開放系と閉鎖系シリーズ|開放系の中の閉鎖系 第1回(全3回)
ここからNo.13までの3本では、「開放系の中に閉鎖系がある」という一見矛盾した構造を考えます。閉じることを単なる遮断と捉えると、主体性や独自性がどこから生まれるかを説明できません。外部と関わりながら内部の基準を保つとはどういうことか、その基本から整理します。
閉鎖系という言葉は、情報を遮断した世界を連想させます。しかし本シリーズで扱う閉鎖は、外部との関係を内部構造によって選び直す働きです。
開放系と閉鎖系の違いは、情報の有無ではなく、外部との関係をどう媒介するかにあります。
問題設定
これまでの議論では、人間の社会的な活動を大きく二種類のフィードバック構造から捉えてきました。
一つは、市場、競争、実験、勝敗、失敗など、体系の外側から結果が返ってくる 開かれたフィードバックループ です。
もう一つは、文化の内部の規則、価値観、作法、思想、資格の体系などを基準として内部的に精密化していく 閉じたフィードバックループ です。
当初、この二つは主として、開放系が適応・探索・変化、閉鎖系が保存・精密化・体系化、という対比として捉えていました。
しかしさらに考えると、閉鎖系にはより積極的な役割があります。それは、
開放系から得た大量の情報や経験を、そのまま流し続けるのではなく、内部で統合し、一貫した構造として保持すること
です。
この観点からすると、企業のブランドや組織文化、科学におけるパラダイム、個人における自我や価値観、社会における文化などは、共通した構造として捉えられます。
すなわち、この記事の中心の仮説は次のものです。
開放された系の内部に相対的に閉じたサブシステムを形成することが、主体性・独自性・専門性・文化を生み出す。
開放されているだけでは主体にならない
あるシステムが外部環境に完全に開かれている場合、そのシステムは外部から入ってくるフィードバックに継続的に適応します。
これは高い適応の能力を生みます。しかし同時に、 環境に最適化されすぎる という問題が起こります。
外部から、Aが評価されればAへ適応し、Bが評価されればBへ適応し、Cが流行すればCへ移る。この場合、そのシステムには持続的な独自性が形成されにくくなります。
完全な開放:外部入力 → 直接反応
という構造だけでは、主体は形成されません。主体が成立するためには、次の中間の構造が必要になります。
主体:外部入力 → 内部モデル → 選択・変換 → 独自の出力
この「内部モデル」が、この記事における相対的な閉鎖系です。
ただし、ここは正確に断っておく必要があります。 この記事は主体の構造を述べるために、内部モデルを相対的な閉鎖系と呼びます。しかし 厳密には、内部モデルと閉鎖系は別の概念です。 内部モデルは閉鎖系そのものではなく、開放と閉鎖の両方を媒介する構造です。開放型のフィードバックによって形成・修正され、閉鎖型のフィードバックによって精密化・保存されます。 この区別は別の記事で扱います。 この記事では、主体の内部にあって外部の情報を変換する部分、という限定された意味で使います。
ただし、ここで正確に述べておく必要があります。 完全に開かれたシステムに内部の変換がまったくないわけではありません。どんなシステムも、入力を何らかの形で処理します。違いは変換の有無ではなく、 その変換が持続するかどうか です。環境が変わるたびに変換の仕方そのものが入れ替わるなら、外から見れば直接反応と区別がつきません。したがって主体性の条件は、内部モデルが存在することよりも、 それが環境の変化より遅い時間スケールをもつこと にあります。この点はこの連載のほかの記事で詳しく扱います。
閉鎖系とは外部との切断ではない
ここでいう閉鎖系は、外部世界から情報を遮断することではありません。むしろ反対に、
外部との相互作用によって得られた情報が、内部で自己組織化され、一定のまとまりをもつようになった状態
です。
たとえば人間は、経験、他者の言葉、成功、失敗、読書、社会的な評価などから大量の情報を受け取ります。しかしそれらが単なる断片のまま蓄積されるわけではありません。類似した経験が結びつき、次のようにまとまっていきます。
パターン → 概念 → 価値判断 → 世界観
開放系における相互作用の履歴が圧縮され、内部構造になる。
この意味で閉鎖系の形成は、 遮断 ではなく、 内在化・統合・圧縮・構造化 です。
これまでの議論では、ここでいう内部モデルは、完成した解を保存したものではありません。 その場の状況に応じて解を構成するために使われる材料です。したがって内部モデルをもつことと、毎回同じ出力が出ることは、別のことです。
自己組織化としての内部モデル形成
この内部構造は、必ずしも最初から設計されるわけではありません。多くの場合、次の形で自己組織化します。
経験 → 反復 → 類似性の認識 → パターン → 概念 → モデル
その後、人間は形成された構造をさらに、言語化し、分類し、矛盾を修正し、精密にし、教え、保存できます。
したがって内部モデルの形成には二つの段階が考えられます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 第一段階:自己組織化による形成 | 外界との相互作用から、設計者なしにまとまりが生まれる |
| 第二段階:意図的な精密化 | 形成されたまとまりを意識的に整理し、体系として発展させる |
これはこれまでの議論で自己組織化と意図的設計の区別に対応します。 同じ内部モデルのなかで、両方が働きます。順に一度ずつではなく、往復します。 意図的に精密化した結果が次の自己組織化の材料になり、そこからまた新しいまとまりが生じます。 文化、思想、組織文化、個人の世界観などは、この二段階を通じて形成されると考えられます。