じりつしんけい|Autonomic nervous system|自律神経・呼吸
階段を上ったあと、胸の拍動が速くなり、少し汗ばんでいることがあります。椅子に座って休むうちに、拍動の速さも変わっていきます。階段を上る間には、脚を動かす働きとともに、心拍や発汗の調節も進んでいます。 AN-S2
こうした内臓や腺の働きを調節する神経系を「自律神経系」と呼びます。日常では「自律神経」と略されます。心臓、血管、消化管、汗腺などに神経が届き、活動や休息に合わせて身体の内部の状態を保っています。 AN-S1 AN-S7
食後には消化管が食べ物を送り、暑いときには汗腺が汗を出します。これらを一つひとつ意識して操作しなくても、器官の状態に応じた調節は続きます。 AN-S1 AN-S3
心臓や血管へ届く神経の道筋
心臓の壁には、血液を押し出す心筋があります。心臓の中でリズムを作る細胞が電気信号を生み出し、それが心筋へ広がると拍動が起こります。自律神経は、そのリズムや収縮する力を調節します。血管や消化管の壁にある平滑筋も、自律神経の信号を受け取ります。平滑筋が収縮すると管の太さが変わり、消化管では内容物を混ぜたり移動させたりします。汗腺や唾液腺には、汗や唾液の分泌を調節する信号が届きます。 AN-S7 AN-S10
脳や脊髄から器官へ向かう経路は、多くの場合、二つの神経細胞を介しています。最初の神経細胞は、脳や脊髄から長い突起を伸ばします。途中の「自律神経節」で次の神経細胞へ信号が渡り、そこから器官に届きます。神経節とは、神経細胞の中心部にあたる細胞体が集まっている場所です。 AN-S1 AN-S7
神経から標的の細胞へ信号を伝えるときには、神経伝達物質が放出されます。アセチルコリンやノルアドレナリンは、その代表です。伝達物質を受け取る細胞側にも、物質に反応する受容体があります。このやり取りを通して、心拍の速さ、血管の太さ、分泌の量などが変わります。 AN-S7
交感神経と副交感神経の働き
自律神経の主要な区分が、交感神経系と副交感神経系です。どちらも脳や脊髄と器官を結び、日々の身体活動を支えています。交感神経の指令は主に胸部と上部腰部の脊髄から、副交感神経の指令は脳幹と仙髄から出ます。脳幹は脳と脊髄をつなぐ部分、仙髄は脊髄の下方にある部分です。 AN-S7
心臓では、交感神経の働きが増すと、拍動が速まり、収縮する力も強まる方向へ調節されます。副交感神経は、拍動の速さを下げる方向に働きます。運動を始めたときや休んでいるときには、心臓へ届く両者の活動が変わり、その場面に合う血液の送り方につながります。 AN-S2 AN-S3
副交感神経を通る信号は、唾液腺では唾液の分泌を促し、消化管では食べ物を送る運動を促します。明るい場所で瞳孔が小さくなる反応にも、副交感神経の経路が使われます。瞳孔は眼の中央にある光の通り道です。その周りを輪の形に囲む筋肉が縮むと、瞳孔が小さくなって眼に入る光の量が減ります。 AN-S3 AN-S7
器官ごとに神経のつながり方も異なります。汗腺の分泌は主に交感神経が調節します。多くの血管も交感神経の支配を受け、休んでいる間にも続く神経活動が、血管の壁の筋肉をある程度収縮させています。 AN-S2 AN-S3
暑い部屋で座っているだけでも、汗をかくことがあります。汗腺へ届く交感神経の信号が増えると、汗の分泌が促されます。汗が皮膚の表面から蒸発するときに熱が奪われ、体温の上昇を抑えます。運動時に汗をかくのも、筋肉の活動で生じた熱を逃がす働きの一つです。 AN-S7 AN-S11
身体の変化を受け取って調節する
器官を調節するためには、そこで何が起きているかという情報も必要です。血管の壁の伸び、消化管の内容物による広がりなどの情報は、感覚神経を通して脳や脊髄へ届きます。内臓から届く情報は、自分で一つずつ意識していない間にも神経回路で使われています。 AN-S4
脳の中では、視床下部や脳幹が自律神経の調節に重要な役割を持ちます。視床下部は脳の奥にある領域です。脳幹には、心臓や血管などの働きを調節する回路があります。身体から届く情報や、脳内のほかの領域からの情報を受けて、器官へ向かう信号を変えています。 AN-S5
人前で話す直前に心拍が速くなったり、恥ずかしいと感じて顔が赤くなったりすることもあります。自律神経の調節には、身体の内部の状態に加えて、周囲の状況をどう受け取ったかという脳の働きも関係しています。こうしたつながりが、感情と身体の変化を結び付けています。 AN-S5
立ち上がるときの血圧を支える
椅子から立つという短い動作でも、身体の内部には変化が起こります。身体が起きると、重力の影響で脚などの静脈に血液がたまりやすくなり、心臓へ戻る血液が一時的に減ります。この変化は、心臓から送り出す血液の量や血圧にも影響します。 AN-S6
首を通る頸動脈の一部(頸動脈洞)や、心臓から出た大動脈が弓状に曲がる部分(大動脈弓)には、血管の伸びを捉える圧受容器があります。血圧の変化に伴って壁の伸びが変わると、その情報が脳幹へ届きます。血圧が下がると、心臓や血管へ向かう交感神経の活動が増し、心臓への副交感神経の活動が減る方向へ調節されます。 AN-S6 AN-S8
その結果、心拍が速まり、心臓の収縮が強まり、血管が収縮することで、血圧の低下を抑えます。この一連の働きが、圧受容器反射です。立ち上がって目の前の用事へ向かう間にも、身体の位置の変化を受けた調節が進んでいます。 AN-S6 AN-S8
消化管の壁にも神経が広がる
食事をすると、消化管では食べ物を混ぜ、先へ送り、消化液などを分泌する働きが進みます。消化管の壁には、腸管神経系と呼ばれる神経細胞の集まりがあります。 AN-S1 AN-R1
腸管神経系には、消化管の状態を受け取る神経細胞、それをほかの細胞へ伝える神経細胞、筋肉や分泌を調節する神経細胞がつながっています。小腸や大腸では、内容物による壁の伸びなどが神経回路に伝わり、近くの筋肉の収縮や分泌が調節されます。内容物を混ぜたり、先へ移動させたりする働きに、この局所の回路が関わっています。 AN-R1
