【工学化と抽象化 No.27】分散参加型文化の先で、具体へ戻る

Aug 18, 2026

工学化と抽象化シリーズ|第3部「媒介化とメタ化」第9回(全12回)

誰でも投稿し、解釈し、創作できる。意味を作る力は分散したように見えます。

しかし、何が表示され、推薦され、収益化されるかを決める基盤まで分散したわけではありません。

表現と参加が分散する一方で、可視性とデータを配分する基盤は集中しています。

さらに、あらゆる経験が投稿、評価、自己表現の材料になると、意味を作り続けることそのものに疲れる場合があります。そこで必要になるのが、抽象や解釈を捨てることではなく、現実との往復を回復する「再具体化」です。

社会は自分自身を観察する

企業は、自社がどう見られているかを分析します。個人も、自分がどう見られているかを考えます。メディアは、世論がどう反応したかを報道し、SNSでは「何が話題になっているか」自体が話題になります。

社会は世界を見るだけでなく、世界を見ている自分たちを観察するようになります。

この状態では、現実から新たな現実まで、意味が多くの人の分業によって変換されます。

現実 → 情動 → 言葉 → 解釈 → 概念 → 集合的ナラティブ → ミーム・映像・二次創作 → 商品・交流・行動 → 新たな現実

一人がすべてを行う必要はありません。ある人が出来事を言葉にし、別の人が構造を見つけ、さらに別の人がイラスト、動画、商品、イベントへ変換します。社会全体が、具体と抽象の変換を分担しているようなネットワークです。

参加の分散と基盤の集中

参加が分散しても、情報環境の権力まで分散するとは限りません。

プラットフォーム化研究では、デジタル・プラットフォームのインフラ、経済過程、統治の枠組みが社会の多くの領域へ浸透し、文化的実践を再編する過程が論じられています。[1]

利用者の行為はデータへ変換されます。[2] そのデータは嗜好、リスク、価値などの分類やスコアになり、商品、価格、推薦、機会の配分へ使われます。[3]

経験・行為 → データ化 → 分類・採点 → 可視性・機会の配分 → 予期的な自己調整 → 新たな経験・行為

利用者や制作者は、何が表示され、何が見えなくなるかを予想して表現を調整します。FacebookのEdgeRankを扱ったブッハーの研究は、「不可視になる可能性」が参加者へ作用する一例を示しました。[4] ただし、これは特定の時期とプラットフォームの事例であり、すべてのアルゴリズムへ一般化できません。

SNSでは、異なる人間関係や規範を持つ聴衆も一つの場へ重なります。Twitter利用者を扱った研究では、この文脈の崩壊のもとで、利用者が想像上の聴衆を意識し、話題や自己呈示を調整する過程が示されました。[5]

自己のメタ化は、内面の理解だけでなく、可視性と複数の聴衆を予測する自己編集でもあります。

データ化そのものが悪いわけではない

データは監視と支配にしか使えないわけではありません。市民、共同体、小規模組織がデータから状況を理解し、行動する力を高める場合もあります。[2]

問うべきなのは、誰が計測し、分類基準を決め、結果へアクセスし、利益と損失を引き受け、モデルを修正できるかです。

表現が自由に見えても、可視性を決める基準へ異議を申し立てられなければ、参加と権限は同じようには分散していません。

直接性への欲望

何をしても意味になり、評価され、SNSで演出され、自己表現になる。その状態が続けば、身体、自然、アナログ、ローカル、無名性、偶然、遊び、無目的性、不完全さなどが価値を持ち始めます。

メタ化が進むほど、直接的に感じられる経験が希少になるという力学です。

ただし、デジタルから離れれば自動的に回復する、純粋な直接経験があるわけではありません。デジタル・ウェルビーイング研究でも、接続の利点と不利益の均衡は、個人、端末、目的、状況によって変わると整理されています。利用時間だけで害や切断の効果は決められません。[6]

