開放系と閉鎖系シリーズ|生成・固定・再生成 第4回(全4回)
No.7〜9では、構造が生まれ、固定され、次の活動の条件になる過程を見てきました。この4本目では、それらを「人間は制約されながら、新しい制約を作る」という一つのモデルへまとめます。自由と制約を対立させず、人間の創造や学習を捉え直すための基礎になります。
人間は既存の構造に制約されながら行動し、その行動から新しい構造を作ります。生成・固定・再生成を一つのモデルへまとめます。
開放系の内部には、知識や主体性を蓄積する相対的な閉鎖系が形成されます。
開放されながら閉鎖系を発展させる
ここで重要なのは、閉鎖系が必ず外部から完全に切断されるわけではないという点です。
むしろ高度なシステムほど、
外部には開かれながら、内部には安定した閉鎖的構造をもつ
場合があります。
企業がその典型です。外部では市場に適応しなければなりません。内部では、業務制度、ブランド、企業文化、専門知識、コミュニティを安定させます。
この二重性によって、
変化への適応と、蓄積・専門化を同時に行う
ことができます。
内部をもちながら開かれている状態
この点は、開放と閉鎖の理解を修正します。
これまでの議論では、開いていることが良く、閉じていることが悪いのではありません。また、開く → 閉じる → 再び開く、という時間的な往復だけでもありません。
高度なシステムでは、
外部とのフィードバックを保ちながら、内部には強い構造をもつ
ことが重要になります。
内部構造がなければ蓄積ができません。外部との接続がなければ硬直します。したがって重要なのは、
内部モデルをもつことではなく、その内部モデルを外界から修正可能な状態にしておくこと
です。これはこれまでの議論で往復可能性の言い換えです。
四つの水準の統一と、内部・外部の反転
以上を踏まえると、これまでの議論で四つの水準は次のように統一できます。
レベル1:認識(個体―環境)
外界 → 知覚・探索 → 予測誤差 → 内部モデル → モデルを使った行動 → 外界へ
レベル2:技能(身体―課題―環境)
探索 → 運動の自己組織化 → 精密化 → 安定した技能 → 新しい課題 → 再組織化
レベル3:社会活動(集団―環境)
一次ニーズ → 社会的試行錯誤 → 有効な実践 → 制度・規範 → 二次ニーズ
↓
体系化 → 環境変化 → 制度再編
レベル4:文化・企業(制度・意味世界)
活動 → 自己対象化 → 歴史・思想・物語 → 意味世界 → 内部構造の重層化
↓
外部環境との再接続
階層をまたぐと内部が外部へ反転する
この四層をつなぐ重要な原理があります。
ある階層では内部構造であるものが、別の階層では外部環境になる
たとえば、次のとおりです。
- 社会が作った言語は、個人には外部環境
- 国家が作った法律は、企業には外部環境
- 企業が作った企業文化は、新入社員には外部環境
- 過去世代が作った武術体系は、新しい学習者には外部環境
つまり「内部と外部」は絶対的な区別ではありません。 どの主体・どの階層から見るかによって反転します。
これは構造の重層性を理解するための重要な視点です。同時に、開放と閉鎖の区別についても同じことがいえます。 ある系が開放系か閉鎖系かは、どの階層を見ているかによって変わります。
世界を「生成された制約の積層」として見る
ここまでをさらに抽象化すると、人間世界の多くの部分を、
過去に形成された制約が積み重なった世界
として見ることができます。
現在の人間は、生物学的な身体、言語、文化、法、国家、市場、技術、組織、家族制度など、過去に形成された膨大な構造の内部に生まれます。その構造に制約されながら、人間は新しい行動や構造を生成します。
すると、
人間は構造に制約されながら、新しい構造を作り、その構造が次の人間を制約する。
という循環が成立します。
「生成された制約」という表現
ここで「構造」を、
生成された制約
と呼ぶこともできます。これには二つの意味があります。
第一に、その制約自体が過去の歴史的な過程から生成されたものであること。第二に、その制約が次の生成を方向づけること。
したがって、
生成 → 制約 → 制約のなかで新しい生成 → 新しい制約
という連鎖になります。
一般モデル
ここまでの議論を最も一般的な形にすると、次のようになります。
