じここうりょくかん|self-efficacy|心理学
会議で、担当している仕事について三分間説明してほしいと頼まれました。いつも一緒に働く同僚が相手で、手元にメモがあれば話せそうです。しかし、大勢の前で、その場で質問にも答えるとなると自信がありません。どちらも「人前で話す」ことですが、自分にできそうだと感じる範囲は違っています。 S1 S2
自己効力感とは、ある課題や状況で必要な行動を「自分は実行できる」と信じることです。英語ではself-efficacyといいます。心理学者アルバート・バンデューラが、1977年の論文で行動の変化を説明する中心的な概念として示しました。日常の言葉なら、「この条件なら、自分にもやれそうだ」という見通しに近いです。 S1 S2
その見通しは、課題に取りかかるか、難しい場面でどれくらい努力を続けるかに関わります。発表を引き受ける前にも、練習がうまくいかなかったあとにも、自分に何ができそうかという判断が働いています。 S1 S3
行動を起こす自分と、その先の結果
「自分は要点を整理し、三分以内に説明できる」という見通しは、自己効力感に当たります。「要点を順番に説明すれば、相手に伝わるだろう」という期待は、行動がどんな結果を生むかについてのもので、結果予期と呼ばれます。 S1 S2
「短い発表には要点を絞るのがよい」とわかっていても、自分で話を絞り込めるかには不安が残ることがあります。説明する力に自信があっても、相手の関心や会議の進め方から、提案は採用されそうにないと考えることもあります。 S1 S3
「発表をしたい」という気持ちは、その行動を望むことを表します。「自分には価値がある」という自尊感情は、自分という人間への評価に関わります。たとえば、自分を大切に思っていても、人前で説明することには自信を持てないことがあります。 S2
図の矢印は概念の対応です。自信があれば必ず成功する、という因果を保証していません。
つまずいたとき、何が変わるのか
最初の練習で、説明が五分を超えてしまったとします。「内容を減らせば三分に収められそうだ」と思えると、どこを短くするかに注意が向きます。「自分には人前で話す力がない」と感じると、次の練習に取りかかること自体が負担になります。 S3 S7
バンデューラは、能力の見積もりが課題の選び方や、努力の向け方に関わると考えました。発表の練習を続けるあいだには、どの例を省くか、どの資料を見せるかといった方法も試せます。「自分にもできそうだ」という見通しが、こうした試行錯誤や、困ったときにもう一度試すことを支えます。 S3 S7
実際の発表には、話す内容の知識、要点を選ぶ技能、準備に使える時間などが必要になります。自己効力感は、その場で自分の力を組み合わせ、行動に移せるかという判断も含みます。 S1 S3
「できそうだ」を支える四つの手がかり
バンデューラは、自分の能力を判断するときの主な手がかりを四つに整理しました。一つ目は、自分で行動して成し遂げた経験です。以前、話の順番を練習して最後まで説明できたなら、その経験が次の発表の支えになります。ただし、どれほど難しかったか、どんな助けを借りたかによって、その経験の受け止め方は変わります。途中でつまずいても立て直せた経験は、「言葉に詰まっても続けられる」という見通しにつながります。 S1 S3 S7
二つ目は、他の人が取り組む様子を見る代理経験です。似た立場の同僚が、途中で言葉に詰まりながらも説明を終えます。その姿を見て、自分にも同じ手順を使えそうだと思います。相手との共通点や、困難をどう乗り越えたかが、自分の能力を見積もる材料になります。 S1 S3 S7
三つ目は、他者からの言葉による働きかけで、言語的説得と呼ばれます。練習を見ていた人に「図を示しながら、この順番で説明できていた」と言われれば、自分では見落としていた、説明のよい点に気づくことがあります。言葉をどの程度信頼できるかは、相手の知識や、それまでの関係にも左右されます。 S1 S3 S7
四つ目は、身体の反応や感情です。発表前の動悸を「こんなに緊張していたら話せない」と受け取る場合もあれば、「前も緊張したけれど話せた」と受け取る場合もあります。同じような身体の反応でも、それを自分の能力とどう結びつけるかによって、見通しは変わります。 S1 S3 S7
参考記事→内受容感覚
四つの手がかりは、必ず自信を高める方法ではありません。受け取り方によって意味が変わります。
引き算の学習で確かめられたこと
1981年、バンデューラとデール・シャンクは、引き算が苦手で算数への関心も低かった四十人の子どもを対象に、目標の置き方を調べました。学習は一回三十分、全部で七回を予定していました。子どもたちを四つの条件に分け、「一回で少なくとも六ページ進める」という近い目標と、「七回で全四十二ページを終える」という先の目標を、それぞれ提案しました。ほかに、学習量の目標を示さない条件と、この学習を行わない条件を設けました。 S4
四回の学習が終わった翌日、全員の引き算の技能と自己効力感を測りました。一回ごとの目標を提案された子どもたちは、ほかの三条件より高い成績と自己効力感を示しました。自己効力感の評価では、問題の見本を短く見せ、それと同じ種類の問題を解けるという確信を数値で答えてもらいました。 S4
