部屋に入った直後は時計の音が気になっていても、しばらくすると別のことに集中できることがあります。一方、強い物音に驚いた後は、いつもなら気にならない音にも反応しやすくなるかもしれません。刺激への反応は、経験によって小さくも大きくもなります。
馴化は、刺激の繰り返しに伴って反応が減少する学習です。感覚順応や筋肉の疲労による減少とは区別します。感作は、刺激の経験によって反応しやすさが増すことです。二つの言葉を知ると、「何回やったか」に加えて、「どんな条件で、どう反応が変わったか」に目を向けられます。
出典:N09-S1
経験が、次の反応の大きさを変える
私たちは、目や耳、皮膚などから絶えず情報を受け取っています。そのすべてへ毎回同じ強さで反応していたら、目の前の作業を続けにくくなるでしょう。馴化によって繰り返す刺激への反応が弱まると、重要な変化に対応する余地が生まれると考えられます。
研究でいう「反応」には、体が動くことだけでなく、刺激へ目を向けること、発汗、瞳孔の変化なども含まれます。何を測っているかによって、馴化の捉え方は変わります。驚愕反射は研究しやすい対象の一つですが、馴化はそれ以外の反応でも研究されています。
感作では、刺激を経験した後の反応が大きくなったり、出やすくなったりします。危険な出来事の後に周囲への反応性を高めることは、その場をしのぐうえで役立つ場合があります。反応が小さい方を常によい、大きい方を常に悪いと評価する前に、何へ備えている反応なのかを考えます。
反応が減った理由を見分ける
同じ刺激に反応しなくなったとき、学習が起きたのか、刺激が続いて感覚系の応答が変化する感覚順応なのか、筋肉が疲れたのかを見分ける必要があります。日常の一場面を見ただけでは、どの仕組みが変わったのかまではわかりません。研究では、刺激の種類を変えたり、間隔を空けたりして確かめます。
馴化には、刺激の特徴に応じた選択性があります。ある音への反応が減っても、違う音には反応が残ることがあります。また、刺激をしばらく与えずにいると、弱まっていた反応が少なくとも一部戻る場合があります。後者を自発的回復と呼びます。反応が戻ったことだけで、それまでの経験がすべて無駄になったと捉える必要はありません。
別の刺激を加えた後、慣れていた元の刺激への反応が再び増える現象は脱馴化です。「新しい刺激に反応した」だけの場合とは区別します。たとえばAという音への反応が減った後、別の刺激を挟み、もう一度Aを提示して反応を確かめる、という順序が重要になります。
こうした確かめ方を組み合わせて、反応の減少を分類します。日常で「慣れた」と感じたときにも、何に反応が残っているか、時間を空けるとどう変わるかを見ることで、経験の変化を具体的に捉えられます。
出典:N09-S1
弱まる働きと、強まる働きが重なる
馴化と感作は、必ず交互に起きる二段階ではありません。観察される反応を、弱める過程と強める過程の組み合わせとして捉える考え方があります。これはグローヴズとトンプソンによる二過程理論として知られ、後の研究整理にも引き継がれています。
たとえば繰り返しの初めには反応が増え、その後に減少していく場合があります。単純に「だんだん慣れる」と考えるだけでは、最初に反応が強まる経過を説明できません。二つの過程の強さや時間経過が重なると考えることで、さまざまな反応を整理できます。
刺激の強さ、間隔、回数、何を測定するかも重要です。一般に弱い刺激では反応の減少が生じやすく、非常に強い刺激では目立った減少が見られない場合もあります。強さを上げれば早く慣れる、という単純な関係ではありません。短い時間内の反応減少と、日をまたいで残る変化には、持続時間の違いがあります。長く続く馴化は長期馴化と呼ばれますが、短時間の変化をそのまま引き延ばしただけとは限りません。
学習という言葉には、意識して知識を覚えることだけでなく、このように経験によって反応が変わることも含まれます。繰り返しの意味を考える際は、回数だけを成果の目印にせず、刺激と反応の関係を見ます。
出典:N09-S1
音の与え方を変えた動物研究
2011年、ゲッツとヤニックはハイイロアザラシを対象に、音を繰り返した後の回避行動を調べました。音を出す場所の近くには餌を取れる装置があり、動物がそこへ近づく時間や、水から出ている時間などを記録しました。
