心拍変動

Oct 21, 2026

しんぱくへんどう|heart rate variability(HRV)|循環・測定

座って静かにしているときにも、心臓が打つ間隔は一拍ごとに少しずつ変わっています。平均の心拍数が同じでも、間隔の変わり方には違いがあります。この拍動間隔の変動を、心拍変動と呼びます。英語のheart rate variabilityを略して、HRVとも表します。 HV-S4

心臓のリズムには、呼吸や循環に応じた調節が加わります。息を吸うときと吐くとき、椅子から立ち上がるときにも、一拍ごとの間隔は変化します。HRVは、こうした調節を拍動間隔から調べる手がかりになります。 HV-S4 HV-S7

心電図から一拍ごとの間隔を取り出す

心臓の電気的な活動を皮膚の電極で記録すると、心電図が得られます。波形のうち、心室が電気的に興奮する部分をQRS波と呼び、その中の上向きの波がR波です。連続するR波の頂点から次の頂点までの時間が、R–R間隔です。 HV-S1

説明用に、間隔が980、1020、1000ミリ秒と並ぶ例を考えてみます。1000ミリ秒は1秒なので、この列の平均間隔は1秒です。すべてが1000ミリ秒で並ぶ列も平均は同じですが、前者では一拍ごとの間隔が変化しています。 HV-S2

図 04 · 心拍変動 · 本文へ配置済み拍動間隔の数値を上下に比較。例Aは980・1020・1000ミリ秒、例Bは1000ミリ秒が三つ。どちらも平均1000ミリ秒だが、間隔のばらつきは異なる。
連続する3つの拍動間隔を使った説明用の数値例です。980・1020・1000 msと1000・1000・1000 msは、いずれも合計3000 ms、平均1000 msですが、間隔のばらつきは異なります。平均と変動を分けて考える根拠はESC/NASPE(1996)の時間領域測定の説明に基づきます。数列は本図の理解用に作成したもので、出典の実測データや原図の再描画ではなく、診断や健康状態の判定には使いません。

数列は説明用です。三つの間隔で健康状態や臨床的なHRVを判定する図ではありません。

自律神経による調節を調べる際は、心臓の拍動の起点である洞房結節から始まった、正常な拍動どうしの間隔を解析します。normal-to-normalを略してNN間隔と呼びます。洞房結節以外を起点とする拍動や、信号の読み取り間違いを確かめる作業も、解析の一部です。 HV-S2 HV-S6

たとえばR波を一つ読み落とすと、本来二つに分かれる間隔が、一つの長い間隔として扱われます。1秒間隔で打っていた部分に2秒という値が混ざり、ばらつきが大きくなってしまいます。解析では元の波形に戻り、実際の拍動と読み取り結果を照らし合わせます。 HV-S4 HV-S6

洞房結節に届く調節が間隔を変える

右心房にある洞房結節には、自ら電気信号をつくる心筋細胞があります。そこから始まる興奮が心房、心室へと伝わり、拍動が続きます。自律神経は、この信号が次に生じるまでの時間を調節します。 HV-S1

心臓へ向かう副交感神経の信号は迷走神経を通り、心臓の近くや内部にある神経節で次の神経細胞へ伝わります。神経節は、神経細胞の本体が集まる場所です。そこから洞房結節へ伸びる線維の末端では、アセチルコリンが放出されます。この物質の作用で次の信号が生じるまでの時間が延び、拍動が遅くなります。交感神経の末端から出るノルアドレナリンは、拍動を速くする方向に働きます。 HV-S3 HV-S6 HV-S8 HV-S9

副交感神経の心臓への作用は速く現れ、一拍ごとの間隔を変えられます。交感神経の作用は、これより緩やかな時間経過をとります。呼吸一回ごとのような速い心拍変動には、この素早い副交感神経の作用が強く関わります。 HV-S4 HV-S6

血圧が上がると、血管壁の伸びを受け取る圧受容器から、脳の下部にある脳幹へ情報が届きます。心臓への副交感神経の出力が増え、交感神経の出力が減ると、拍動間隔は長くなる方向へ変わります。こうした圧受容器反射が、血圧の変動を抑える調節に加わります。 HV-S7 HV-S6

参考記事→求心性線維

呼吸の速さと深さが変動に関わる

安静時には、息を吸う間に拍動間隔が短くなり、吐く間に長くなる変化がよく見られます。これを呼吸性洞性不整脈と呼びます。健康な人にも見られる変化で、呼吸に関わる神経回路が、心臓へ向かう副交感神経の出力を呼吸の周期に合わせて変えています。 HV-S4 HV-S6

