工学化と抽象化シリーズ|第3部「媒介化とメタ化」第6回(全12回)
一人の視聴者が伏線を見つけ、別の人が過去作品との関係を指摘し、さらに別の人が社会的背景を調べる。誰かがそれらをまとめ、新しい解釈が生まれる。
現代の作品は、作者から受け手へ意味が一方向に渡されるだけではありません。
一人では到達できない読みが、多数の人の異なる発見を通じて形成されます。
ただし、人が集まれば必ず理解が深まるわけでもありません。集合的な読解には、それを豊かにする条件と、貧しくする条件があります。
読解のための資源がネットワーク化した
考察文化を、現代人一人ひとりの知性が以前より高くなった結果と考える必要はありません。変わったのは、個人が利用できる社会的な認知資源です。
異なる知識、経験、文化的背景を持つ人が、それぞれ見つけたものを公開し、他者が次の解釈の材料にできます。この働きは、集合的読解、ネットワーク化された批評として捉えられます。
人間は世界を一人だけで解釈しているわけではありません。自分が対象を見て、他者の見方を知り、それによって自分の見方が変わり、再び他者へ返します。この相互的な意味形成が、SNSによって可視化され、高速化しました。
集合的読解が失敗する四つの条件
多数の参加は、解釈を豊かにする方向にも、狭める方向にも働きます。特に次の条件では、参加者が増えても独立した視点は増えません。
- 情報源が独立していない。 多数が同じ情報源を参照していれば、一致は複数の証拠ではなく、一つの情報の反響かもしれません。
- 早い意見が後の意見を拘束する。 最初に広がった解釈を前提として、後から来た人が考え始めます。
- 少数者だけが持つ情報が拾われない。 多くの人がすでに知っている情報ばかりが話題になります。
- 同意が数として可視化される。 賛同の多い読みがさらに見えやすくなり、異なる読みが表明されにくくなります。
話し合えば情報が統合されるとは限らない
隠された情報を参加者へ分散して与える課題を25年分まとめたメタ分析では、集団は全員が共有する情報を、一人だけが持つ情報より多く話題にしました。分散した情報を統合しなければ答えられない課題では、全員が全情報を持つ集団と比べて、正解へ到達した割合が8分の1にとどまりました。[1]
これは共有情報バイアスとして知られます。話し合いが、新しい情報を持ち寄る場ではなく、すでに共有された情報を確かめ合う場になることがあります。
早い判断が後続の判断を上書きする情報カスケードも理論化されています。先に行動した人々の選択のほうが、自分の情報より信頼できると考えると、人は自分の情報を使わなくなります。その後の人も同じ推論をすれば、最初の小さな偏りが全体の選択へ拡大します。[2]
また、討議前にあった集団の傾きが、討議後にさらに強まる集団極化があります。21研究のメタ分析では、他者との比較よりも、議論に出てくる論拠が一方向へ偏ることの影響が大きいと報告されました。[3]
ただし、これらは実験や理論モデルの知見であり、SNS上の考察文化そのものを測った研究ではありません。本稿が言えるのは、集合的読解が失敗する筋道には先行研究と重なる形があり、SNSの設計がその条件を生みうるという範囲までです。
意味は企業と受け手のあいだで作られる
同じ構造はブランドにもあります。
ブランド・コミュニティ研究では、ブランドを愛好する人々のあいだに、地理的な近さを前提としない社会関係が形成されることが論じられています。さらに、生活者の実践が企業の予想を超える価値を生む過程も示されています。[4] [5]
企業が理念を決め、物語を作り、消費者へ伝えるだけではありません。企業が素材を提示し、生活者が解釈し、生活者同士が意味を共有し、その結果を企業が次の表現へ取り込みます。
ブランドは、企業が完成させたストーリーというより、企業、消費者、ファン、社会が継続的に共同生成するナラティブになります。
ただし、企業が意味を完全に支配できないことと、意味に責任を持たなくてよいことは別です。必要なのは、独立した情報源、異なる背景、少数意見が残る余白を守りながら、意味が生まれる関係を整えることです。
次の記事では、作品やブランドについて作られた意味が、どのように「自分は何者か」という自己像へ組み込まれるのかを見ます。
この記事の要点
- 現代の考察文化は、集合的読解、ネットワーク化された批評として捉えられます。
- 多数の参加が理解を深めるには、情報源の独立性、異なる背景、少数意見が残る仕組みが必要です。
- 共有情報バイアス、情報カスケード、集団極化によって、集団の読みが狭まる場合があります。
- これらの研究は、SNS上の考察文化を直接測ったものではありません。
- ブランドの意味も、企業と生活者の相互作用から継続的に形成されます。
参考文献
1. Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L. (2012). “Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis.” Personality and Social Psychology Review, 16(1), 54–75. https://doi.org/10.1177/1088868311417243
2. Bikhchandani, S., Hirshleifer, D., & Welch, I. (1992). “A Theory of Fads, Fashion, Custom, and Cultural Change as Informational Cascades.” Journal of Political Economy, 100(5), 992–1026. https://doi.org/10.1086/261849
3. Isenberg, D. J. (1986). “Group Polarization: A Critical Review and Meta-Analysis.” Journal of Personality and Social Psychology, 50(6), 1141–1151. https://doi.org/10.1037/0022-3514.50.6.1141
4. Muniz, A. M., & O'Guinn, T. C. (2001). “Brand Community.” Journal of Consumer Research, 27(4), 412–432. https://doi.org/10.1086/319618
5. Schau, H. J., Muniz, A. M., & Arnould, E. J. (2009). “How Brand Community Practices Create Value.” Journal of Marketing, 73(5), 30–51. https://doi.org/10.1509/jmkg.73.5.30