【144】注意散漫が創造性を生む理由 ― 発散思考と神経発達多様性の科学

May 08, 2026

「集中力こそすべて」の社会で

「集中力を高めよう」「マルチタスクをやめて一点に集中しよう」、こうしたメッセージが現代社会には溢れています。集中できることが優れていて、注意が散漫であることは欠点だ、というイメージが暗黙に共有されています。

ところが認知科学や神経発達多様性の研究分野からは、注意の散漫さや脱抑制的な広がり方が、創造的な思考にとってはむしろ強みになりうるという所見が、繰り返し報告されてきています。

発散思考と収束思考

創造的認知は大きく二つに分けられます。発散思考は「ひとつの問いから多くの可能性を生み出す」思考で、ブレインストーミングや独創的なアイデア出しに対応します。収束思考は「複数の選択肢から最適解を絞り込む」思考で、論理的判断や問題解決に対応します。

両者はどちらも創造性に必要ですが、求められる神経的なモードはかなり違います。発散思考はぼんやりしているとき、注意が広く散らばっているときに起こりやすく、デフォルトモードネットワーク(ぼんやり時に活発になる広域ネットワーク)と実行制御ネットワークが、表象を行き来させながら働くことが知られています [1]

ADHD特性と発散思考の関係

ADHD(注意欠如・多動症)と創造性に関する行動研究を統合したレビューでは、サブクリニカルな(診断には至らないが特性が強い)ADHD傾向をもつ群で、発散思考スコアが定型群より高いことが繰り返し報告されています [2]。一方、臨床診断レベルになると発散思考の優位性が頭打ちになる傾向もあり、収束思考に関してはADHD群と対照群で一貫した差は見られないとまとめられています [2:1]

別の大規模オンライン研究でも、一般集団でADHD症状スコアが高いほど発散思考の流暢性・柔軟性・独創性が高いことが報告されています [3]

つまり、「注意が散らばりやすい」「抑制が効きにくい」といった特性は、多くの可能性を同時に視野に入れる種類の思考に対して有利に働きうるということです。

ただし「ADHD=創造的」と単純化しない

ここは慎重に扱う必要があります。発散思考課題は主に「アイデアの量」を測るもので、ADHD特性をもつ群の脱抑制的・拡散的な注意が有利に働きやすい性質をもっています。発散思考課題のスコアと実生活での創造的達成との相関は中等度にとどまり、サンプルや課題の取り方で結果も変動します [2:2]

「ADHDの人は創造的だから困りごとは気にしなくていい」という単純化は、文献全体には支持されていません。困りごとは確かに困りごととして残ります。ただ同時に、その特性がある種の認知スタイルとして強みにもなる側面が確かにあるという、両義的な見方が大切です。

JINENの考え方 ― ぼーっとする時間を取り戻す

JINENボディワークでは、レッスンの中で**意識的に「ぼーっとする時間」**を作ることがあります。何かを正しく行おうとせず、感覚をただ観察するだけの時間です。

これは怠けているのではなく、神経科学的にも意味のある時間の使い方だと私は考えています。デフォルトモードネットワークが活発になる「ぼんやり時間」は、内側に向かう思考や、未来のシミュレーション、過去の経験との統合が起こる時間で、発散的な創造性とも深く関わっています。

現代人は、起きている時間のほとんどを「集中して何かを処理する」モードで過ごしがちです。スマホ、画面、通知、タスク、これらが意識を外側に張り付かせ続け、ぼんやりする時間を奪っていきます。すると、

  • 体の内側の感覚(筋紡錘・内臓感覚・呼吸の細かさ)が拾いにくくなる
  • 過緊張に気づくきっかけが減る
  • 発散的な思考や統合的な気づきが生まれにくくなる

こうした連鎖が起こりやすくなります。

JINENで大切にしている「感じる→ゆだねる」の二段階は、まさにこの集中モードを一度ゆるめて、注意を内側に広げ直す作業です。集中を全否定するのではなく、集中とぼんやりの両方を取り戻すことで、心身が本来のリズムを取り戻していきます。

「散らばる」を欠点と見ない

注意が散りやすい人、ぼんやりしがちな人、ひとつのことに長く向かいきれない人、こうした特性を「直すべき欠点」とだけ見るのは、おそらく一面的です。それは別の文脈では、多くの可能性を同時に視野に入れ、思いがけない結びつきを生み出す力でもあります。

過剰な集中の押しつけが心身を硬くするように、過剰な「集中せよ」のメッセージは、その人本来の認知スタイルを否定してしまいます。集中とぼんやりのどちらも、それぞれの場面で生きるものとして扱う、これは神経発達多様性の研究知見とも整合する、優しい姿勢だと私は考えています。


補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Matheson, H. E., Kenett, Y. N., Gerver, C., & Beaty, R. E. (2023). Representing creative thought: A representational similarity analysis of creative idea generation and evaluation. Neuropsychologia, 187, 108601. ↩︎

  2. Hoogman, M., Stolte, M., Baas, M., & Kroesbergen, E. (2020). Creativity and ADHD: A review of behavioral studies, the effect of psychostimulants and neural underpinnings. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 119, 66–85. ↩︎ ↩︎ ↩︎

  3. Stolte, M., García, T., van Luit, J. E. H., Oranje, B., & Kroesbergen, E. H. (2022). Characterizing creative thinking and creative achievements in relation to symptoms of attention-deficit/hyperactivity disorder and autism spectrum disorder. Frontiers in Psychiatry, 13, 909202. ↩︎

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