【工学化と抽象化 No.31】ブランドは、企業だけでは決められない

Aug 18, 2026

工学化と抽象化シリーズ|派生編「媒介化時代のマーケティングとクリエイティブ」第1回(全4回)

企業は、ブランドのロゴ、広告、店舗、商品説明を設計できます。けれども、それらを見た人が何を感じ、誰と語り、どんな意味を見いだすかまで決めることはできません。

それでも企業は、ブランドを自社が所有し、管理する意味のように扱いがちです。

ブランドは企業が一方的に送り出す意味ではなく、企業、消費者、共同体、メディアのあいだで作り直され続ける意味ではないか。

この見方に立つと、マーケティングの仕事は「正しい意味を伝えること」だけではなくなります。意味が生まれ、共有され、現実から修正される条件をどう整えるかが問われます。

なぜ意味は企業の中だけで完結しないのか

私たちは、世界をそのまま受け取っているわけではありません。感覚や経験から一部を選び、言葉や概念へまとめ、意味を作りながら理解しています。

商品や作品も同じです。受け手は、機能や価格だけでなく、自分の経験、他者の反応、社会的な文脈を重ねて解釈します。レビュー、ランキング、広告、推薦アルゴリズム、SNS上の投稿と反応が加われば、その関係はさらに重層的になります。

ここでは、二種類の抽象化を区別する必要があります。

  • 解釈的な抽象化:経験から意味や物語を作ること
  • 操作的な抽象化:人や反応を分類、測定、予測、管理できる形へ変えること

同じ顧客調査でも、生活の文脈を理解するために使えば前者に近く、顧客を固定的な属性へ分類して効率よく動かすために使えば後者に近づきます。違いを決めるのは、手法の名前ではなく使い方です。

そして、どちらの抽象化にも共通する基準があります。

作った解釈や分類を、現実からのフィードバックによって修正できるか。

意味を作ることも、分類することも避けられません。問題になるのは、企業が作った像を現実そのものだと思い込み、顧客や社会からの予想外の反応を見なくなることです。

ブランドは関係の中で作られる

ブランド・コミュニティの研究では、ブランドをめぐる価値が企業と顧客の一対一の関係だけでなく、参加者同士の交流や共同実践からも生まれることが示されています。[1][2]

その関係は、次のような循環として捉えられます。

企業 ↔ 消費者 ↔ 消費者 ↔ 共同体 ↔ メディア ↔ 企業

消費者は、企業から届いたメッセージを受け取るだけではありません。感想を語り、使い方を共有し、冗談や批評を生み、他者の読み方を変えます。その反応が企業へ戻れば、商品、表現、接客、次の企画も変わります。

この循環が開いているとき、意味は共同で生成されます。反対に、企業が反応を観察して分類し、購買へ誘導する材料として使うだけなら、参加者が増えても一方向の管理に近いままです。

完成したストーリーから生成するナラティブへ

企業が作った完成済みのストーリーを、消費者へ正確に届ける。この発想は、メッセージを統一するうえでは有効です。

しかし、受け手が解釈し、共有し、二次的な意味を作る時代には、すべてを先回りして説明すると参加する余地がなくなります。

そこで重要になるのが、完成した意味を配ることから、物語が生成される環境を整えることへの移行です。企業が用意できるのは、素材、表現、接点、参加方法、応答の仕方です。そこから何を読み取るかは、受け手との関係の中で決まります。

これは「企業は何も決めなくてよい」という意味ではありません。安全性、機能、価格、契約、責任の所在など、誤解が不利益につながる情報は明確に伝える必要があります。共同生成に開ける領域と、正確に伝える領域を分けることが欠かせません。

商品は自己を表す材料にもなる

人は昔から、所有物や装いを自分の一部として扱ってきました。所有物が自己の拡張として機能するという議論も、1980年代から提示されています。[3]

したがって、商品を通じて自分を表すこと自体が、デジタル時代に突然生まれたわけではありません。変わった可能性があるのは、その可視性、比較の頻度、更新速度、届く範囲です。

商品との関係は、次のように重なっていきます。

物 → 意味 → 自己像 → 他者からの見え方 → 社会との関係

消費は、単に「何を持つか」だけでなく、「どの意味の世界に参加するか」という選択を含むようになります。だからこそ企業は、顧客の自己表現を代わりに決めるのではなく、複数の読み方や関わり方が残る場を考える必要があります。

サービスは問題の見方にも働きかける

サービスが扱うのは、目の前の不便だけとは限りません。

たとえば「疲れを解消する」という需要の背後には、「なぜ休めないのか」「なぜ成長し続けなければならないのか」「なぜ自己管理に疲れているのか」という問いがあります。

この水準へ進むと、サービスは問題を解く道具であるだけでなく、問題の見方を変える装置にもなります。ただし、提供者が完成した解釈を渡し、受け手に採用させるだけなら、新しい管理を増やすことにもなりかねません。

必要なのは、答えを言い渡すことではなく、本人が経験を捉え直し、現実の反応から意味を更新できる余地を残すことです。

作り手が設計できるもの

作り手は、作品や商品の意味を完全には設計できません。しかし、何もできないわけでもありません。

設計できるのは、触れる素材、最初に生じる感覚、語りたくなる矛盾、他者と出会う接点、参加の方法、返ってきた反応への応答です。

作品を作ることに加えて、意味が生まれる場所を作る。

ただし、その場所で都合のよい解釈だけを残すなら、共同生成という言葉を使った操作になります。企業自身も受け手の反応によって変わるとき、ブランドは初めて関係の中で育つものになります。

次回は、顧客のニーズを正確に捉えるだけでは、なぜクリエイティブが予定調和になりうるのかを考えます。

この記事の要点

  • ブランドの意味は、企業、消費者、共同体、メディアの関係の中で作り直されます。
  • 企業が設計できるのは完成した意味ではなく、素材、表現、接点、参加、応答などの条件です。
  • 商品は機能だけでなく、自己像や社会との関係を作る材料にもなります。
  • 明確に伝えるべき事実と、共同生成に開く意味の領域を区別する必要があります。
  • 共同生成と呼べるのは、消費者だけでなく企業自身も反応によって変わる場合です。

次の記事:「ニーズに応える」だけでは、クリエイティブが弱くなる

参考文献

  1. Muniz, A. M., & O'Guinn, T. C. (2001). “Brand Community.” Journal of Consumer Research, 27(4), 412–432. https://doi.org/10.1086/319618

  2. Schau, H. J., Muniz, A. M., & Arnould, E. J. (2009). “How Brand Community Practices Create Value.” Journal of Marketing, 73(5), 30–51. https://doi.org/10.1509/jmkg.73.5.30

  3. Belk, R. W. (1988). “Possessions and the Extended Self.” Journal of Consumer Research, 15(2), 139–168. https://doi.org/10.1086/209154

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