島皮質

Oct 21, 2026

とうひしつ|insular cortex / insula|脳・身体表現

温かいスープを一口含むと、塩味やうま味、口の中の温かさが感じられます。飲み込んだあとの身体の感じや、ほっとする気持ちまで含めれば、一口の経験にはいくつもの側面があります。島皮質は、こうした味や身体の感覚、感情や注意に関わる大脳皮質の領域です。「島」や「インスラ」とも呼ばれ、大脳の左右それぞれにあります。身体の状態を伝える情報を受け取り、感情や行動に関わるほかの領域とも連絡しています。

この節の出典:N_S1、N_S2、N_P1

大脳の表面からは見えにくい場所

大脳の表面を覆う神経細胞の層を、大脳皮質と呼びます。島皮質もその一部ですが、大脳を横から見たときには、周囲の皮質に覆われています。大脳の前方の前頭葉、上側の頭頂葉と、側面の側頭葉の間を走る外側溝の奥にあります。
その上を覆う部分は弁蓋と呼ばれます。解剖図で弁蓋を開いた状態を描くと、溝の底に広がる島皮質が見えてきます。外から見える皮質が、溝の奥へ折れ込むように続いているのです。
島皮質の表面にも溝と、脳回と呼ばれる盛り上がりがあります。島中心溝を目印に前部と後部に分けられ、前部には短い脳回、後部には長い脳回が並んでいます。

この節の出典:N_S1、N_S2

島皮質右上に冠状断の全体の模式図を置き、オレンジ枠の部分を左に拡大している。拡大図は上が画面上、外側が左、内側が右。外側から続く外側溝と、その奥の桃色の皮質の帯にある島皮質の位置を、2本の指示線で示している。

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冠状断の全体(小図)と、その一部の拡大図の模式図です。島皮質の前部・後部や、機能ごとの境界は示していません。人体の左右、観察方向、切断の位置は示していません。

場所によってつながり方が変わる

島皮質の内部では、神経細胞の並び方や、ほかの領域とのつながり方が場所によって異なります。後方から中央にかけては、体性感覚や運動に関わる領域とのつながりがあり、触れた感覚、温度、痛みなどの処理に関わります。前方には、感情、注意、判断などを扱う領域とよくつながる部分があります。
人の脳でこうした経路を調べる方法のひとつが、拡散MRIです。組織の中で水分子が動きやすい方向を測り、神経線維がどの方向へ走っているかを推定します。ノミらは199人のデータを使い、島皮質を前部の上側、前部の下側、後部の3つに分け、各区分とほかの領域を結ぶ経路を調べました。前部の上側と下側ではそれぞれに特徴的な経路が見られ、3区分に共通する経路もありました。
たとえば前部の上側には、注意や判断に関わる前頭葉の領域とのつながりがあり、下側には感情に関わる領域とのつながりがあります。このような連絡を通して、身体の感覚と、その場で何をしているかという情報がやりとりされています。

この節の出典:N_S2、N_P5

味を感じるときの島皮質

舌などにある味を受け取る細胞が、食べ物の成分に反応すると、その情報が神経を通って脳へ伝わります。まず、大脳と脊髄の間にある脳幹に入り、脳の深部で感覚情報を中継する視床を経て、皮質へ届きます。島皮質と、その周囲の弁蓋には、甘い、塩辛いといった味の種類を感じ取る働きに関わる領域があります。
口の中の温度や舌ざわりも、それぞれに対応する受容器で捉えられます。受容器は、温度や接触などの変化を神経の信号へ変える仕組みです。温かい液体が舌に広がると、味覚、触覚、温度の感覚が同時に生じ、鼻へ抜ける香りも味わいに加わります。
近添らは健常成人20人に、甘味、塩味、苦味、酸味の液体を味わってもらい、fMRIで脳の反応を調べました。fMRIは機能的磁気共鳴画像法の略で、神経活動に伴う血液の酸素状態の変化を測ります。実験では、各参加者が感じる味の強さを事前にそろえ、液体を口に含むたびに快・不快も評価してもらいました。
島皮質の前方から中央部などで、画像上の小さな区画ごとの反応を組み合わせて解析すると、味の種類を偶然より高い精度で判別できました。たとえば甘味と塩味では、それぞれの区画の反応の強さを組み合わせたパターンが異なっていました。本人の快・不快の評定を考慮した解析でも、味の種類に対応するパターンが認められています。

