CORE THEORY

シリーズ|緊張はなぜ抜けないのか ― 反射と神経の科学

姿勢を支える2つの回路

Part 4 / 10

私たちが立ったり歩いたりしているとき、「姿勢を保とう」と意識することはほとんどありません。それは脳から脊髄へ走る神経回路が、無意識のうちに筋肉の緊張を調整してくれているからです。この回路には大きく2つの系統があり、それぞれまったく異なる役割をもっています。過緊張の問題を理解するためには、この2つの違いを知ることが不可欠です。

皮質脊髄路(CST)― 精密な随意運動の回路

1つ目は「皮質脊髄路(CST)」です。大脳皮質(一次運動野、運動前野、補足運動野)から始まり、延髄で大部分が反対側に交叉して脊髄を下行します。

この経路の役割は、手や指などの遠位筋を使った精密な動き(ボタンを留める、箸でつまむなど)の制御です。進化的に新しい経路で、霊長類や人間で特に発達しています。

皮質脊髄路を構成する錐体路ニューロンの約半数では、放電頻度が筋肉の発揮する力と有意に相関することが報告されており、力制御の精密な符号化に寄与しています。

つまりCSTは、「どの筋肉を、どれくらいの力で、いつ動かすか」を細かくコントロールする回路です。

網様体脊髄路(RST)― 姿勢と筋緊張の自動制御

2つ目の「網様体脊髄路(RST)」は、脳幹(橋と延髄の網様体)から始まり、主に同側を下行します。進化的に非常に古い経路で、大脳皮質が発達していない脊椎動物でも主要な運動経路として機能してきました。

伝導路 起始 主な機能 進化的背景
皮質脊髄路(CST) 大脳皮質(運動野) 遠位筋の精密な随意運動。新しい運動の学習 新しい(霊長類で発達)
網様体脊髄路(RST) 脳幹(橋・延髄の網様体) 体幹・近位筋の姿勢制御、歩行。筋緊張と反射の広範な調節 古い(脊椎動物共通)

RSTの主要な役割は、体幹・近位筋の姿勢制御、歩行、そして筋緊張の維持という、随意運動の背景となる無意識的な基盤を提供することにあります。

たとえば、コップを手に取る動作を考えてみてください。

手を伸ばしてコップをつかむ精密な動作はCSTが担当しますが、その間に体が横に倒れないように体幹を安定させているのがRSTです。RSTは普段は意識されませんが、姿勢と筋緊張のベースラインを決めている、いわば体の「OS」のような存在です。

なぜ2つの回路を知る必要があるのか

過緊張の問題を考えるとき、多くの人はCSTの側、つまり「意識的に力を抜く」「リラックスしよう」と考えます。しかし、慢性的な過緊張の多くは、RSTが制御している無意識の筋緊張のレベルで起きています。

JINENボディワークで「OSのバグ修正」という表現を使うのは、このためです。アプリケーション(意識的な動き)をいくら調整しても、OSレベル(無意識の姿勢制御・筋緊張調節)にバグがあれば、問題は繰り返されます。神経系のアップデートが先で、筋トレなどの「アプリ」は後です。

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次回は、この網様体脊髄路が実は「興奮」と「抑制」の2つに分かれていること、そして「力を抜く指令」がどこから来るのかを詳しく見ていきます。

参考文献

  • 21. "Corticospinal and corticoreticulospinal projections have discrete but complementary roles in chronic motor behaviors after stroke." J Neurophysiol. 2024; 132:1917-1936. PMC11687835
  • 25. "Neuroanatomy, Corticospinal Cord Tract." StatPearls. Link
  • 27. "Descending Pathways to the Spinal Cord." Neuroanatomy Online (UTH). Link
  • 28. "Reticulospinal tract: medullary and pontine." Kenhub. Link
  • 30. "Both Corticospinal and Reticulospinal Tracts Control Force of Contraction." PMC8994539

この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

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