「こう動こう」と意識するほどかえって力んでしまう、姿勢を直そうとしても長続きしない。このような悩みをおもちの方は、「感じる力」を育てるという視点を知っておくと解決につながります。
- なぜ緊張をゆるめて自然体になるには「感じる力」が大切なのか
- 「意識して動こう」とするほど、かえって緊張や代償動作をまねく理由
- 感覚を育てる2つの鍵 ― 感覚を多様に使うこと/慣れない動きをすること
- 体性感覚を育てる入口ワーク「壁背骨ウェーブ」と、日常での感覚の使い方
まずは、ここまでのおさらい
これまでに、感覚にまつわる話をいくつかお伝えしてきました。
- 前庭覚(体の傾き・揺れ・回転を感じる「第七の感覚」)が、姿勢の土台や緊張・不安と深くつながっていること
- 内受容感覚(心拍・呼吸・内臓など、体の内側を感じるセンサー)を、呼吸法を通じて育てられること
呼吸法も、じつは「体の内側を感じる力」を育てる感覚のワークでした。
つまり、ここまでの流れはすべて、ここでお話しする②感覚の働きを整えることの一部だったわけです。ここではその全体像を整理しながら、まだ触れていない体性感覚と慣れない動きの話に進みます。
なぜ「感じる力」が自然体をつくるのか
緊張をゆるめ、脅威を探しつづけるモードをやめて、楽に落ち着いて過ごせる自然体になる。そのために、じつは感覚の働きへの着目がとても大切です。
私たちは、体の中や外のさまざまな変化を、感覚器官という無数のセンサーで、常に無意識のうちに感じ取っています。
その情報は脳や脊髄に伝えられ、そこから意識的・無意識的に、さまざまな命令が体へと送り返されています。
さらに昨今では、脳はただ受け身で感じているのではない、ともいわれています。
あらかじめ「こうなるはず」と予測し、その予測に対して体の内外を感じてフィードバックを受け取り、そのズレをもとに体へ指示を出して動く。
そういうメカニズムだという考え方です。
どちらの見方をとるにしても、ひとつはっきりしていることがあります。
体の内外を「感じ取る」という働きが、私たちの姿勢や動きの非常に大事な土台になっている、ということです。
「意識して動く」ほど、緊張は強くなる
ところが現代の多くの運動は、この感覚の働きとは逆の方向に偏りがちです。
「こう動こう」「ここの筋肉に効かせよう」と、脳から体へ指令を出してばかりになっているのです。
こうした、自分の体の動きそのものに細かく注意を向ける意識を内的フォーカスと呼びます。
動きに集中しすぎることは、一見まじめで正しいことのように思えます。
ですが、これがかえって過剰な緊張を生み、見た目は似ていても実際には間違った動き(代償動作)をまねくことがわかっています。
なぜでしょうか。
それは、私たちの姿勢や動きの多くが、本当は感覚からのフィードバックをもとにした無意識下のコントロールで成り立っているからです。
すべてを意識的にやろうとすると、その繊細な無意識の働きをかえって邪魔してしまうのです。
歩く、立つ、座る。
こうした動作をいちいち頭で考えていないのに自然にできるのは、感覚と無意識の連携がうまく働いているからにほかなりません。
無意識のコントロール力を高める2つの鍵

では、その無意識下の体のコントロール力を高めるには、どうすればいいのでしょうか。
大きく、次の2点です。
1. 感覚を多様に使うこと・刺激すること
2. 「慣れない動き」をすること
これが、ステップ②の中心になります。
前庭覚や内受容感覚の話は、この「感覚を多様に使う」ことの一部でした。今回はそこに、もうひとつの大事な感覚である体性感覚と、慣れない動きの話を加えていきます。
体性感覚とは ― 「自分の体がどうなっているか」を感じる力
体性感覚とは、関節の角度、筋肉の伸び縮み、体の各部位がいまどの位置にあるか、といった自分の体の状態を感じ取る感覚のことです。
目を閉じていても自分の手足の位置がわかるのは、この感覚が働いているからです。
体性感覚は、さまざまな姿勢で、普段あまり動かさない箇所を使って、いろいろな動きをすることで育っていきます。
子どもは、発達の過程でこれを少しずつ積み上げていきます。
寝返り、転がり、ずりばい、はいはい、立ち上がり、歩く、投げる、持つ。