さらに翌日には、引き算と、数字に対応する記号を書き込む課題を用意しました。どちらにどれだけ取り組むかを自由に選べる二十五分間で、近い目標を持って学んだ子どもたちは、ほかの条件より多くの引き算に取り組みました。研究者は、この選択を課題への関心を表す指標として用いました。 S4
「何ができるか」を細かく尋ねる
自己効力感を測る質問も、課題の中身に沿って作られます。発表なら、「用意した内容を説明できる」「予定外の質問に答えられる」「時間が短くなっても要点を伝えられる」では、必要になる行動が違います。それぞれについて、今の自分がどのくらいできると思うかを尋ねます。 S2
回答には、「まったくできない」から「できると強く確信している」までの度合いを用います。バンデューラの尺度作成ガイドでは、〇から一〇〇の数値で表す方法が紹介されています。数字が表すのは、その行動を実行できるという確信の強さです。「担当範囲の質問に答える」と「初めて聞く内容の質問に答える」では、同じ人でも違う数値を選ぶかもしれません。 S2
説明用の質問例です。標準化された質問票や採点用の尺度ではありません。
経験と見通しは、どう結びつくのか
学習についての自己効力感と成績の関係は、多くの研究で調べられています。ホニックとブロードベントが2016年にまとめたレビューは、大学生を対象とする五十九件を扱いました。相関を計算できた五十三件の結果をまとめると、自己効力感の高い学生ほど成績も高いという、中程度の関連がありました。 S5
2018年にタルスマらは、自己効力感と成績を二つの時点で測った十一件の研究を統合しました。最初の成績や自己効力感の違いを計算に入れ、後の評価とどう結びつくかを調べています。成人を対象とした研究では、自己効力感が後の成績を予測する関係と、成績が後の自己効力感を予測する関係の両方が見られました。 S6
子どもを対象にした二件は、どちらも算数・数学の研究でした。この二件では、成績から後の自己効力感への関係が見られ、逆方向の関係は確認されませんでした。 S6
いつも六十点だった人が八十点を取れば、「この勉強の仕方なら、次も解けそうだ」と考えるかもしれません。同じ八十点でも、普段は満点の人なら、苦手な問題が残ったと受け取ることがあります。次に取り組むときの見通しには、点数に加え、自分が何をできたと捉えたかが関わっています。 S3 S6 S7
関連語
出典
- S1 Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. DOI: 10.1037/0033-295X.84.2.191
- S2 Bandura, A. (2006). Guide for Constructing Self-Efficacy Scales. In F. Pajares & T. Urdan (Eds.), Self-Efficacy Beliefs of Adolescents (pp. 307–337). Information Age Publishing.
- S3 Bandura, A. (1982). Self-Efficacy Mechanism in Human Agency. American Psychologist, 37(2), 122–147. DOI: 10.1037/0003-066X.37.2.122
- S4 Bandura, A., & Schunk, D. H. (1981). Cultivating competence, self-efficacy, and intrinsic interest through proximal self-motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 41(3), 586–598. DOI: 10.1037/0022-3514.41.3.586
- S5 Honicke, T., & Broadbent, J. (2016). The influence of academic self-efficacy on academic performance: A systematic review. Educational Research Review, 17, 63–84. DOI: 10.1016/j.edurev.2015.11.002
- S6 Talsma, K., Schüz, B., Schwarzer, R., & Norris, K. (2018). I believe, therefore I achieve (and vice versa): A meta-analytic cross-lagged panel analysis of self-efficacy and academic performance. Learning and Individual Differences, 61, 136–150. DOI: 10.1016/j.lindif.2017.11.015
- S7 Bandura, A. (1995). Exercise of personal and collective efficacy in changing societies. In A. Bandura (Ed.), Self-Efficacy in Changing Societies (pp. 1–45). Cambridge University Press. DOI: 10.1017/CBO9780511527692.003