ぼでぃいめーじ|body image|脳・身体表現
鏡の前で服を合わせるとき、私たちは肩や腰の形を見て、着心地を感じ、自分に似合うかを考えます。同じ姿でも、その日にしっくりくることもあれば、気になるところが目につくこともあります。ボディイメージは、自分の身体をどう捉え、どのような考えや感情を持つかに関わる言葉です。身体イメージとも呼ばれ、身体の大きさや形の知覚から、身体への評価や態度まで、いくつかの側面を含みます。
見える形、感じる形、身体への気持ち
鏡に肩が広く映り、その形を気に入ることもあれば、気にすることもあります。研究では、身体の形や大きさを捉える面を知覚的な側面、身体についての考えを認知的な側面、身体への気持ちを感情的な側面として調べます。満足や不満といった身体への評価も、大きな研究対象です。
たとえば、自分の背中は丸いと思っていても、その姿勢をどれほど気にするかは人によって違います。鏡で身体の一部を確かめる、ある服を選ぶ、写真に写るときに向きを変えるといった行動も、身体の捉え方と結びつきます。自分の身体の特徴を気に入っていて、その特徴がよく見える服を選ぶこともあるでしょう。こうした行動面を含めて、ボディイメージを研究することもあります。
どの側面を重視するかは、研究分野や目的によって異なります。たとえば、身体の形や大きさの知覚を扱う神経科学の研究と、見た目についての評価や感情を扱う心理学の研究では、同じボディイメージという語が指す範囲に幅があります。
鏡を見ていないときの身体
自分の身体の形を捉える手がかりには、目で見る姿と、身体を通して感じる情報があります。目を閉じていても、両手の間にある胴体の幅や、顔の中で鼻や口がどこにあるかを思い浮かべられます。身体に触れる感覚や、手足の位置・動きを知らせる固有感覚も、身体を捉えるための情報になります。
背中を床につけて横になったときには、床に触れている範囲と、浮いているところの感覚が違います。背中を直接見ることはできなくても、触れる感覚を手がかりに、その広がりを感じられることがあります。ボディワークで身体の形や輪郭が話題になるのは、こうした経験に関わります。「背中が広く感じる」という言葉にも、本人が身体をどのように捉えているかが表れています。
感覚の組み合わせで大きさの感じ方が変わる
身体の形の知覚を調べた実験に、腰回りが縮むように感じる錯覚があります。エールソンらは、目隠しをした健康な成人の手のひらを腰の両側に当て、手首を伸ばす筋肉の腱に振動を加えました。
この振動は、筋肉の中で伸びを捉える筋紡錘という感覚受容器を刺激します。すると、手首を実際に動かさずに、手が内側へ曲がるような感覚が生じます。手のひらは腰に触れ続けているため、手の曲がりに伴って腰回りも細くなるように感じられました。
手を腰から離して振動を加えた条件では、手首が曲がるように感じられ、腰の大きさの変化は感じられませんでした。腰に触れている条件で腰回りまで縮むように感じられたことから、手の動きの情報と、手のひらが身体に触れている情報を結びつけて、身体の形が捉えられていると考えられます。
予備検査でこの錯覚が安定して生じた17人については、fMRIで脳の反応も調べました。fMRIは、神経活動に伴う血液の変化を手がかりに、脳の働きを調べる方法です。頭頂葉にある感覚情報を扱う領域で、錯覚に関連する信号が見られました。この研究が扱っているボディイメージは、腰の大きさや形がどう感じられるかという、知覚の側面です。
場面によって変わる身体への気持ち
「自分は肩幅が広い」と長く思っていることと、今日の服を着たときに肩幅が気になることには、時間の幅の違いがあります。研究では、普段の身体への捉え方と、その場での気持ちを、それぞれ質問によって調べます。
キャッシュらは、大学生174人を対象に、その時点での身体への評価や気持ちを答える尺度を開発しました。外見への満足感や、今の見た目を普段よりどう感じるかなどを、六つの項目で尋ねます。
参加者には、パーティーで友人から服装を褒められる場面や、雑誌に載ったモデルを見る場面などを想像してもらいました。その状況にいるとしたらどう感じるかを答えると、想像した場面に応じて回答が変わりました。場面を想像する前の回答は、普段の身体への満足感を尋ねる尺度とも関連していました。
身体のイメージを調べる方法
身体の大きさの知覚を調べるときには、幅や長さの違う身体の画像から、自分に近いものを選んでもらう方法があります。身体への満足や不満を調べるときには、考えや気持ちについての質問への回答を用います。
ロンゴとハガードは、成人18人に、自分の左手に近い形の画像を選ぶ課題を行ってもらいました。縦や横に伸ばした手の画像を並べ、本人が感じている手の形に最も近いものを選んでもらいます。選ばれた画像の縦横の比は、実際の手の形におおむね近いものでした。
同じ参加者は、板で隠した左手の指先や付け根の位置を、右手に持った棒で指し示す課題も行いました。各指の先と付け根を一か所ずつ答えてもらい、その点の位置関係から手の形を組み立てると、指が短く、横幅が広くなる傾向が見られました。
研究者は、位置を捉えるために使われる身体のモデルと、意識的に捉える手の形が、それぞれの結果に表れたと解釈しました。
実験方法を簡略化した模式図です。手の幅や指の長さは測定値を表しません。