デジタル切断を求める動機にも、目的的に使いたい、社会的つながりを保ちたい、日常生活の時間を確保したいなど複数のものがあり、年齢や社会条件による違いも報告されています。[7]

脱メタ化ではなく再具体化

再具体化とは、解釈、データ、物語を捨てることではありません。それらを身体、物、場所、他者、制作、行動、結果へ戻し、返ってきた反応によって修正することです。

経験 → 解釈・物語 → 表現・選択・制作 → 身体的・物質的・社会的反応 → 解釈の改訂

物や人工物との関わりを、完成した思考の出力先ではなく、認知過程の一部として捉える物質的関与理論は、この見方と接続します。[8]

再具体化かどうかは、オンラインかオフラインかでは決まりません。解釈が現実の反応で変わるか。表現を外へ出し、反応を受け取れるか。解釈に合わない経験を捨てていないか。評価や記録だけが目的になっていないか。時間がたったあとに意味を作り直せるか。この回路で判断します。

キャンプも投稿素材を集めるだけなら再具体化とは限りません。SNS上の対話でも、他者の応答によって自分の読みが実際に変わるなら、再具体化として働きます。

次の記事では、同じ問題を抱える企業が、ブランド、顧客理解、AIを通じて意味の多層化へどう向き合うかを見ます。

この記事の要点

  • 表現と参加の分散化は、基盤、可視性、データ支配の分散を意味しません。
  • 行為がデータ化され、配分へ使われ、その基準を予想した自己編集が起こります。
  • データ化の問題は有無ではなく、計測・分類・修正の権限がどこにあるかです。
  • 直接性への欲望は一様ではなく、デジタル切断だけで満たされるものでもありません。
  • 再具体化とは、抽象を現実へ戻し、反応から修正する回路です。

参考文献

  1. Poell, T., Nieborg, D., & van Dijck, J. (2019). “Platformisation.” Internet Policy Review, 8(4). https://doi.org/10.14763/2019.4.1425

  2. Kennedy, H., Poell, T., & van Dijck, J. (2015). “Data and agency.” Big Data & Society, 2(2). https://doi.org/10.1177/2053951715621569

  3. Fourcade, M., & Healy, K. (2017). “Seeing like a market.” Socio-Economic Review, 15(1), 9–29. https://doi.org/10.1093/ser/mww033

  4. Bucher, T. (2012). “Want to be on the top? Algorithmic power and the threat of invisibility on Facebook.” New Media & Society, 14(7), 1164–1180. https://doi.org/10.1177/1461444812440159

  5. Marwick, A. E., & boyd, d. (2011). “I tweet honestly, I tweet passionately: Twitter users, context collapse, and the imagined audience.” New Media & Society, 13(1), 114–133. https://doi.org/10.1177/1461444810365313

  6. Vanden Abeele, M. M. P. (2021). “Digital Wellbeing as a Dynamic Construct.” Communication Theory, 31(4), 932–955. https://doi.org/10.1093/ct/qtaa024

  7. Nguyen, M. H., Büchi, M., & Geber, S. (2024). “Everyday disconnection experiences: Exploring people’s understanding of digital well-being and management of digital media use.” New Media & Society, 26(6), 3657–3678. https://doi.org/10.1177/14614448221105428

  8. Malafouris, L. (2013). How Things Shape the Mind: A Theory of Material Engagement. MIT Press. https://mitpress.mit.edu/9780262019194/how-things-shape-the-mind/

次の記事:企業とAIも、抽象化の階段を上っている

START YOUR JOURNEY

目的に合わせて選べる2つの道

🌿 ご自身のケアに

週替わりのワーク動画で、心身を整える。
セルフケアを習慣化したい方へ。

オンライン教室(一般)
🎓 指導・探求のために

脳神経系と骨格構造を論理的に学ぶ。
指導者を目指す方のための認定講座。

インストラクター養成
Follow me
情報発信に力を入れています。