工学化と抽象化シリーズ|第3部「媒介化とメタ化」第7回(全12回)
好きな服、音楽、映画、旅先、店、ブランドについて語るとき、私たちは対象の情報だけを伝えているわけではありません。
「それを選ぶ私は、どのような人間なのか」も同時に表現しています。
消費は、物を手に入れる行為であると同時に、自分が属する意味の世界を選び、他者へ示す行為になります。
商品と自己の結びつきは昔からあります。現代に特徴的なのは、その選択と意味づけがSNS上で可視化され、比較され、繰り返し更新されることです。
消費は自己と社会をつなぐ
商品が持つのは、機能だけではありません。
このブランドはどんな価値観を表すのか。この商品を選ぶ自分はどう見えるのか。この選択は社会の中で何を意味するのか。消費は、次の層を持ちます。
物 → 意味 → 自己 → 他者 → 社会
服、音楽、映画、旅行、食事、ブランドは、自己を形成し表現する記号になります。
ベルクの「拡張された自己」論は、所有物が自己認識の構成と表現に関わることを1988年に整理しています。[1] したがって、消費と自己が結びつくこと自体を情報社会の発明とはいえません。
現代的な変化として検討すべきなのは、「何を所有するか」だけでなく、「どの意味世界に属するか」が重視され、その意味が他者の反応を通じて更新される頻度と範囲です。
自己も編集され続ける物語になる
SNSでは、日常を生きるだけでなく、撮影し、編集し、投稿し、反応を見て、次の表現を変えます。
日常を生きる
→ 撮影する
→ 編集する
→ 投稿する
→ 他者の反応を見る
→ 自己認識を修正する
→ また表現する
この循環の中で、自己は固定した実体というより、他者との関係の中で編集され続けるナラティブとして扱われます。
ナラティブ・アイデンティティ研究では、再構成された過去と想像された未来を統合し、人生へ一定の統一性と目的を与える内在化された人生物語が論じられています。[2] ギデンズも、後期近代における改訂可能な自己物語と「自己の再帰的プロジェクト」を論じました。[3]
これらの理論は、SNSが物語的な自己を新たに生み出したことを示すものではありません。以前から存在した自己形成が、撮影、編集、投稿、反応という技術的な回路によって外部化され、可視化され、高速化したと考えます。
自分をよく観察することは主体性と同じではない
自己を振り返り、言葉にし、編集することは、自分を理解し直す助けになります。しかし、自己観察が増えることと、主体性が増えることは同じではありません。
何が評価されるかを先回りして、自分を効率よく編集できること。それは高度な自己監視かもしれません。
何を目的とし、どの結果を引き受けるかを自分で決められること。こちらが行為主体性です。
自分らしい表現を続けているようでも、判断の基準が外部の反応だけに置かれていれば、自己管理が精密になっただけという場合があります。
悩みも意味とアイデンティティへ移るのか
一定の生活基盤が成立した一部の社会層や市場では、「自分は何者か」「なぜ働くのか」「豊かなのに、なぜ満たされないのか」といった問題が前景化します。
これは、問題の焦点が物質や行動から、自己、意味、関係、アイデンティティへ部分的に移っているという仮説です。
イングルハートは、物質的安全が比較的確保された環境で育った世代ほど、経済的・物理的安全よりも、帰属、自己表現、選択の自由を重視するようになると論じました。[4]
ただし、この脱物質主義的価値観の測定には批判があります。クラークとダットは、使用された設問に失業の選択肢がないため、観察された変化の相当部分が世代交代ではなく短期的な経済条件を拾った可能性を指摘しました。[5] 再反論もあり、決着した議論ではありません。
したがって、社会全体が物質的問題から意味の問題へ一方向に進んだとはいえません。所得、階級、地域、世代、健康状態によって比重は異なり、物質的困難とアイデンティティ上の困難は同時に存在します。
次の記事では、自己を外から眺め、意味づける営みが本当に現代特有なのかを、宗教、文学、和歌、ファン文化などの歴史から問い直します。
この記事の要点
- 消費は、物の所有だけでなく、意味世界への所属と自己表現に関わります。
- 消費と自己の結びつきは情報社会以前から存在します。
- SNSは、物語的な自己形成を外部化、可視化、高速化しました。
- 自己観察の高度化と、自分で目的を決める主体性は別です。
- 悩みが意味やアイデンティティへ移ったという見方には、脱物質主義論とその批判の両方があります。
参考文献
1. Belk, R. W. (1988). “Possessions and the Extended Self.” Journal of Consumer Research, 15(2), 139–168. https://doi.org/10.1086/209154
2. McAdams, D. P., & McLean, K. C. (2013). “Narrative Identity.” Current Directions in Psychological Science, 22(3), 233–238. https://doi.org/10.1177/0963721413475622
3. Giddens, A. (1991). Modernity and Self-Identity: Self and Society in the Late Modern Age. Polity. https://www.wiley-vch.de/en/areas-interest/humanities-social-sciences/modernity-and-self-identity-978-0-7456-0932-4
4. Inglehart, R. (1971). “The Silent Revolution in Europe: Intergenerational Change in Post-Industrial Societies.” American Political Science Review, 65(4), 991–1017. https://doi.org/10.2307/1953494
5. Clarke, H. D., & Dutt, N. (1991). “Measuring Value Change in Western Industrialized Societies: The Impact of Unemployment.” American Political Science Review, 85(3), 905–920. https://doi.org/10.2307/1963855