音の立ち上がり方を比べた実験には、それまで実験を経験していない若い雌2頭が参加しました。まず、ゆっくり立ち上がる音を繰り返し、その後に、同じ最大音圧と音響エネルギーをもつ、急に立ち上がる音を提示しました。前者では回避が弱まり、後者では回避行動が強まっていきました。
重要なのは、ここで強まったものが、その後の回避行動だという点です。瞬間的な筋肉のびくつきの大きさと、音源を避け続ける行動は、別の測定です。また、2頭を一定の順序で調べた動物研究なので、そのまま人への練習方法を決める根拠にはなりません。
それでも、同じ「繰り返す」という操作でも、刺激がどのように始まるか、何の反応を調べるかによって、結果が変わりうることを示す具体例です。
出典:N09-S2
痛みの領域で使う「感作」との関係
ここで扱う感作は、経験によって反応性が高まる学習の概念です。痛みの研究でいう中枢性感作は、脳や脊髄にある侵害受容ニューロンが、通常の入力や、以前なら反応を起こしにくかった入力に対して、応答しやすくなることを指します。侵害受容ニューロンは、組織を傷つけうる刺激の情報を扱う神経細胞です。
どちらにも反応性の増大という共通点がありますが、指す対象と確かめ方が異なります。驚きやすい、緊張しやすいという観察だけを、中枢性感作の判定へ置き換えることはできません。どこに加わる刺激と、どの反応について話しているのかを確かめると、混同を避けられます。
参考記事→下行性疼痛抑制系
出典:N09-S3
落ち着くために、反応の条件を知る
日常で苦手な刺激に出合ったときは、「慣れるまで我慢する」という回数の目標より、刺激の強さや、休めるか、自分で中断を選べるかを先に確かめると、負担を言葉にしやすくなります。これは日常の負担を確かめるための提案で、馴化の基礎研究が特定のボディワークの効果を示したわけではありません。
触れる練習なら、場所や強さを伝えたときと、予告がないときとで、本人の受け止め方はどう違うか。音が気になるなら、距離や環境を変えたときに作業へ戻れるか。反応の大きさだけでなく、続く時間や、その後に何ができるかも記録する材料になります。苦痛を確かめるために、強い刺激を自分へ繰り返し与える必要はありません。
馴化したかどうかと、本人が安心しているかどうかも、別々に確かめたい点です。表面上じっとしていても、本人の負担が小さいとは限りません。落ち着けたか、続けたいか、中断したいかという言葉も大切にします。
馴化・感作を知ることで、反応を性格の強さや弱さだけで評価せず、経験と条件によって変わるものとして見られます。何に反応し、どのくらいで普段の活動へ戻れるのかを見てみましょう。その変化がわかると、無理の少ない環境や取り組み方を選びやすくなります。
関連記事→恐怖回避モデル
関連記事→神経可塑性
関連語
非連合学習、驚愕反射、感覚順応、連合学習
参考文献
- [N09-S3] International Association for the Study of Pain (年記載なし). IASP Terminology: Sensitization / Central sensitization IASP official terminology .
- [N09-S1] Rankin CH, Abrams T, Barry RJ, Bhatnagar S, Clayton DF, Colombo J, Coppola G, Geyer MA, Glanzman DL, Marsland S, McSweeney FK, Wilson DA, Wu CF, Thompson RF. (2009). Habituation revisited: an updated and revised description of the behavioral characteristics of habituation. Neurobiology of learning and memory 92(2):135-138 .
- [N09-S2] Götz T, Janik VM. (2011). Repeated elicitation of the acoustic startle reflex leads to sensitisation in subsequent avoidance behaviour and induces fear conditioning. BMC neuroscience 12:30 .