1993年のBrownらの研究では、健康な9人が仰向けになり、呼吸の速さと一回の呼吸量を変えました。呼吸は毎分6〜24回、一回の呼吸量は1000または1500ミリリットルに設定されました。呼吸と同じ周期で起こる変動を取り出して比べると、呼吸が速いほど、その成分が小さくなりました。一回の呼吸量が1500ミリリットルの条件では、1000ミリリットルよりその成分が大きくなりました。平均のR–R間隔については、統計的な差が確認されませんでした。 HV-P1

参考記事→腹式呼吸

全体のばらつきと一拍ごとの変化を測る

心拍変動には、異なる特徴を数値にする複数の指標があります。SDNNは、測定したNN間隔全体のばらつきを標準偏差で表す指標です。標準偏差は、各間隔が平均からどの程度離れて分布しているかを表します。単位にはミリ秒を使います。 HV-S5

RMSSDは、隣り合うNN間隔の差に着目します。980ミリ秒の次が1020ミリ秒なら、差は40ミリ秒です。1020ミリ秒の次が1000ミリ秒なら、差はマイナス20ミリ秒になります。こうした差をそれぞれ二乗し、平均した後で平方根を取ります。プラスとマイナスで打ち消し合うのを避けながら、一拍ごとの変化の大きさをまとめる計算です。こちらも単位はミリ秒です。 HV-S2 HV-S5

間隔がゆっくりと長くなってから短くなる列では、最初から最後までをまとめたばらつきが大きくても、隣り合う間隔の差は小さいことがあります。 HV-S2 HV-S5

変動の周期を周波数で表す

間隔を時間の順に並べると、速い周期の変化と、よりゆっくりした変化が重なっています。これを周期ごとに分けて調べる方法が、周波数領域の解析です。1秒間に何回繰り返すかを、ヘルツという単位で表します。それぞれの周波数帯に含まれる変動の大きさは、パワーとして数値にします。 HV-S5

よく使われる区分では、0.15〜0.40ヘルツを高周波成分のHF、0.04〜0.15ヘルツを低周波成分のLFと呼びます。毎分15回の呼吸なら、15を60で割って0.25ヘルツです。呼吸と同じ周期の心拍変動があれば、この場合はHFの範囲に入ります。 HV-S2 HV-S4

毎分6回なら0.10ヘルツとなり、呼吸に伴う変動がLFの範囲に入ります。LFには血圧を調節する反射も関わり、交感神経と副交感神経の作用が重なります。LFをHFで割ったLF/HFは、二つの周波数帯のパワーの比です。交感神経と副交感神経の活動量の比を、そのまま表すものではありません。 HV-S4 HV-S6

心電図と腕時計が受け取る信号

腕時計や指輪の中には、皮膚に光を当て、血液量の変化に伴う光の変化を読み取るものがあります。この光電式容積脈波法をPPGと呼びます。血液が送り出されるたびに生じる脈波を捉え、手首や指で一つの脈波から次の脈波までの間隔を調べています。 HV-S6

心電図は心臓の電気活動、PPGは末梢に届く脈波を測ります。心臓の興奮から脈波が届くまでの時間が一拍ごとに変わると、脈波どうしの間隔にもその変化が加わります。血管の状態は脈波の形にも影響し、腕や指が動くと信号が乱れることもあります。 HV-S6

2024年のRehmanらの研究では、健康な25人が両手首に二種類のPPG機器、胸に心電図機器をつけ、5日間ずつ二期に分けて生活中の記録を取りました。二種類のPPG機器とも、SDNNやRMSSDは起きている間より睡眠中の方が心電図との誤差が小さくなりました。一種類で詳しく調べた解析では、歩行中は歩いていないときより誤差が大きくなりました。 HV-P2

記録する長さと過ごし方

数分間の安静時測定では、その間の拍動間隔の変化を調べます。24時間の測定には、歩く、座る、眠るといった生活の変化や、昼夜の変化も含まれます。長い記録にはゆっくりした変動も入り、SDNNなどの値に反映されます。 HV-S2 HV-S4

たとえば、静かに座った5分間と、歩いた後に座って息を整えている5分間では、後者には心拍や呼吸が落ち着くまでの変化が入ります。安静時の値を日ごとに比べる研究では、座った直後を避けて落ち着く時間を設け、姿勢や測定する長さ、時刻をそろえて記録します。 HV-S4

関連語

呼吸性洞性不整脈、洞房結節、迷走神経、自律神経、圧受容器反射

出典

本文字数:2888字(導入と各節本文の全Unicode文字。空白・改行、タイトル・見出し・出典表記・関連語を除外。)
状態:独立査読済み採用候補・未公開

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