シリーズ|体の地図を書き換える ― 身体図式と運動制御の科学
脳には複数の地図がある
Part 3 / 10
「体の地図は脳に1枚だけある」と、長い間考えられてきました。しかし2022年に発表された研究が、その常識を覆しました。脳の中には、目的に応じて使い分けられる「複数の地図」が存在するのです。
目の地図と手の地図は違う
たとえば、目で追うときの「手の形の認識」と、手を伸ばして触れるときの「手の形の認識」は、同じ手なのに脳の中では別々の地図として処理されています。参加者に、手の上の特定の場所を「目で見る(眼球運動)」のと「手で触れにいく(到達運動)」のを同時にやらせた実験で、この2つの運動はまったく異なる身体マップによって制御されていることがわかりました。
それぞれの地図で、視覚や固有受容感覚の重み付けも異なっていました。
つまり、「眼のための身体図式」と「手のための身体図式」が並列して存在しています。1つの地図がぼやけると、他の地図にも波及する
この発見には重大な含意があります。ある運動システムの精密さが低下すると、それに紐づく身体図式にノイズが入り、身体制御全体の不確実性が増大する可能性があるということです。
たとえば、デスクワークで長時間動かない生活を続けると、肩甲骨周りの地図がぼやけていきます。すると、腕を使う動作の地図にもノイズが波及し、「なんとなく肩が重い」「腕が上がりにくい」という感覚につながります。
「分けて動かす」は地図を個別に洗練させること
JINENの「わける」という原則 ―― 各関節を分離して精密に動かす ―― は、この神経科学的な知見と深く関連しています。
複数の地図があるということは、それぞれの地図を個別に洗練させることができるということです。股関節だけを丁寧に動かせば、股関節の地図が鮮明になる。肩甲骨を独立して動かせば、肩甲骨の地図がクリアになる。
全身をまとめて「ストレッチ」するのと、関節を一つひとつ分離して動かすのとでは、脳への入力の質がまるで違います。JINENのボディリマッピングでは、この「分けて動かす」ことで各地図に純度の高い感覚信号を送り、地図の解像度を高めていきます。
参考文献
- 3. Matsumiya K. (2022). Multiple representations of the body schema for the same body part. *PNAS*, 119(4), e2112318119. PNAS
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。