会話でうまく答えられなかった日の夜、「どうしてあんなことを言ったのだろう」と同じ場面を何度も思い返す。考えているのに、新しい手がかりは増えず、眠る準備も進まない。こうした経験を理解する言葉の一つが、反すうです。
心理学でいう反すうは、つらい気分や自分の問題、その原因や意味などに、思考が繰り返し向かうことです。特に、同じ自己評価が頭の中を巡り続け、ほかの活動へ移りにくい状態が研究されてきました。大切なのは、考えることをなくすよりも、今の考え方が理解や次の行動につながっているかを見分けることです。
同じことを考えるとき、何が起きているか
一つの問題を何度も考えること自体は、日常でよくあります。旅行の計画を練り直す、うまくいかなかった仕事の手順を確認する、大切な人との会話を振り返る。こうした思考は、判断や学びにつながることがあります。
反すうを考える際は、繰り返しの回数だけでなく、思考の進み方を見ます。「私はいつも失敗する」「なぜ自分だけこうなるのか」といった大きな評価へ戻り続け、具体的な出来事や対処方法を調べる余地が減ることがあります。考えるほど気分が落ち込み、落ち込むほど同じ内容が浮かぶ、という結びつきも研究されています。
また、ふと浮かぶ短い考えと、その内容を長く繰り返す過程は、区別して扱えます。「嫌われたかもしれない」という一つの考えが浮かんだことと、それを何度も考え続けることは、別の過程です。最初の考えが浮かんだ自分を責めるより、その後どんな流れに入っているかを見ると、経験を具体的に整理できます。
心配や省察との違いと重なり
心配は、これから起きるかもしれない不確かな出来事へ向かいやすく、反すうは、過去の出来事や現在の気分、自分の状態へ向かいやすい思考です。ただし、二つははっきり分かれるとは限りません。昨日の会話を振り返りながら、明日相手にどう思われるかを心配するように、同じ流れの中で重なることがあります。
省察という言葉は、自分の経験を振り返り、理解を深めようとする営みを表します。振り返るうちに具体的な情報が増え、次に確かめたいことや取れる行動が見えてくるなら、その思考には役立つ面があります。一方、理解しようと振り返り始めても、同じ自己評価を繰り返すだけになることもあります。内容だけで分類せず、考えた後に何が分かり、生活にどう戻れるかも見ていくと、両者の違いを捉えやすくなります。
出典:N10-S2
つらい気分との関係を調べる
反すうは、抑うつとの関連から研究が進んできました。抑うつとは、気分の落ち込みや興味の低下などを含む状態です。研究では、質問紙で普段の考え方を尋ねたり、その後の気分の経過を追ったり、実験で注意の向け方を変えたりします。
2008年のノーレン=ホークセマらの総説は、反すうと否定的な思考、問題解決の難しさ、行動の妨げなどに関する研究を整理しました。ここで重要なのは、関連があるという結果と、考え方を操作した実験の結果を区別することです。質問紙で反すうと落ち込みの両方が強くても、それだけで反すうが唯一の原因だとは判断できません。
反すうは診断名そのものでもありません。つらい出来事の後に同じことが浮かぶ人すべてが、病気だという意味にはなりません。研究の言葉は、誰かにラベルを貼るためより、思考が生活にどう影響しているかを話し合うために使えます。集中や睡眠、仕事、人との交流にどの程度影響するかが、実際の困りごとを整理する手がかりです。
問いの向け方で、経験の扱いが変わる
自分に注意を向ける方法にも違いがあります。2004年のワトキンスの研究では、69人の参加者が実験で失敗を経験した後、その体験について文章を書きました。比較したのは、原因や意味を概念的に評価する条件と、そのときどきの経験へ注意を向ける条件です。
評価的な条件では、経験に沿って書く条件に比べ、失敗についての考えが、意図せず頭に浮かぶことが多くなりました。また、普段から反すうしやすい人ほど、評価的な条件で12時間後の否定的な気分が相対的に増す関係が見られました。気分の変化には、考え方だけでなく、普段の反すうのしやすさも関わっていたのです。
日常の説明例に置き換えると、「なぜ私はだめなのか」と自分全体を評価する問いと、「どの場面で言葉に詰まり、そのとき何を感じたか」という問いでは、見ている範囲が違います。後者は、出来事を細かく捉える入口になります。研究の文章課題を、そのまま特定の身体ワークの効果へ置き換えることはできませんが、自分を振り返る方法を選ぶ視点は得られます。
出典:N10-S3
脳のネットワーク研究は何を測るのか
反すうについて、デフォルトモードネットワークという名前を見かけることがあります。これは、休息中や自分に関係する思考などに関わる、複数の脳領域のまとまりです。ネットワークとは、単独の場所でなく、複数の領域の活動やつながりに注目する呼び方です。
2011年のバーマンらの研究では、大うつ病性障害のある人と健康な人について、課題中と休息中の脳活動を調べました。休息中には、後部帯状皮質と脳梁膝下の帯状皮質という領域間の機能的結合が、うつ病のある群で高く、その結合は反すうや悲観的な考え込みの尺度と関連しました。同じ群差は、課題に取り組んでいるときには見られませんでした。
機能的結合とは、脳活動を反映する測定信号が、時間とともにどの程度一緒に変化するかを調べたものです。思考そのものを画面に映したり、どちらの領域がもう一方に影響したかを直接示したりする測定ではありません。この結果からは、思考と脳活動の関係が、課題や状態によって変わることがわかります。
出典:N10-S4
考える時間と、いま行うことを分ける
反すうに気づいたときは、考えている内容と、今できる行動を一度分けてみると整理しやすくなります。「相手に確認することがある」「今は新しい情報がなく、同じ評価を繰り返している」などと、現在地を短く言葉にする方法です。問題に向き合うことと、同じ問いを続けることを見分けるための観察例です。
体の感覚へ注意を向けるなら、椅子との接触、周囲の音、無理なく行っている動作など、確かめやすいものを選べます。呼吸を感じることも一例ですが、息を強く操作したり、考えが消えるまで続けたりする必要はありません。体内に注意を向けると不安が増す場合は、目を開いて周囲を見たり、ほかの活動へ移ったりできます。
こうした切り替えは、難しい問題をなかったことにするためではなく、休息や必要な作業に戻るための選択肢です。特定の動作で脳のネットワークが必ず切り替わるという効果は、ここで紹介した研究からは言えません。つらさが続き、眠れない、日常の活動が難しいときは、専門家と一緒に扱うこともできます。
心の落ち着きは、考えが一つも浮かばないことだけでは測れません。考えを振り返る時間をもちながら、食事や休息、大切な人との会話へも戻れること。反すうという言葉を知ると、思考の内容だけでなく、今の生活との関係にも目を向けられます。
関連語
注意、デフォルトモードネットワーク、認知的再評価、メタ認知
参考文献
- [N10-S1] American Psychological Association (2023). Rumination APA Dictionary of Psychology .
- [N10-S2] Nolen-Hoeksema S, Wisco BE, Lyubomirsky S. (2008). Rethinking Rumination. Perspectives on psychological science : a journal of the Association for Psychological Science 3(5):400-424 .
- [N10-S3] Watkins E. (2004). Adaptive and maladaptive ruminative self-focus during emotional processing. Behaviour research and therapy 42(9):1037-1052 .
- [N10-S4] Berman MG, Peltier S, Nee DE, Kross E, Deldin PJ, Jonides J. (2011). Depression, rumination and the default network. Social cognitive and affective neuroscience 6(5):548-555 .