高い棚へ手を伸ばすと、腕だけでなく背中の上の方も一緒に動きます。上着の袖に腕を通すときには、肩の後ろが広がったり寄ったりするのを感じることもあります。この動きに関わるのが肩甲骨です。胸郭、つまり肋骨などでできた胸の骨組みの背側に、左右一枚ずつある三角形の骨で、肩を構成する骨の一つで、腕と体幹をつなぐ役割を担っています。
肩甲骨を理解するには、背中にある骨の輪郭と、腕を動かしたときの位置の変化を結びつけてみましょう。肩を一つのかたまりとして感じていたところに、上腕骨、肩甲骨、胸郭という、それぞれ異なる部分が見えてきます。
出典:N01-S01
背中の三角形から、腕の付け根へ
肩甲骨は薄く広がった骨です。背骨に近い側を内側縁、脇に近い側を外側縁、下の尖った部分を下角と呼びます。背中側の面には肩甲棘という横向きの隆起があり、その外側の続きが肩の上部に張り出す肩峰です。背中の表面から感じられる骨の出っ張りは、こうした輪郭の一部です。
腕の骨である上腕骨を受ける浅いくぼみは、肩甲骨の外側にあります。これが関節窩です。上腕骨の丸い骨頭と関節窩の間が、肩甲上腕関節という関節になります。日常語の「肩関節」はこの関節を指すことも、周囲を含む肩全体を指すこともあります。肩甲骨は、上腕骨を受けるこのくぼみを持つ骨です。
腕を下げた姿勢で見える肩甲骨の輪郭は、位置を知る目安になります。ただし、腕を上げたり前へ伸ばしたりすると、骨全体の位置も変わります。触れて見つけた一点を、どの動作でも変わらない肩の中心と考えず、動きと一緒に位置を捉えると理解しやすくなります。
鎖骨を介して体幹の骨につながる
肩甲骨と胸郭は近接していますが、その間には筋肉などがあり、肩甲骨が肋骨と直接かみ合う関節をつくっているわけではありません。肩甲骨は胸郭の丸みに沿って動きます。この機能的な関係は「肩甲胸郭関節」と呼ばれることがあります。関節面を軟骨が覆い、関節包に囲まれた一般的な関節とは構造が異なります。
骨同士のつながりをたどると、肩甲骨の肩峰から鎖骨へ、鎖骨から胸骨へと続きます。肩峰と鎖骨の間が肩鎖関節、胸骨と鎖骨の間が胸鎖関節です。上肢の骨格が体幹の中心側の骨格と関節をつくるのは、この胸鎖関節のところです。
つまり肩甲骨は、鎖骨を介した骨の連結と、周囲の筋肉による支えを持っています。肩甲骨は背中に貼りついた板ではなく、胸郭に沿って動けるように支えられています。その動きによって、腕を遠くまで伸ばせるのです。
鎖骨は体の前側、肩甲骨は胸郭の後ろ側にありますが、肩峰のところで出会います。この前後の配置を思い浮かべると、背中側の骨の動きが、前側の鎖骨や腕の付け根ともつながっているとわかります。肩甲骨の動きを理解する際には、背中の輪郭だけでなく、肩の前から後ろへ続く立体的なつながりも手がかりになります。
出典:N01-S01
前へ運ぶ動きと、上へ回る動き
腕を前へ差し出すと、肩甲骨は胸郭の曲面に沿って外側・前方へ移動します。肩甲骨の内側の縁は背骨から離れる方向へ動き、背中が広がるように感じることがあります。この動きは外転、あるいは前方突出と呼ばれます。反対に、背骨へ近づく方向は内転、あるいは後退です。
肩をすくめるときには、肩甲骨全体が上方へ移動する挙上が起こります。これに対し、腕を上げるときの上方回旋は、肩甲骨の向きが変わる動きです。骨全体が上へ移ることと、受け皿を上へ向けることを分けると、「肩が上がった」という感覚の中にも違いがあるとわかります。
こうした名前は、複雑な動きをいくつかの方向に整理するための言葉です。胸郭は平らな面ではないため、実際の動きには位置の移動と回転が組み合わさります。前へ手を伸ばす場面と頭上へ手を伸ばす場面を比べると、使われる組み合わせの違いが見えてきます。
出典:N01-S01, N01-S03, N01-S04, N01-S05
腕を上げると、受け皿の向きも変わる
腕を高く上げるときに見られる上方回旋は、腕を受ける関節窩が上方を向くように肩甲骨が回る動きです。下角は概ね外側へ移動します。
実際の腕の挙上では、肩甲上腕関節の動きに肩甲骨や鎖骨の動きが重なります。上腕骨だけが大きく動くのではなく、受け皿側も向きを変えるため、肩全体として広い範囲に手を運べます。この協調は「肩甲上腕リズム」と呼ばれます。
