腹横筋

Oct 26, 2026

ふくおうきん|transversus abdominis(TrA)|解剖・体幹

強く息を吐くと、お腹の周囲が内側へ動きます。この動きに関わる筋肉の一つが腹横筋です。お腹の左右に重なる三つの筋肉のうち、最も深い層にあります。筋肉をつくる細長い細胞を筋線維といい、腹横筋では主に横向きに並んでいます。 TA-S1 TA-S3

腹横筋は、胃や腸などの臓器を囲む腹壁の一部です。収縮すると腹壁に張りが生まれ、腹部の内容物を圧迫します。息を吐くときや腕を素早く動かすときに活動し、胴体にあたる体幹の姿勢を保つ働きにも関わります。 TA-S2 TA-P2 TA-P3

お腹の側面にある三つの筋層

脇腹では、皮膚の下に脂肪などを含む皮下組織があり、その奥に筋肉が重なっています。表面に近い順に、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋です。外腹斜筋と内腹斜筋の線維は、おおむね斜めに走ります。腹横筋はさらに内側に広がり、肋骨の下から骨盤の上までの腹壁をつくっています。 TA-S1 TA-S2

腹横筋浅い外腹斜筋・中間の内腹斜筋・深い腹横筋という順序を示す補助図です。
浅い外腹斜筋・中間の内腹斜筋・深い腹横筋という順序を示す補助図です。

位置と浅深順序の模式図。正確な付着・厚さ・断面および中央空白の組織を保証しない。

腹横筋の内面には、腹横筋筋膜という薄い膜が沿っています。筋肉や臓器を包んだり、つないだりする結合組織でできた膜です。さらに内側に腹膜外脂肪があり、その奥を壁側腹膜という膜が覆っています。 TA-S5

お腹の前面では、左右の腹直筋が縦に走っています。腹直筋は骨盤の前側にある恥骨と胸郭を結び、上体を起こすときなどに働きます。胸郭は、肋骨や胸骨などで囲まれた胸の部分です。体幹を曲げたり、ひねったりするときには、腹直筋や腹斜筋などの活動が組み合わさります。腹横筋も腹壁の張りを調節しながら、これらの動作に加わります。 TA-S1 TA-P3

肋骨と骨盤から前面の腱膜へ

肋骨の前方には、弾力のある肋軟骨が続いています。腹横筋の上部は、その下の方にある肋軟骨の内面に付いています。下部は、骨盤の上縁である腸骨稜や、脚の付け根を通る鼠径靱帯の一部から広がっています。背中側では、腰背部の筋肉を包む胸腰筋膜にもつながっています。胸腰筋膜は、筋肉と腰の骨格を結ぶ広い結合組織です。 TA-S2 TA-P1

脇腹からお腹の前へたどると、筋線維は幅の広い平たい腱へと移り変わります。このような腱を腱膜といいます。腹横筋の腱膜は、外腹斜筋や内腹斜筋の腱膜とともに、腹直筋を包む腹直筋鞘をつくります。左右の腹直筋の間では腱膜が組み合わさり、お腹の中央を縦に走る白線になります。 TA-S3 TA-S5

腹直筋鞘の重なり方は、お腹の高さによって変わります。へその高さ付近では、腹横筋の腱膜は腹直筋の後ろを通ります。へそと恥骨の間で、この後ろを覆う腱膜が終わる境界を弓状線といいます。そこから下では、三つの筋肉の腱膜がすべて腹直筋の前を通ります。腹直筋のすぐ後ろには、腹横筋筋膜が位置するようになります。 TA-S6

腱膜には、引っ張る力を受け持つコラーゲン線維が多く含まれています。筋線維やその束を包む結合組織も、腱膜へ続いています。腹横筋が収縮する力は、このつながりを通じて、お腹の前側の腹直筋鞘や白線、背中側の胸腰筋膜へ伝わります。 TA-S3 TA-S2

参考記事→ファシア(筋膜)

上部と下部で変わる線維の向き

腹横筋を横から見ると、上の方では線維がほぼ水平に並んでいます。下へ進むにつれて、体の中央へ向かいながら斜め下に走る線維が増えます。肋骨の近くと骨盤の近くでは、線維が周囲を引く方向にも違いが生じます。 TA-P1