消化管の神経は、迷走神経などを通して脳や脊髄とも情報をやり取りします。迷走神経は脳幹から胸部や腹部の器官へ伸び、内臓からの感覚情報や副交感神経の指令を伝える神経です。食後の消化は、消化管の壁の回路と、脳や脊髄につながる経路が関わり合いながら進みます。 AN-S3 AN-R1
呼吸とともに変わる心拍
座って静かにしているときにも、心拍と心拍の間隔には小さな変動があります。呼吸の周期に伴う変動は「呼吸性洞性不整脈」と呼ばれます。一般に、息を吸う間に心拍が速くなり、吐く間に遅くなる傾向があります。呼吸と心臓の調節が結び付いて生じる、生理的な変化です。 AN-S9
HirschとBishopが1981年に発表した研究では、座った姿勢の17人に、呼吸の速さと一度に吸う息の量を変えてもらい、心拍の変動を調べました。呼吸に伴う心拍変動の大きさは、呼吸の速さと量に応じて変わりました。 AN-P1
歩いたあとに腰を下ろすと、胸やお腹の動きとともに拍動を感じることがあります。身体を動かしていない間も、心臓へ届く神経の活動は続き、呼吸や血圧の変化に合わせて拍動が調節されています。 AN-S3 AN-S6 AN-S9
関連語
出典
- AN-S1:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. The Visceral Motor System. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001. Chapter 21.
- AN-S2:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. The Sympathetic Division of the Visceral Motor System. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001.
- AN-S3:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. The Parasympathetic Division of the Visceral Motor System. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001.
- AN-P1:Hirsch JA, Bishop B. Respiratory sinus arrhythmia in humans: how breathing pattern modulates heart rate. Am J Physiol. 1981;241(4):H620–H629. doi:10.1152/ajpheart.1981.241.4.H620.
- AN-S4:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. Sensory Components of the Visceral Motor System. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001.
- AN-S5:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. Central Control of the Visceral Motor Functions. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001.
- AN-S6:Purves D, Augustine GJ, Fitzpatrick D, et al., editors. Autonomic Regulation of Cardiovascular Function. Neuroscience. 2nd ed. Sinauer Associates; 2001.
- AN-S7:Betts JG, Young KA, Wise JA, et al. 15.1 Divisions of the Autonomic Nervous System. Anatomy and Physiology 2e. OpenStax; 2022.
- AN-S8:Betts JG, Young KA, Wise JA, et al. 15.2 Autonomic Reflexes and Homeostasis. Anatomy and Physiology 2e. OpenStax; 2022.
- AN-S9:National Library of Medicine. Respiratory Sinus Arrhythmia — MeSH Descriptor Data 2026. MeSH descriptor D065809.
- AN-R1:Furness JB, Callaghan BP, Rivera LR, Cho HJ. The enteric nervous system and gastrointestinal innervation: integrated local and central control. Adv Exp Med Biol. 2014;817:39–71. doi:10.1007/978-1-4939-0897-4_3.
- AN-S10:Betts JG, Young KA, Wise JA, et al. 19.2 Cardiac Muscle and Electrical Activity. Anatomy and Physiology 2e. OpenStax; 2022.
- AN-S11:Betts JG, Young KA, Wise JA, et al. 5.3 Functions of the Integumentary System. Anatomy and Physiology 2e. OpenStax; 2022.