こうした順番で、体の感覚と使い方を豊かにしていきます。
大人になると、この機能が低下している場合が少なくありません。
だからこそ、子どもの発達をたどり直すように、転がる、這う、仰向けや四つ這いで動くといった動きの中で体の感覚を刺激し、体幹の使い方・感覚を取り戻していくことが大切になります。
「慣れない動き」が神経の伝達を磨く
そしてもうひとつ大事なのが、違和感や軽い不安を覚えるくらいの「慣れない動き」をすることです。
慣れた動きは、すでにできあがった神経回路をなぞるだけなので、あまり変化を生みません。
一方、慣れない動きは、
- 感覚を脳へ新しく伝え、
- 脳から体へ指令を送り、
- そのズレを微調整する
という神経の伝達のやりとりを、活発に呼び起こします。
この微調整の繰り返しが神経の伝達を改善し、体の働きを質的に向上させていきます。
少し戸惑うくらいの動きこそが、感覚と無意識のコントロール力を育ててくれる、というわけです。
入口ワーク:壁背骨ウェーブ
では具体的に何をするか。今回おすすめするのは、壁背骨ウェーブというワークです。
このワークは何度も紹介してきましたが、大切なのは体を感じながら、ゆっくり丁寧にやること、そして体の各部位をより細かく「わける」意識で行うことです。
壁を使い、【床→膝→股関節→背骨(下から上へ)→首】の順に、下からの反力を通すように、背骨を1本ずつロールさせていきます。腹筋や背筋で自分から動かすのではなく、下からの力にゆだねて動かされる感覚を探してみてください。
深めるためのポイント
ただ形だけを何となく繰り返しても、あまり意味がありません。大切なのは「深める」ことです。
- 背骨の1つ1つを感じ分ける
- 肋骨の1つ1つの動きを感じ取る
- 背骨についている小さな筋肉の動きまで感じようとする
- 上半身は固めず、下からの反力に上半身を軽く「あずける」
- うまくできない日でも、背中を壁で刺激する感覚を味わうだけでも十分
繰り返すうちに、背中のボディマップ(脳内の体の地図)が少しずつクリアになり、無意識の姿勢制御が育っていきます。
注意点:「感じる」と「内的フォーカス」は矛盾しない?
ここで、ひとつ疑問がわくかもしれません。
「体を感じながら動くというのは、さっき出てきた緊張をまねく『内的フォーカス』になってしまうのでは?」
これは、程度の問題です。
意識をしすぎれば、たしかに緊張をまねきます。しかし、まったく意識を向けなければ、動きは改善されず、ただ慣れた動きを繰り返すだけになってしまいます。
大切なのは、その間のちょうどいい塩梅を探すことです。たとえば、
- 緊張しない程度に、軽く意識を向ける
- 全体ではなく一部だけに意識を向け、その部分の改善に集中する
- 自分で動かそうとせず、下からの反力にゆだねる「外的フォーカス」を入れる
こうしたいろいろなパターンを試しながら、自分にとって体が深まる感覚をつかんでいってください。
日常への取り入れ方 ― 意識の1割を体に置く
ワークの時間とは別に、日常の中でできることもあります。
それは、普段から思考よりも身体感覚を意識し、体の内外を感じることに注意を向けることです。
とくに過緊張タイプの方や、疲労がたまっている方は、頭が自動思考・自動おしゃべりでいっぱいになり、感覚に意識が向かなくなりがちです。
そこでおすすめなのが、意識の1割を体に置いておくという習慣です。
たとえば、通勤中や料理中などに、
- 呼吸に意識を向ける
- 足裏にのる体重を感じる
- 地面からの反力による「浮き」を感じる
- 座っているときに丹田を感じる
こうした小さな意識づけを、生活の中にそっと差し込んでみてください。
これだけでも、感覚の働きは少しずつ育っていきます。
今回のまとめ
最後に、3つのステップをもう一度確認します。
① 自律神経の働きを整える
② 感覚の働きを整える ← 今回
③ 体の使い方を変える
今回のステップ②は、「感じる力」を取り戻すことでした。
私たちの姿勢や動きは、感覚からのフィードバックによる無意識のコントロールで成り立っています。だからこそ、感覚を多様に使い、慣れない動きで神経の伝達を磨くことが、緊張をゆるめ、楽な自然体に近づく土台になります。