参考記事→長い腕
健常者8名を対象に、肩甲骨へピンで固定したセンサーで三次元の動きを測った研究では、肩甲骨の面に沿って腕を上げる課題が使われました。その際、上方回旋に加えて後ろへの傾きなど複数の回転が確認されました。この研究で測った動きは、全員が同じ比率で再現すべき理想形ではありません。まずは、肩甲骨も腕と一緒に向きを変えるという関係をつかみましょう。
筋肉は骨を支えながら動かす
肩甲骨には、胸郭や背骨からつながる筋肉と、腕につながる筋肉が付いています。たとえば前鋸筋は肋骨から肩甲骨の内側の縁へつながり、胸郭に沿った肩甲骨の動きや支えに関わります。僧帽筋は首や背中から肩甲骨・鎖骨へ広がり、菱形筋は背骨と肩甲骨の内側をつないでいます。これらはそれぞれの向きから力を加えます。
一方、肩甲骨から上腕骨へつながる筋肉もあります。肩の深部にある腱板の筋群はその一例です。腕を動かす筋肉の働きを理解するときには、その筋肉が付く肩甲骨の位置も関わってきます。
参考記事→腱
机の上の物へ手を伸ばすときと、物を手前へ引き寄せるときでは、肩甲骨に求められる位置が違います。腕を動かす間、肩甲骨は位置を変えながら腕を支えています。「肩甲骨を寄せる」という一方向の動きは理解の手がかりの一つですが、腕を使う場面全体には、前へ運ぶことや上へ回ることも含まれます。
腕と背中の動きを一緒に見る
肩甲骨の動きを身近に感じるなら、楽な範囲で片腕を前に伸ばし、戻すときの背中の変化に注意を向けてみます。腕の先が前へ進むのに伴って、肩の後ろも胸郭の外側へ回り込むように動くことがあります。次に、無理のない高さまで腕を上げると、前へ伸ばしたときとは違う肩の動きが感じられるかもしれません。
左右差や動く量を採点するのではなく、位置関係を観察してみましょう。腕の向きや体幹の姿勢によっても見え方は変わります。痛みが出る動きは繰り返さないでください。
肩甲骨は、手の働く範囲を広げるために動く、腕の付け根の一部です。日常の動作を「腕が動いた」から一歩広げて、「腕とともに受け皿がどちらへ動いたか」と見る。その視点が、背中の骨の名前と、自分の肩の感覚を結びつけてくれます。
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関連語
肩甲上腕リズム、前鋸筋、僧帽筋、身体図式
参考文献
- [N01-S01] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 8.1 The Pectoral Girdle OpenStax, Rice University .
- [N01-S02] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.6 Anatomy of Selected Synovial Joints OpenStax, Rice University .
- [N01-S03] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 11.5 Muscles of the Pectoral Girdle and Upper Limbs OpenStax, Rice University .
- [N01-S04] McClure PW, Michener LA, Sennett BJ, Karduna AR (2001). Direct 3-dimensional measurement of scapular kinematics during dynamic movements in vivo Journal of Shoulder and Elbow Surgery 10(3):269–277 .
- [N01-S05] Betts JG et al. (2022). Anatomy and Physiology 2e, 9.5 Types of Body Movements OpenStax, Rice University .