股関節

Oct 29, 2026

こかんせつ|Hip joint|解剖学・運動学

椅子から立つ、靴下を履く、階段に足をかける。こうしたとき、脚の付け根では太ももと骨盤の関係が変わっています。その中心になる股関節は、骨盤の左右にあるくぼみと、太ももの骨の丸い先端でつくられる関節です。脚をさまざまな方向へ動かすとともに、立ったり歩いたりするときには体重を支えます。

「脚の付け根」と聞いて、前側の皮膚の折れ目を思い浮かべる人もいるでしょう。股関節はそこから奥にある立体的な構造です。表面の場所だけでなく、骨盤と大腿骨という二つの骨の関係から捉えると、動きの意味がわかりやすくなります。

出典:N02-S01

骨盤のくぼみと、太ももの骨の丸い先端

骨盤は、左右の寛骨と、後ろ側の仙骨などから成る骨の輪です。寛骨は腸骨・坐骨・恥骨という三つの部分が一体になった骨で、その外側に寛骨臼という深いくぼみがあります。ここが股関節の受け皿です。

受け皿に向かい合うのは、大腿骨頭です。大腿骨は太ももの中を通る長い骨で、その上端は内側へ向かう頸部を介して、丸い骨頭につながっています。股関節の中心は、脚の外側ではなく、その奥にあります。

太ももの付け根の外側で触れられる大きな出っ張りが、大腿骨の大転子です。これは筋肉が付く場所で、骨頭そのものとは位置が違います。また、前側の脚の付け根の溝を含む鼠径部は、体の表面の領域を表す言葉です。骨盤の上の縁、外側の大転子、前側の鼠径部を区別すると、深部の股関節を平面上の一点と取り違えにくくなります。骨頭を指で直接確かめようと深く押す必要はありません。

出典:N02-S02, N02-S03

骨盤と大腿骨の股関節の模式図。青い大腿骨頭が寛骨臼に収まる関係を示す。
大腿骨頭が骨盤の寛骨臼と関節をつくります。関節内を見せるために周囲を省略した模式表現です。

動きやすさと支えを備えた球関節

股関節は、丸い骨頭が受け皿の中で動く球関節の一つです。骨同士が向き合う表面には関節軟骨があり、接触する面の滑りを助け、荷重を受けます。骨頭が受け皿の内側で向きを変えると、そこから続く大腿骨の向きも変わります。

寛骨臼の縁には、関節唇という線維軟骨の縁取りがあります。その周囲を関節包が包み、靱帯が補強しています。深い受け皿や周囲の組織が、動きの自由さと支えを両立させる構造をつくっています。

参考記事→靱帯

肩にも球関節がありますが、肩甲骨の関節窩は比較的浅く、股関節の寛骨臼は深い受け皿です。同じ「丸い骨とくぼみ」の組み合わせでも、形や周囲の構造によって動き方は異なります。球関節という名前はあらゆる方向へ無制限に動くという意味ではなく、複数の方向へ回転できる構造を表しています。

出典:N02-S01, N02-S06

曲げる、開く、回すを分けてみる

股関節の主な動きは、三つの組み合わせで整理できます。太ももをお腹側へ近づけるのが屈曲、そこから後ろ側へ動かす方向が伸展です。椅子に座ると股関節は曲がり、立ち上がって体を起こす際には伸びる方向へ動きます。

脚を体の中心から横へ離す動きが外転、中心へ戻す方向が内転です。さらに、大腿骨を長い軸のまわりに内向きに回すのが内旋、外向きに回すのが外旋です。膝を曲げているときには、足先が動く方向と大腿骨の回る方向を混同しやすいため、太ももが骨盤に対してどちらへ向くかを考えると整理できます。

靴下を履くために足を手元へ近づける動作では、屈曲だけでなく、外へ開くことや回すことも組み合わさります。実際の動作では、このように複数の方向の動きが重なっています。「股関節が動く」という一言を、どの方向の動きかに分けることで、同じ脚の付け根でも異なる感覚が生じる理由を考えやすくなります。

膝を曲げる動きと、股関節を曲げる動きも別です。立ったまま踵をお尻へ近づけるときには、主に膝で太ももと下腿の角度が変わります。膝を前へ持ち上げるときには、股関節で太ももと骨盤の角度が変わります。脚全体の形の中で、曲がった場所を見分けるのがポイントです。

