ないぞうたいせいはんしゃ|Viscerosomatic reflex|生理学・神経科学
食後にお腹が張ると、服のウエストがきつく感じられたり、お腹の力の入り方が気になったりすることがあります。腹部には、食べ物やガスを含む胃腸と、それを取り囲む筋肉があります。お腹の形が変わる理由を考えるときは、内部の容積だけでなく、周囲の筋肉がどう働くかにも目を向けると理解が深まります。
内臓体性反射とは、内臓からの感覚情報をきっかけに、神経系を介して骨格筋の活動などに変化が起こる反射です。ここでは特に、内臓への刺激と骨格筋の運動反応とのつながりを扱います。食後の張りにはさまざまな要素が関わります。身体の内側から筋肉へ情報が伝わる仕組みを見ていきましょう。
「内臓」と「体性」が指しているもの
胃や腸など、身体の内側で消化や排泄といった働きをする器官を内臓と呼びます。「体性」は、皮膚や、骨について体を動かす骨格筋などに関わる言葉です。腹筋は骨格筋の一つで、腸の壁にある平滑筋とは種類が異なります。腸そのものの運動と、お腹の表面を支える筋肉の活動を分けることが、用語を理解する出発点になります。
「内臓体性」という順序は、情報の出発点が内臓で、応答が現れる先が体性の組織であることを表します。腸に刺激を加えたときに腹筋の活動が変化するなら、その向きに当たります。これに対して、皮膚や筋肉への刺激から内臓の働きが変わる経路は「体性内臓反射」と呼ばれます。二つの語は、身体のどこを入口とし、何を応答として見るかを整理するのに役立ちます。
この節の出典:T04-VS05、T04-VS01、T04-VS02
感覚情報が入り、運動の指令が出る
神経系の説明では、脳と脊髄を合わせて「中枢神経」と呼びます。身体の各部から中枢へ情報を運ぶ向きが「求心性」、中枢から身体の各部へ情報を送る向きが「遠心性」です。ここでいう「中心」は心臓ではなく、脳や脊髄です。
参考記事→求心性線維
内臓への刺激は、受容器という刺激を捉える仕組みによって神経の情報に変換されます。その情報が感覚神経を通って中枢へ入り、そこで処理されると、骨格筋へ向かう運動神経の出力が変わります。入力、処理、出力を一続きの回路として捉えたものを「反射弓」と呼びます。実際の回路には複数の神経細胞が関わります。内臓と筋肉が一本の神経で直結していると考えるより、この三段階で捉えると分かりやすくなります。
筋肉の活動が変わるとは、力の入り方や、働く筋肉の組合せが変わることです。身体が大きく動く場合もあれば、姿勢を保ったまま筋肉の活動だけが変わる場合もあります。「反射」は、目に見える素早い動きだけを指す言葉ではありません。
骨格筋は自分の意思で動かせますが、その活動には意識的な指示を待たずに生じる反応も含まれます。したがって、骨格筋が応答する「体性」の反射を、すべて意図的な運動と考える必要はありません。何を感じたか、動こうと思ったか、どの筋が働いたかは別の観察項目です。この整理は、実験結果を読むときにも、本人の体験を聞くときにも役立ちます。
この節の出典:T04-VS04、T04-VS05、T04-VS02
腸を刺激したとき、何を感じ、何が起こるか
1990年にネスらは、9人の参加者で、大腸の一部であるS状結腸を一定の圧力で一時的に膨らませる実験を行いました。刺激の強さを段階的に変え、本人が感じる圧迫感や痛みと、身体に起こる反応を調べています。9人中8人で、血圧の上昇などの循環反応、呼吸反応、内臓刺激に伴う運動反応が得られました。
この実験の読みどころは、「どれくらい痛いと感じたか」と「どのような身体反応が出たか」を分けて記録している点です。同じ内臓への入力から、意識に上る感覚と運動の応答など、複数の変化が生じ得ます。お腹の中の状態は見えにくいため、研究では刺激の条件を決め、感じ方と身体の反応をそれぞれ測る必要があります。この研究は、条件を管理した内臓刺激に対して、感覚と身体反応の両方が生じることを確かめた例です。
この節の出典:T04-VS01
お腹の張りと腹壁の調整を調べる
2006年にトレモラテラらは、腹部の張りを訴える12人と、健康な対照者12人を主な対象に、大腸へのガス負荷に対する反応を比べました。参加者が座った状態で、腹囲、本人が感じる症状、腹筋の電気活動を測定しています。筋肉が活動するときの電気的な信号を記録する方法が筋電図です。この研究では、皮膚に置いた電極を用いる表面筋電図で腹筋の活動を調べました。
健康な対照者では、ガス負荷に伴って外腹斜筋という腹部の筋の活動が増えました。張りを訴える群では、同じ注入量でも腹囲の増加や症状が大きく、外腹斜筋の活動増加が見られず、内腹斜筋では活動が低下しました。お腹の張りに、腹壁の筋肉の調整が関わることを示す結果です。