主体は環境との相互作用のなかで探索を行い、フィードバックを受けながら有効なパターンを自己組織化する。有効なパターンは反復・学習・制度化・設計などによって安定し、内部モデルまたは構造となる。構造は以後の行動を制約するが、同時により高度な活動を可能にする足場となる。形成された構造は、次の主体・次の世代・次の階層にとって外部環境となり、その内部でさらに新しい探索と構造形成が始まる。
このプロセスには二つの運動があります。
時間的運動
生成 → 固定 → 再生成
階層的運動
環境 → 構造 → 構造が次の環境になる → 次の構造
そしてそれぞれの段階に、 外部フィードバックへの開放 と 内部モデルの固定・精密化 という二つのモードが存在します。
本モデルの中心は二項対立ではなく動態である
以上を踏まえると、本理論の中心を、
- 開放系と閉鎖系
- 自己組織化と内部モデル
- 自由と制約
- 外界と観念
- 探索と精密化
という二項対立に置くべきではありません。
重要なのは、
一方から他方が生成され、他方が再び次の一方の条件になる
という動態です。
つまり、 探索が構造を生み、構造が次の探索を可能にし、探索が再び構造を書き換えます。 同様に、 開放系が内部体系を生み、内部体系が次の活動環境となり、外部環境との接触によって再編されます。
現段階での中心命題
現段階では、以下を本理論の中心命題として置きます。
人間の認識・技能・社会活動・文化は、環境との相互作用から自己組織化的に解を生成し、その解を内部モデルまたは構造として固定・精密化・累積し、その構造を足場としてさらに新しい探索を行うことで発展する。形成された構造は、次の主体・次の世代・次の階層にとって環境となるため、発展は「生成―固定―再生成」という時間的往復と、「構造―環境―新構造」という階層的重層化の双方として進行する。
さらに社会・文化については、次を付け加えられます。
社会的活動が成熟すると、一次的な外部ニーズを解く過程で形成された構造そのものが対象化され、二次ニーズ、規範、思想、歴史、物語、アイデンティティなどが累積する。これによって社会的内部モデルは意味世界へ発展し、文化となる。
今後の理論上の課題
このモデルをさらに強くするには、少なくとも次の問題を区別して検討する必要があります。
第一に、自己組織化と意図的設計の関係です。 これまでの議論では、両者が単純な二択ではないこと、硬直の要因が生成の経路ではなく外部への開かれ方にあることまでは述べました。しかし、自己組織化された慣習を後から制度化するとき何が失われるのか、設計された制度が現場で別の形へ自己組織化するのはどのような条件でか、という点は未解決です。
第二に、どの構造を固定し、どの構造を外部フィードバックへ開くべきかという問題です。 すべてを可変にすれば蓄積ができず、すべてを固定すれば適応ができません。これまでの議論で往復可能性を指標として挙げましたが、その判定の手続きは示せていません。
第三に、異なる時間スケールの関係です。 短期的には固定されている構造でも、長期的には変化している場合があります。
第四に、階層間のフィードバックです。 上位構造が下位主体を拘束するだけでなく、下位主体の行動が蓄積することで上位構造そのものが変わります。この記事の階層モデルは主に上から下への拘束を扱っており、下から上への経路の記述が手薄です。
したがって最終的には、
ボトムアップの生成とトップダウンの制約が循環する多層システム
として理論化する必要があります。
結論
この記事の中心にあるのは、
構造は最初から存在するのではなく、過去の探索・相互作用・選択の結果として形成される
という考え方です。
形成された構造は自由を制約します。しかし同時に、その構造を足場として、より複雑な活動を可能にします。さらに、その構造は次の主体・世代・階層にとって環境になります。その環境の内部で、新しい探索と自己組織化が始まります。
したがって人間世界の発展を、
探索 → 構造 → 構造を環境とした探索 → 新しい構造
という重層的な生成の過程として見ることができます。
このモデルでは、自己組織化と体系化、開放と閉鎖、外界と内部モデル、探索と精密化、自由と制約は、互いに排他的なものではありません。むしろ一方が他方を生み、他方が再び次の一方を可能にします。
生成が構造を生み、構造が次の生成を可能にする。
この循環と重層化こそが、認識、技能、制度、国家、企業、文化といった多様な対象に共通して現れる発展構造ではないか、というのが現段階での中心仮説です。
空間の軸、すなわち開放された系の内部に閉じた系が形成されることが何を生むのかについては、中編『開放系の中の閉鎖系』で扱います。