この節の出典:N_S3、N_P1

身体の内側に注意を向ける

階段を上ったあと、胸の拍動や呼吸の速さに気づくことがあります。身体の内部の状態を捉える働きは、内受容感覚と呼ばれます。心臓、肺、消化管などからの情報は、内臓と脳幹を結ぶ迷走神経や、背骨の中を通る脊髄を経由する経路で伝わります。島皮質は、こうした情報を扱う領域のひとつです。
クリッチリーらは健常者17人に、10個の音を続けて聞いてもらいました。音は本人の拍動に合わせるか、少し遅らせて鳴らします。参加者が音と拍動のタイミングが合っているかを判断している間、fMRIで脳の反応を測りました。同じ音を聞きながら音の高さの違いを探す課題と比べると、心拍に注意を向ける課題では、島皮質や体性感覚・運動に関わる領域、大脳の内側面にある帯状皮質などの反応が強まりました。右前部の島皮質から弁蓋にかけた活動は、心拍を判断する正確さとも関連していました。
ボディワークで静かに横になると、床に触れる背中や、胸やお腹の動き、拍動などに気づくことがあります。床の接触を感じる触覚、身体の位置や動きを知る固有感覚、内受容感覚が、そのときの身体の感じを支えています。島皮質は体性感覚野などと連絡しながら、身体へ注意を向けて感じ取る経験に関わります。
安静にしていても、拍動に気づく瞬間と、別のことを考えて気に留めていない時間があります。その間も身体の状態を伝える信号は届き、心拍や呼吸の調節が続いています。

参考記事→求心性線維

この節の出典:N_S4、N_P2、N_S2

身体の状態の調節にも関わる

島皮質は、心拍、血圧、消化などを調節する自律神経の働きにも関わります。体温やホルモンの調節に関わる視床下部や、脳幹などと連絡する回路を通して、身体の状態の調節に加わっています。
シュシュらは、てんかんの検査で脳内に電極を置いた47人の患者について、島皮質を刺激したときの心拍を調べました。刺激は1回3秒または5秒で、解析した100回のうち21回では心拍が一時的に速くなり、26回では遅くなりました。残る53回では、研究の判定基準を満たす心拍の変化は見られませんでした。左右どちらの島皮質への刺激からも、速くなる反応と遅くなる反応が生じています。
この短時間の反応は、島皮質が身体から情報を受け取ることに加え、心拍に影響を及ぼす回路にも関わっていることを示しています。

この節の出典:N_P3、N_S2

いま気になることへ注意が向く

食事中に会話へ集中していたのに、思ったより熱い一口で口の中へ注意が戻ることがあります。私たちは、そのとき自分にとって重要な出来事や身体の変化へ、注意を向け直しています。島皮質の前部は、こうした重要性の処理に関わる脳のネットワークの主要な領域として研究されています。
シーリーらは、人が目を閉じて静かにしている間のfMRI信号を調べました。前部島皮質を含む領域と、帯状皮質の前方部分などでは、信号が時間とともに一緒に変動していました。14人のデータで見つけたつながりは、別の21人を異なる解析方法で調べたときにも確認されています。
著者らは、これらの領域が重要な出来事の処理に関わるという先行研究も踏まえ、このつながりをサリエンス・ネットワークと名づけました。サリエンスは、刺激や出来事が目立ち、本人にとって重要になる性質を意味します。
熱いと感じたら飲むのを少し待ったり、空腹に気づいて食事を始めたりします。身体の変化へ注意が向くと、それに応じて次の行動も変わります。

この節の出典:N_P4、N_S2

関連語

  • 内受容感覚:身体の内部の状態を捉える働き
  • 体性感覚野:身体の感覚情報を処理する大脳皮質の領域
  • 自律神経:心拍・血圧・消化などを調節する神経系
  • サリエンス・ネットワーク:重要な出来事や刺激の処理に関わる脳のネットワーク
  • 多感覚統合:複数の感覚情報を組み合わせる働き

参考文献

本文文字数:2775字(導入・各節本文、空白を除く。見出し・根拠リンク・図挿入案・関連項目・参考文献は除外)。

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