動作に関わる身体図式とのつながり
服を着ながら鏡を見るとき、ボディイメージと身体図式の両方に関わる働きが見られます。鏡に映る肩の形を確かめることや、その姿への気持ちはボディイメージの話題です。袖へ腕を運ぶために、今の腕の位置や長さの情報を使うことは、身体図式の話題になります。
身体図式は、動作を支える身体の表現を指すときによく使われます。ここでいう表現とは、神経系が身体についての情報を、動作に利用できる形で保っていることです。日常の動作では、見た姿をもとに身体を動かし、その動きからまた新しい感覚を受け取るため、二つの働きは密接につながっています。
身体所有感という言葉は、自分の手や足を、自分の身体の一部として感じる経験を指します。
身体がしてくれることへの捉え方
身体について考えるときには、外から見える姿に加えて、身体が日々何をしているかも意味を持ちます。手で物の手ざわりを感じる、声で気持ちを伝える、呼吸する、身体を支えて座るといった働きも、自分の身体に関する経験です。
アレヴァらは、米国の成人を対象に、身体の働きをどれほど大切に感じ、評価しているかを調べる尺度を開発しました。日々の活動を支えている身体の働きへの感謝や、身体ができることを尊重する気持ちを尋ねます。作成した七つの質問項目が、こうした気持ちを捉える尺度として使えるかを検討しました。
身体の働きには、食べた物を消化することや、周囲の音を聞くことも含まれます。日常生活のさまざまな働きを本人がどう受け止めているかも、ボディイメージの研究で扱われています。
関連語
参考文献
- [I_S1] Ataria Y, Tanaka S, Gallagher S, eds. Body Schema and Body Image: New Directions. Oxford University Press; 2021. doi:10.1093/oso/9780198851721.001.0001. 参照
- [I_S2] de Vignemont F. Body schema and body image—Pros and cons. Neuropsychologia. 2010;48(3):669–680. doi:10.1016/j.neuropsychologia.2009.09.022. 参照
- [I_S4] Heed T, Röder B. The Body in a Multisensory World. In: Murray MM, Wallace MT, eds. The Neural Bases of Multisensory Processes. CRC Press; 2012. Chapter 28. 参照
- [I_S3] Menzel JE, Krawczyk R, Thompson JK. Attitudinal Assessment of Body Image for Adolescents and Adults. In: Cash TF, Smolak L, eds. Body Image: A Handbook of Science, Practice, and Prevention. 2nd ed. Guilford Press; 2011:154–169. 参照
- [I_P1] Ehrsson HH, Kito T, Sadato N, Passingham RE, Naito E. Neural Substrate of Body Size: Illusory Feeling of Shrinking of the Waist. PLoS Biology. 2005;3(12):e412. doi:10.1371/journal.pbio.0030412. 参照
- [I_P2] Longo MR, Haggard P. An implicit body representation underlying human position sense. Proc Natl Acad Sci USA. 2010;107(26):11727–11732. doi:10.1073/pnas.1003483107. 参照
- [I_P3] Cash TF, Fleming EC, Alindogan J, Steadman L, Whitehead A. Beyond body image as a trait: the development and validation of the Body Image States Scale. Eating Disorders. 2002;10(2):103–113. doi:10.1080/10640260290081678. 参照
- [I_P4] Alleva JM, Tylka TL, Kroon Van Diest AM. The Functionality Appreciation Scale (FAS): Development and psychometric evaluation in U.S. community women and men. Body Image. 2017;23:28–44. doi:10.1016/j.bodyim.2017.07.008. 参照