse RN, Fries U, Panzer S, Blandin Y. (2012). Practice makes transfer of motor skills imperfect. Psychological research 76(5):611-625.
- [N07-05] Wiegel P, Leukel C. (2020). Training of a discrete motor skill in humans is accompanied by increased excitability of the fastest corticospinal connections at movement onset. The Journal of physiology 598(16):3485-3500.