重心

Oct 19, 2026

じゅうしん|center of gravity; center of mass|生理・バイオメカニクス

重い袋を片手で持つと、上体を少し反対側へ寄せることがあります。床の物を拾うためにかがむときには、頭や胸が前へ動き、腰や膝の位置も変わります。こうした動きで身体全体の重さがどこに位置するかを表すのが、重心です。身体の各部分に働く重力を一つの力にまとめて考えたとき、その力が作用する位置を指します。

この節の出典:S1、S2

身体全体の重さを一つの点で表す

頭、腕、胴体にあたる体幹、脚には、それぞれ質量があります。質量はkgで表す物の量で、各部分にはその質量に応じた重力が働きます。身体全体の重心を求めるには、各部分の重さと、その位置を組み合わせます。

運動の研究では「質量中心」という用語もよく使われます。各部分の位置を、質量の大きさに応じて平均した位置です。同じ質量の物を左右に一つずつ置けば、二つを合わせた質量中心は中間にあります。片方を重くすると、中心は重い側へ寄ります。人の身体でも、質量の大きい体幹などの位置が全体の中心に強く影響します。

地上で人の身体ほどの範囲なら、同じ質量にはほぼ同じ大きさ・向きの重力が働きます。この条件では、重心と質量中心は実用上同じ位置になります。身体運動の論文に出てくるCOMは、center of mass、すなわち質量中心の略です。

重心
二つの箱を合わせた重心の考え方を示す模式図です。各箱の中身は均等とし、同じ向きの重力が働く場合を考えています。重心は重さと位置で決まり、物がない空間にも位置します。箱の寸法や点までの距離から、重さの比を読み取る図ではありません。

この節の出典:S1、S2

手足の動きで重心の位置が変わる

腕を身体の横に下ろした姿勢から、両腕を頭上へ上げると、腕の質量が高い位置へ移ります。ほかの部分の位置が同じなら、身体全体の重心も上へ移ります。しゃがむときには体幹や頭の位置が下がり、全身の重心も低くなります。重心の位置は、床からの高さと、前後・左右の位置で表せます。

上体を前へ倒し、腰を後ろへ引くと、身体の一部は前へ、別の部分は後ろへ動きます。それぞれの移動が補い合うと、頭や腰が大きく動いても、全身の重心の前後移動は小さくなります。

均一な輪の形をした物では、質量中心は穴の中央にあります。中心の点は物の重さと位置から計算されるため、物がない空間にも位置します。人の身体でも、姿勢によっては身体の輪郭の外に重心が位置することがあります。

この節の出典:S2、S3

荷物を持った身体の重心

荷物を含めた動きを調べるときには、身体と荷物を合わせた全体の重心を考えます。身体の右側に重い袋を下げて持てば、同じ姿勢で袋を持たないときより、全体の重心は右へ寄ります。そこから上体を左へ寄せると、身体の質量が左へ動き、身体と袋を合わせた重心の位置も変わります。

上体の位置を保ったまま、前で持っている荷物を身体へ近づけると、身体と荷物を合わせた重心も身体側へ近づきます。腕を前へ伸ばして荷物を遠ざけると、全体の重心は前へ移り、荷物の重力が肩の周りに生む回転作用も大きくなります。この回そうとする作用をトルクと呼びます。

自分の身体だけの重心は、荷物を除き、頭や体幹、手足から求められます。腕を支える筋肉の力を考えるときには、腕と荷物それぞれの重心が、肩や肘からどれだけ離れているかも調べます。

この節の出典:S1、S2、S4

足元の支えとの位置関係

両足を床につけて立つと、左右の足裏の接触部分を外側から囲んだ範囲が、身体を支える土台になります。この範囲を支持基底面(しじきていめん)と呼びます。足と足の間も含まれます。片足で立つときには、床についた一方の足の接触部分を囲む範囲になります。

重心から真下の床へ写した点を、重心の鉛直投影と呼びます。平らな床で、足だけを支えにほぼ静止して立つ場合には、この点を支持基底面の内側に保つことが、釣り合いの基本になります。上体を前へ運ぶときも、腰や脚を含む全身の配置に応じて、その点が移ります。

椅子に座るときには座面からも力を受け、手すりをつかんで身体を支えるときには、手から伝わる力も加わります。身体を支える場所が増えると、それぞれの場所から受ける力を合わせて、全身の釣り合いを考えます。

