呼吸が浅い、肩や首がこりやすい、リラックスしようとしても体が休まらない。このような悩みをおもちの方は、呼吸法を知っておくと解決につながります。
呼吸法は、自律神経を整えるための入口として、もっとも基本的かつ効果的な方法です。
9割の方が、呼吸がうまくできていない
ボディワークの指導をしていて、実感していることがあります。
体の使い方やリラックスを指導する前に、まず呼吸を確認すると、9割がたの方がうまく呼吸できていません。
具体的には、こういう傾向がみられます。
- 横隔膜がほとんど動いていない(胸や肩だけで呼吸している)
- 肋骨が横に広がってしまう(横隔膜で吸うのではなく、肋骨を張り出して吸っている)
- 胸椎・肋骨が動きにくくかたい
そしてとくに多いのが、普段から横隔膜があまり使えていないために、呼吸補助筋である首まわりの筋肉(胸鎖乳突筋・斜角筋など)が常に使われている状態です。
これが、肩こりや首こりの原因のひとつになっています。
また、呼吸が浅いままでいると、浅い胸式呼吸によって交感神経が優位な状態が続き、体が回復しない・リラックスできない、という悪循環に入りやすくなります。
心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
呼吸法の2ステップ

呼吸法には、やり方をひとつ覚えればいい、というものではありません。
私がとくに大切にしているのは、次の2つのステップです。
① まず、正しく呼吸できるようになること
横隔膜を使った腹式呼吸を身につける段階。
② 体の内側をイメージしながらやること
内側の空気の流れを感じようとしながら呼吸する段階。
①だけでも効果は十分にありますが、②を加えることで、自律神経への働きかけが格段に深まります。
順に説明します。
① 腹式呼吸のやり方
腹式呼吸のポイントを整理します。
腹式呼吸のチェックポイント
- 肋骨の下部が四方に動く(前後左右)
- お腹と背中に空気が入って動く(下腹部から背中側まで)
- 骨盤底筋が動く(吸うと尻がゆるみ、吐くと少し締まる感覚)
- 肋骨が横に広がったり上下したりしない
- 首まわりがリラックスしたまま
横隔膜はドーム状の呼吸の主役筋です。
腹式呼吸で横隔膜が大きく上下すると、腹腔内の内臓が動かされ、体の中心(下っ腹の奥)に感覚が目覚めてきます。
また、息を長く吐くと、迷走神経が心拍にブレーキをかけるリラックス反応(RSA:呼吸性洞性不整脈)が働き、リラックスが深まります。
横隔膜まわりは迷走神経が豊富に分布しているため、深い呼吸はここを通じて脳へ「安全ですよ」という信号を届けます。
みぞおちや首肩が力むと横隔膜の動きが制限されてしまうため、上半身をゆるめながら行うことが大切です。
② 体の内側をイメージしながらやる
次のステップは、呼吸とともに体の内側を感じようとすることです。
これが、内受容感覚を高めることにつながります。
内受容感覚とは、心拍・呼吸・内臓の動き・体内の温度など、体の内側の状態を感じ取るセンサーのことです。
内受容感覚が豊かだと、自分の状態を正確に感じ取れるようになり、周囲の刺激やストレスに左右されにくくなります。
「私は私」という自己所有感(自分の体が自分のものだという実感)が強まることで、安心感の土台ができます。
また、体の内側に意識を向けることは、頭の中の自動思考(グルグルとした思考の連鎖)を鎮め、神経を落ち着かせる効果があります。
感じられなくても、感じようとするだけで十分です。
意識を向けること自体が、内受容感覚を育てます。
具体的なイメージとしては、次のようにやってみてください。
イメージ① 体幹の空洞に息を満たす
体幹の中が大きな空洞になっているイメージ。
吸うと、空気がその空洞全体をゆっくり満たしていく。
吐くと、空洞全体から空気がすっと抜けていく。
イメージ② 背中側を風が通る
吸うとき、空気が背中側を触れながら下腹あたりまで届いていくイメージ。
吐くとき、その空気が背中側を通ってゆっくり鼻から抜けていく。
風が体の奥をそっと通り抜けるような感覚で。
どちらも鼻呼吸で行います。
舌を上あごに全体的につけたまま呼吸すると、鼻呼吸が安定しやすくなります。
注意:内側への集中で緊張する場合
ひとつ注意点があります。
内側に意識を向けると、かえって緊張したり、息苦しく感じる方がいます。
これは①の腹式呼吸がまだ身についていない段階でよく起こります。
その場合は、②は後回しにして、まず①の腹式呼吸を自然にできるようにすることに集中してください。
①が安定してくると、②の内側へのイメージも自然と深まっていきます。
日常への取り入れ方
呼吸法は、毎日ちゃんとやろうとしなくていいです。
大切なのは、ときどき思い出して、身体感覚に注意を向ける時間をつくることです。
寝る前、仕事の合間、少し疲れを感じたとき。そういう場面で5分ほどやるだけで、体の回復のしやすさが変わってきます。
呼吸が整ってくると、回復しやすく、疲れがとれやすく、集中しやすい、落ち着いた状態になっていきます。
ひとつだけ付け加えると、ボディワーク(他の動きのワーク)をするときは、呼吸への意識はほとんど不要です。
動きながら呼吸に集中しすぎると、かえって動作の質が下がります。
呼吸法は「呼吸に集中する時間」として独立させて行い、それ以外のときは自然に任せておく。その使い分けが、呼吸を無理なく習慣にしていくコツです。
呼吸は地味に見えますが、体の状態を根っこから変えていく、もっとも確実な方法のひとつだと思っています。
まずは①の腹式呼吸を、一度ゆっくり試してみてください。