この配列は、防腐処理をした26体の献体を左右とも解剖した研究で詳しく調べられています。上部、中部、下部を比べると、線維の向きに加えて、筋肉の厚さや線維の束の長さにも違いがありました。腹横筋の内部には、部位の間を隔てる結合組織の仕切りも見つかっています。 TA-P1

息を吐くときに働く

息を吸うときには、胸部と腹部を隔てる横隔膜が収縮して下がります。腹部の内容物が押し下げられ、それに伴って腹壁が外側へ膨らみます。安静にして静かに息を吐くときには、主に肺や胸郭が元に戻ろうとする力で空気が出ていきます。 TA-S4 TA-R1

強く息を吐くときは、腹横筋を含む腹筋群が収縮します。腹壁が内側へ動き、お腹の内側の圧力である「腹腔内圧」が高まります。腹部から押されて横隔膜が胸郭のほうへ戻ると、肺が入っている空間は小さくなります。肺の中の圧力が外気より高くなり、気道を通って空気が押し出されます。 TA-S4 TA-R1

健康な6人を座った姿勢で調べた研究では、自分の意思で息を吐く、声を出す、勢いよく息を押し出すといった課題で、腹横筋の電気的な活動が記録されました。多くの課題で外腹斜筋や腹直筋も一緒に活動していました。言葉を続けて話すときにも、腹壁の筋肉が呼気を支えています。 TA-P2

腕を動かす前に始まる活動

立ったまま腕を素早く前へ上げると、腕が加速する力が肩を介して体幹に伝わり、姿勢を変えようとします。この動きに備え、神経系は肩や腕だけでなく、腹部や背中の筋肉の活動も調節します。 TA-P3

立位の15人に、目で見る合図に合わせて腕を素早く動かしてもらった研究があります。腕を前、横、後ろへ動かす課題で、腹横筋の電気的な活動は、肩の三角筋より前に始まりました。動作が起こす姿勢の変化を見越して、あらかじめ筋肉の働きを調節することを予測的姿勢調節といいます。 TA-P3

別の研究では、左右の腹横筋を同時に記録し、右腕と左腕をそれぞれ素早く上げてもらいました。右腕を上げると左の腹横筋が右より早く活動し、左腕を上げると右の腹横筋が左より早く活動しました。 TA-P4

腹横筋の上部、中部、下部をそれぞれ調べた研究もあります。腰痛で動作が妨げられたり、治療を受けたりしたことのない11人が、立って腕を素早く前へ上げる課題を行いました。上部の腹横筋の活動開始は、中部や下部より遅くなっていました。このうち6人では座った姿勢でも調べられ、腹筋の活動開始は立位より遅くなっていました。 TA-P7

参考記事→フィードフォワード

呼吸を続けながら腕を動かす

腕を繰り返し動かす間も、呼吸は続きます。腹部では、上方の横隔膜、周囲の腹筋群、下方の骨盤底などが力を受け持っています。腹横筋の活動も、腕の動きに備える働きと、呼吸に伴う腹壁の動きとが重なる中で調節されます。 TA-S1 TA-P6

呼吸を続けながら腕を繰り返し動かす実験では、腹横筋と横隔膜に持続的な活動が生じました。その活動の強さは、呼吸の周期と腕を動かす周期の両方に合わせて変わっていました。腕を動かしている間には、腹腔内圧も高くなっていました。 TA-P6

腹部の圧力が高まった状態を保ちながら、横隔膜と腹筋群は、吸う・吐くに応じて活動の強さを変えます。それに伴って腹部の形が変わり、呼吸が続けられていました。 TA-P6

お腹を引き込んだときの変化

お腹を意識的に内側へ引き込む動作を、ドローインと呼びます。このとき腹部で何が起こるかを、MRIや超音波画像で調べた研究があります。お腹を輪切りにした方向の画像を使い、腹壁の位置や筋層の厚さを測っています。 TA-P5

健康な男性のクリケット選手13人では、お腹を引き込むと、左右の腹横筋と内腹斜筋が厚くなり、体幹の横断面積が小さくなりました。腹部前方の筋膜も、左右で平均約1.5センチメートル移動していました。 TA-P5

関連語

腹腔内圧、横隔膜、骨盤底筋群、胸腰筋膜、予測的姿勢調節、腹直筋、内腹斜筋

出典

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