この節の出典:S3、S4、P1

足裏の圧の中心を表す圧中心

立っているとき、床から身体へ返ってくる力を床反力と呼びます。足裏が床を押す力は、かかと側、つま先側、左右の足で異なります。このうち床に垂直な力の分布を、一つの位置にまとめて表したものが圧中心です。英語のcenter of pressureを略してCOPとも書きます。

両足を離して立つと、両足を合わせた圧中心は、足と足の間にも位置します。左右それぞれの足の圧中心を結ぶ線上で、受ける力の割合に応じた位置になります。左右それぞれの足の圧中心の位置を保ったまま、右足で受ける力の割合が増すと、両足全体の圧中心は右足側へ寄ります。

平らな床で足だけを支えに、完全に静止して釣り合っている場合、圧中心は重心の鉛直投影と一致します。実際の立位では身体が小さく揺れ、それを支える足裏の力の配分も変わるため、二つの点を追うと異なる軌跡が現れます。

この節の出典:S5、P2

動いているときには速さも関わる

同じ場所に重心があっても、静かにとどまっているときと、前へ速く進んでいるときでは、その後の動きが異なります。動いている身体の安定を考えるには、重心の位置に加え、移動する速さと向きが関わります。

Hofらは、足元を支点とする逆さの振り子で、立っている身体を表しました。このモデルでは、支点から重心までの距離を一定とし、小さな揺れを扱います。そこから、重心の位置と速度を組み合わせた安定の指標を提案しました。研究では健康な10人の立位を計測し、両足、片足、つま先立ちで指標がどう変わるかを調べています。

歩くときには、身体が進むのに合わせて次の足が接地し、支える範囲も移ります。前へ進む重心の動きと、いつ、どこに足をつくかが組み合わさって、一歩ずつ身体を支えていきます。

この節の出典:P1、S3

重心はどのように調べるのか

動作を撮影し、頭や体幹、手足の位置を追うと、身体各部の動きを記録できます。そこへ各部分の質量と、その部分の質量中心の推定値を組み合わせて、全身の重心の位置を計算します。例えば、体幹がどこにあるかに加え、全身の質量のうちどれほどを占めるかという情報が必要になります。

こうした質量の配分は、人体の計測や画像を使って調べられてきました。男性2人・女性2人の体幹をCTで調べた研究では、連続した断面画像の濃淡から組織の密度を推定し、体幹各部の質量や質量中心を計算しています。身体のどこで各部分を区切るか、どのような体格のデータを使うかによって、計算に用いる値は変わります。

床に置くフォースプレートは、身体が床へ加える力とトルクを測る装置です。そのデータから圧中心を求められます。さらに、身体に加わる力が重心を加速させる関係を使い、速度や位置の初期値を定めて計算すると、重心の移動も推定できます。

この節の出典:P2、P3、S5、S2

椅子から立つときに移る重心

健康な成人9人の立ち上がりを調べた研究では、上体を曲げて勢いをつくる時期、座面を離れて全身が前上方へ動く時期、身体を起こす時期、立位を安定させる時期の四つに動作が整理されました。

手で支えをつくらずに立つ場合、はじめに上体を前へ運ぶと、全身の重心が足元へ近づき、前方へ動く勢いも生まれます。この段階では、座面と足の両方から支えを受けています。お尻が座面を離れると、足で全身を支える状態へ移り、床反力と重力が重心の動きを変えていきます。

股関節や膝が伸びて身体が起きるにつれ、重心は高くなります。やがて上へ動く速さが小さくなり、立位へ移ります。

この節の出典:P4、S3、S2

重心手で支えをつくらず椅子から立つ三つの場面。上体を前へ動かし、座面からお尻が離れ、身体が起き上がるにつれて、支え方と全身の重心が変わることを説明しています。
手で支えをつくらずに椅子から立つ場面の一例です。上体を前へ動かすと全身の重心も前へ移り、お尻が座面を離れると足で全身を支える状態へ移ります。身体が起き上がるにつれて、重心は高くなります。姿勢と支えの変化を説明する図で、重心の位置や移動軌跡を測定して示したものではありません。

関連語

  • 姿勢制御:身体の向きと安定を調節する働き。
  • 支持基底面:接触によって身体を支えられる範囲。
  • 圧中心:支持面に加わる圧の分布をまとめて表した位置。
  • 質量中心:質量の分布から決まる平均的な位置。
  • 床反力:床から身体に加わる力。

参考文献

本文文字数:2861字(導入・各節本文の空白除外。見出し、根拠リンク、図案、関連項目、参考文献を除く)。

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