出典:N02-S04

脚が動くときと、骨盤が動くとき

股関節の動きは、骨盤に対して脚が動く場合だけではありません。足を床に置いたまま体を前へ傾けると、大腿骨に対して骨盤が動き、両者の角度が変わります。どちら側が主に動いても、骨盤と大腿骨の間で起こる運動という点は共通です。

たとえば椅子に座って上体を前へ運ぶとき、骨盤が太ももに対して前へ傾く動きと、背骨が丸くなる動きが、さまざまな割合で組み合わさります。見た目には似た前傾でも、股関節と脊柱のどこをどれだけ動かしたかは異なることがあります。

骨盤の後ろ側で仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節は、股関節とは別の関節です。仙腸関節については骨盤の輪の中のつながり、股関節については骨盤と大腿骨の間のつながり、と分けると整理できます。骨盤全体が大きく傾いたからといって、仙腸関節の中で同じ大きさの動きが起こったことにはなりません。

この違いは、歩くときにも役立つ見方です。前へ運ばれる脚と、床について体を支える脚とでは、動作の条件が変わります。同じ股関節について、脚の側から見ることも、骨盤の側から見ることもできます。「動いたのはどちらの骨か」「何に対して向きが変わったか」と考えると、関節の動きを具体的に説明しやすくなります。

出典:N02-S02, N02-S04

周囲の筋肉と一緒に働く

股関節をまたぐ筋肉は、骨盤や腰部と大腿骨などをつなぎ、関節を動かす力を生みます。腸腰筋は股関節の屈曲に、大殿筋は伸展に関わる代表的な筋肉です。内もも側の内転筋群なども含め、多くの筋肉が違う方向から関節を取り囲んでいます。

腸腰筋は力を生む筋肉、股関節は骨同士が動くつなぎ目です。「脚の付け根を曲げた」という一つの体験にも、筋肉が力を出すことと、関節の角度が変わることが含まれます。

参考記事→腸腰筋

また、脚を空中で振る場面と、床を踏んで体を支える場面では、周囲にかかる力が変わります。股関節は、脚の向きを変える場所であると同時に、骨盤と脚の間で力を受け渡す場所でもあります。この二つの役割を一緒に考えると、動かす感覚と支える感覚を結びつけやすくなります。

出典:N02-S05, N02-S02

脚の付け根を、奥行きのある場所として感じる

安定した椅子に座り、両足を床につけて、無理のない範囲で体を少し前へ運んでみます。太ももと骨盤の角度、背中の形がそれぞれどう変わるかに注意を向けると、一つの前傾の中にも複数の動きがあるとわかります。こうした観察を通して、解剖学の知識を自分の感覚と結びつけられます。

股関節を「はめる」といった表現を耳にすることがありますが、一般的な動作の説明としては、骨盤と大腿骨の位置関係や支え方を確かめる、と考える方が具体的です。骨を押し込んで位置を直す操作として行うものではありません。痛みがあるときは、動きを強めて答えを探さず、必要に応じて医療者に相談します。

股関節の理解は、表面の折れ目から、奥にある骨のつながりへ視点を移すことから始まります。骨盤に対して太ももがどう動くかを知ると、座る、立つ、歩くという身近な動きが、少し立体的に感じられるようになります。

出典:N02-S01, N02-S04

関連記事→仙腸関節

関連記事→仙骨

関連語

腸腰筋、仙骨、仙腸関節、脊柱(背骨)

参考文献

  1. [N02-S01] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.6 Anatomy of Selected Synovial Joints OpenStax, Rice University .
  2. [N02-S02] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 8.3 The Pelvic Girdle and Pelvis OpenStax, Rice University .
  3. [N02-S03] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 8.4 Bones of the Lower Limb OpenStax, Rice University .
  4. [N02-S04] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.5 Types of Body Movements OpenStax, Rice University .
  5. [N02-S05] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 11.6 Appendicular Muscles of the Pelvic Girdle and Lower Limbs OpenStax, Rice University .
  6. [N02-S06] UCSF Health Orthopaedic Institute (年記載なし). Hip Surgery: What to Expect — Anatomy of the Hip UCSF公式患者向け資料 .
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