工学化と抽象化シリーズ|第3部「媒介化とメタ化」第2回(全12回)
商品を買う前にレビューを読み、そのレビューへの反論を読み、書いた人のプロフィールを確認する。作品を見る前に考察動画を知り、見終わったあとに別の解釈を探す。
私たちは対象だけでなく、対象について誰かが作った情報に囲まれています。しかも、その情報についての評価や解釈も、次の情報になります。
人と対象のあいだに、意味を運ぶ層が何枚も重なり、それぞれの層が互いを参照するようになっています。
この変化を考えるために、まず「何のための抽象化か」を区別します。
理解するための圧縮
解釈的抽象化とは、経験、作品、商品、出来事を、物語、象徴、文脈、アイデンティティへ変換する働きです。
その目的は、理解、意味づけ、自己形成、共有、批評、創作にあります。うまく働けば、経験を統合し、複数の見方を生み、言葉にならなかった感覚を他者と共有できます。
一方、行きすぎれば、経験そのものより解釈を優先する、自分を観察しすぎる、意味を一つに固定する、他者からの見え方に合わせて自分を演出するといった問題が生じます。
対になる操作的抽象化は、比較、予測、配分、管理、標準化のための圧縮です。人や行為を数値、指標、カテゴリー、ルールへ変換します。
二つを分けるのは、対象ではなく目的です。同じレビューでも、理解と共有に使えば解釈的抽象化になり、購入予測や顧客分類に使えば操作的抽象化になります。
解釈は一人の頭の中だけで生まれない
解釈は、個人が作品を見て自由に思いつくものだけではありません。
受容研究では、意味の生産と再生産を、政治経済の条件、集団やコミュニティ、日常生活が互いに作用する循環として扱います。[1]
どんな言葉を知っているか。誰と話すか。先にどのレビューを読んだか。所属する共同体で、何がよい解釈とされているか。これらの条件によって、見つけやすい意味は変わります。
操作的抽象化も中立ではありません。ボウカーとスターが論じたように、分類と標準は情報を整理するだけでなく、特定の観点を価値づけ、別の観点を見えにくくし、現実の利益と不利益に関わります。[2]
抽象化は現実の記述であると同時に、現実への介入でもあります。
人と人のあいだに像が入る
誰かと会う前に、その人の投稿、写真、共通の知人からの反応を見ていることがあります。会ったあとも、投稿を通じて関係が続きます。
私たちが関わるのは、その人自身であると同時に、その人について蓄積された情報です。相手もこちらの情報を見ています。互いが、互いについて作られた像を介して関わります。
噂や評判は昔から存在しました。現代に特徴的なのは、参照できる情報の量、速度、持続性、検索可能性が大きくなったことです。
商品より先に「商品についての情報」へ触れる
商品との関係では、層がさらに厚くなります。
SNSで知り、検索し、レビューを読み、比較動画を見て、影響力のある人の評価を確認し、ブランドの思想を知り、他人が使う様子を見てから購入する。そして購入後の投稿が、次の誰かにとっての情報になります。
対象に触れる前から、すでに大量の「対象についての情報」に触れているのです。
これは、昔の消費が直接的だったという意味ではありません。口伝えの評判や商人の説明、流行や共同体のまなざしは以前からありました。変化したのは、媒介の有無ではなく、その厚みと接続の仕方です。
企業も解釈の循環へ入る
企業と顧客の関係も、一方向ではなくなります。
企業が理念や物語を作り、広告で伝え、消費者が受け取る。以前のブランディングは、この形で説明しやすいものでした。
現在は、企業が素材を出し、生活者が解釈し、生活者同士が意味を共有し、そこから生まれた意味を企業が次の表現へ取り込みます。
企業はブランドの意味を完全には支配できません。必要になるのは、意味を一方的に決めることより、複数の意味が生まれ、現実の商品や活動へ戻ってくる環境を整えることです。
重層化と再帰化を分ける
ここでは、二つの変化を区別します。
- 重層化:対象と人のあいだに、感想、レビュー、考察、評価などの層が増えること。
- 再帰化:下流で生まれた解釈が作り手や企業へ戻り、次の作品や活動を変えること。
層が増えても戻り道がなければ、再帰化ではありません。層が少なくても、受け手の反応が作り手へ戻れば再帰化しています。
情報社会の重要な特徴は、この二つが同時に進んだことにあります。意味は上から下へ伝わるだけでなく、何層もの解釈を経て戻り、次の対象そのものを変えます。
次の記事では、この構造が最も身近に現れている「考察文化」から、抽象化・意味化・メタ化の違いを整理します。
この記事の要点
- 解釈的抽象化は、経験や作品を物語、象徴、文脈へ変換する働きです。
- 解釈は個人の頭の中だけでなく、語彙、共同体、制度、先に触れた情報から影響を受けます。
- 同じ表現でも、理解に使えば解釈的抽象化、管理に使えば操作的抽象化になります。
- 重層化は媒介層の増加、再帰化は解釈が作り手へ戻る回路です。
- 現代では、重層化と再帰化が同時に進んでいます。
参考文献
1. Livingstone, S. (2013). “Interpretation/Reception.” Oxford Bibliographies in Communication. https://doi.org/10.1093/obo/9780199756841-0134
2. Bowker, G. C., & Star, S. L. (1999). Sorting Things Out: Classification and Its Consequences. MIT Press. https://mitpress.mit.edu/9780262024617/sorting-things-out/