身体所有感

Oct 18, 2026

しんたいしょゆうかん|sense of body ownership|心理学・身体の自己感覚

机の上に両手を置いてみてください。見えている手が自分の手であることを、私たちはふつう、考え込まずに受け取っています。目を閉じても、誰かに手を持ち上げてもらっても、その手は自分のものとして感じられます。このように、体やその一部を「自分のものだ」と感じることを、身体所有感といいます。

英語ではsense of body ownershipと呼びます。「所有感」という言葉は、体が自分自身に属しているという経験を表しています。手のひらに触れた冷たさは「私の手の冷たさ」として感じられ、膝を曲げる感覚は「私の膝で起きていること」として受け取られます。

普段はあまりに自然なので、わざわざ意識する機会も少ないでしょう。身体所有感の研究は、この当たり前の経験がどのように成り立つのかを調べています。

見える手と感じる手が重なる

手をコップへ伸ばすとき、目には手の形や動きが映ります。コップに触れれば、皮膚から接触の情報が届きます。筋や皮膚などからは、腕がどの位置にあるか、どのように動いているかという情報も得られます。この位置や動きに関する感覚が、固有受容感覚です。

私たちは日常の動作を通して、こうした情報がつながる経験を繰り返しています。見えている指先に何かが触れた瞬間、その指先で接触を感じます。手を引くと、見える手も同じように動きます。視覚、触覚、固有受容感覚の間に、時間と場所の対応があります。

この対応は、別々の感覚を、同じ体で起きた一つの出来事としてまとめる手がかりになります。複数の感覚を組み合わせて体を捉える働きは、多感覚統合と呼ばれます。たとえば、コップに触れる様子と指先の接触感が同時に生じれば、私たちはそれらを一続きの経験として受け取ります。

研究では、感覚の時間や位置が近いほど、同じ出来事から生じた情報としてまとめられやすいというモデルも提案されています。サマドらは、この考えを数式で表し、手の位置や触れる時刻の違いが感覚の結びつきに及ぼす影響を、モデルで予測しました。さらに、筆で触れなくても人工の手を自分の手のように感じられるかを実験で調べ、モデルから導かれた予測を検討しました。

人工の手が自分の手のように感じられる

この仕組みを調べる代表的な実験に、ラバーハンド錯覚があります。1998年、ボトヴィニックとコーエンは、参加者の本当の手をついたてで隠し、見える場所に人工の手を置きました。そして、両方の手の対応する場所を、筆で同じタイミングに触れました。

参加者は、人工の手に筆が触れる様子を見ながら、自分の手への接触を感じます。すると、人工の手で触れられているような感じや、その手が自分の手であるような感じが報告されました。見えている場所と感じている場所の結びつきが、実験の操作によって変わったのです。

二つの手に触れるタイミングをずらす条件では、そのような経験は弱まりました。この比較から、感覚同士の時間的な対応が、身体所有感を支える手がかりになることが分かります。

体の形や位置も関わっている

人工の手を見せる実験では、何をどこに置くかも調べられています。たとえば、人工の手を体に対して自然な向きに置く場合と、不自然な向きに置く場合を比べます。手に似た形をしたものと、異なる形のものを使うこともあります。

こうした研究から、触れられる時刻が合うことに加え、見えるものの形や姿勢も、体の一部として感じられるかを左右すると考えられています。体を捉えるときには、いま入ってくる感覚とともに、体の形や配置についての、ある程度安定した情報が使われています。

手は腕につながり、指は手のひらから伸びています。こうした体の構造を保ちながら、私たちは手をさまざまな位置へ動かします。手の置き方が変わるたびに、見える姿と、筋や皮膚などから届く感覚も変わります。その都度届く情報を、手や腕の形についての情報と組み合わせることで、変化の中でも自分の体を捉え続けられると考えられます。

机の下へ手を戻す場面も考えてみましょう。手が視界から外れている間も、腕の位置や、太ももに触れた指先の感触は感じられます。再び手を机に置くと、その姿が目に入り、見える位置と感じる位置が重なります。手について使える情報は動作の途中で変わり、そのときに得られる感覚をもとに、自分の手のありかを捉えています。

自分の手が動くときに感じること

ここで、誰かに自分の手首を支えてもらい、腕をゆっくり持ち上げてもらう場面を思い浮かべてください。持ち上がる腕は自分の腕として感じられます。一方、その動きを起こしているのは相手だと分かります。

自分から腕を上げるときには、「この腕は自分のものだ」という身体所有感に、「自分が動かしている」という感覚が重なります。後者を行為主体感といい、身体運動については運動主体感とも呼びます。

日常では二つの感覚が一緒に働くため、ひとまとまりに感じられます。研究では、自分で動かす条件と動かされる条件に、実際の動きとほぼ同時に手の映像が見える条件や、遅れて見える条件を組み合わせ、それぞれに関わる情報を調べます。誰かに腕を動かしてもらう場面は、普段重なっている二つの感覚をたどる手がかりになります。

図 17 · 身体所有感 · 本文へ配置済み左は別の人に腕を支えて上げてもらい、右は自分で腕を上げる場面。両方に「自分の腕」、右に「自分が動かしている」と記し、身体所有感と行為主体感を分ける。
自分の腕である感覚に、自分が動かしている感覚が重なる。

日常的な区別を示す説明例です。原著の装置・実験配置をそのまま描いたものではありません。

体のイメージや動きの調整とのつながり

身体所有感は、身体図式やボディイメージという言葉とも関係します。身体図式は、姿勢や動きを調整するときに働く、体についての感覚と運動の仕組みを指します。狭い場所を通るために肩の向きを変えるときなどに、その働きを考えることができます。

ボディイメージは、自分の体をどのように知覚し、考え、評価しているかに関わる概念です。「腕が長いと感じる」「自分の姿勢が気になる」といった経験も、その説明に登場します。

同じ手について、体のどこにありどう動かせるか、どのような形だと思うか、自分のものとして感じられるか、といういくつかの問いを立てられます。コップを持つ動作の中でも、手の位置を調整し、見える手の形を捉え、それを自分の手として感じる働きが同時に進んでいます。

研究では何を確かめるのか

ラバーハンド錯覚の研究では、参加者がどんな感じを持ったかを質問するとともに、自分の手がどこにあると感じるかも測ります。たとえば、隠れた手の位置を指し示してもらい、実験前後で答えを比べます。人工の手を見た後、本当の手の位置を人工の手の方へ寄せて答えることがあります。

この位置のずれと、人工の手を自分のものだと感じる強さは、それぞれ調べられています。ローデらの研究では、手の位置の感じ方が変わっても、所有感の報告が同じようには変わらない条件が示されました。位置が人工の手へ近づくことと、自分のものだと感じることは、別々に変化する場合があるのです。

いつもの手の感覚に戻る

机の上の手に戻ってみましょう。指先でコップの表面に触れ、そのまま手を持ち上げると、見える姿も、触れる感触も、腕の位置も変わります。その間、私たちは同じ手を自分の手として感じ続けています。身体所有感は、こうして動き、触れ、経験する体が、自分に属しているという感覚です。

関連語

内受容感覚/固有受容感覚/多感覚統合/身体図式/ボディイメージ/行為主体感

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