同じ「お腹が膨らむ」という見た目でも、中に入るものの量と、周囲の筋肉の応答という二つの側面があります。研究で腹囲と筋電図を一緒に測るのは、この違いを確かめるためです。ここから分かるのは、対象となった人々のガス負荷への応答で、すべての張りに同じ仕組みが当てはまるという意味ではありません。
この節の出典:T04-VS02
関連痛は、痛みを感じる場所の問題
内臓に由来する痛みを、皮膚や筋肉などの場所に感じることを「関連痛」といいます。内臓体性反射で骨格筋の活動に注目するときと、関連痛で痛みの場所に注目するときでは、調べている現象が異なります。実際の体験では、痛みを感じることと力の入り方が変わることが重なる場合があります。
この区別を保つには、「どこが痛いか」「何をすると感じ方が変わるか」「筋肉がどう活動しているか」を、それぞれの問いとして扱うとよいでしょう。痛む場所や押したときの敏感さだけから、一つの臓器や病気を特定することはできません。国際疼痛学会の内臓痛の分類でも、内臓に原因があると判断する際には、痛みの分布に加え、病歴や確認のための検査を重視しています。
この節の出典:T04-VS03
身体の内側と動きを一緒に観察する
ボディワークでこの言葉を使うと、筋肉の状態を、その人が経験している身体全体の変化と合わせて捉えられます。たとえば、お腹の張りが気になるときには、いつから感じるか、食事の前後でどう違うか、座ったときと立ったときで感じ方が変わるかを、本人の言葉で整理できます。こうした観察は、どのような条件でその体験が起きるのかを明確にするのに役立ちます。
ここで大切なのは、本人が感じる楽さ、筋肉の活動、内臓の健康状態を、それぞれ分けて確かめることです。姿勢を変えて楽になったという体験は、そのまま大切に扱えます。一方、内臓の病気が改善したかどうかを判断するには、それに対応する医学的な評価が必要です。
内臓体性反射を知ると、「筋肉の反応を考えるときには、内臓から届く情報も関わり得る」という見方が加わります。身体の表面で起きていることを入口に、感じ方、筋の活動、内側の状態を丁寧に結びつけて考えるための言葉です。
会話の中では「内臓のせいで硬い」と原因を先に決めるよりも、「張っているときに、どの動きがしづらいか」と聞くほうが、具体的な経験を共有できます。専門語は、観察したことを整理し、次に確かめたいことを見つけるために使えます。
この節の出典:T04-VS01、T04-VS02、T04-VS03
関連語
参考文献
- [T04-VS01] Ness TJ, Metcalf AM, Gebhart GF (1990) Ness TJ, Metcalf AM, Gebhart GF (1990). A psychophysiological study in humans using phasic colonic distension as a noxious visceral stimulus. Pain 43:377–386.
- [T04-VS02] Tremolaterra F et al. (2006) Tremolaterra F et al. (2006). Impaired Viscerosomatic Reflexes and Abdominal-Wall Dystony Associated With Bloating. Gastroenterology 130:1062–1068.
- [T04-VS03] International Association for the Study of Pain International Association for the Study of Pain. Definitions of Chronic Pain Syndromes: Chronic secondary visceral pain.
- [T04-VS04] OpenStax / Betts et al. (2022) OpenStax. Anatomy and Physiology 2e, 12.1 Basic Structure and Function of the Nervous System
- [T04-VS05] OpenStax / Betts et al. (2022) OpenStax. Anatomy and Physiology 2e, 15.2 Autonomic Reflexes and Homeostasis