シリーズ|体の地図を書き換える ― 身体図式と運動制御の科学
関節には動く番と止まる番がある
Part 4 / 10
腰痛のある人に「どこが痛いですか」と聞くと、当然「腰」と答えます。しかし多くの場合、腰そのものが問題の原因ではありません。腰の「上」か「下」にある関節の問題が、腰にしわ寄せとして現れているのです。
ジョイント・バイ・ジョイント理論
理学療法の分野でグレイ・クックとマイク・ボイルが提唱した「ジョイント・バイ・ジョイント理論」は、人体を「関節の積み重ね」としてとらえます。隣り合う関節は「可動性(よく動く)」と「安定性(しっかり止まる)」の役割に交互に特化しています。
| 関節・部位 | 主な役割 | 役割が果たせないとき起きること |
|---|---|---|
| 足関節 | 可動性 | 底背屈の制限 → 膝にねじれや過剰な負荷 |
| 膝関節 | 安定性 | 足関節や股関節の代わりに回旋 → 膝の痛み |
| 股関節 | 可動性 | 硬化 → 腰椎が代わりに動く → 慢性腰痛 |
| 腰椎 | 安定性 | コアの安定性喪失 → 脊柱の過剰な動き → 過緊張 |
| 胸椎 | 可動性 | 伸展・回旋低下 → 頸椎や肩甲骨が代償 → 肩こり |
「被害者」と「加害者」
たとえば、股関節が硬くなって本来の可動域を失うと、隣の腰椎がその分を補おうとして不自然に動きます。すると腰椎まわりの筋肉が関節を守るために過度に緊張し、慢性的な腰痛が起きます。
局所的な痛みの発生源(膝や腰椎)は「被害者」であり、根本的な原因は「加害者」である足関節や股関節の可動性欠如、つまり脳内の身体図式における関節機能の誤ったマッピングに帰着します。
痛い場所を揉んでも一時的にしか楽になりません。なぜなら問題は「被害者」ではなく「加害者」のほうにあるからです。
各関節を設計図どおりに動かす
ジョイント・バイ・ジョイント理論と身体図式の関係は明確です。各関節をその設計図どおりに精密に動かすことは、代償運動を排除し、中枢神経系に対して純度の高い固有受容感覚フィードバックを送るプロセスになります。
JINENの「這」の段階で行う股関節コントロールや肩甲骨の分離運動は、まさにこの原則に基づいています。「動くべき関節」が適切に動き、「止まるべき関節」がしっかり安定する。この当たり前のことを取り戻すだけで、体全体の負荷のバランスが変わり始めます。
参考文献
- 16. Understanding Movement: The Joint-By-Joint Theory - Momenta Chiropractic. momentachiropractic.com
- 18. Joint-By-Joint Approach For Mobility: Fix Mobility To Fix Pain! - [P]rehab. theprehabguys.com
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。