【100】感情は体で作られる ― 内受容感覚と感情の構成

May 08, 2026

感情は「心」のものか

「気分が沈みやすい」「些細なことで感情が揺れる」「なんとなく落ち着かない」。

こうした悩みを抱えている方の多くは、これを「心の問題」として対処しようとします。考え方を変える、ポジティブに捉え直す、気持ちを切り替える。しかし、それでもなかなか変わらないことが多いのではないでしょうか。

JINENボディワークでは、これらの悩みの根底に**「体の内側の感覚」の問題**があると考えています。なぜなら、感情は脳が単独で生み出すものではなく、体の内側から届く情報を脳が解釈した結果として生まれるものだからです。

感情は脳が「体の状態」を解釈して作っている

神経科学の研究から、感情は脳内のスイッチが自動的にオン・オフされるのではなく、体の内側の状態を脳がリアルタイムで解釈し、文脈に応じて「構成」するものであることが示されています [1]

たとえば、心臓がドキドキしている状態を、好きな人の前では「ときめき」と感じ、上司の前では「緊張」と感じる。同じ身体状態が、状況によってまったく違う感情として体験される。これは、感情が体の外から飛んでくるものではなく、体の内側の情報を脳が解釈して作り上げていることの証拠です。

この「体の内側の状態を感じる能力」が**内受容感覚(Interoception)**です(012参照)。内受容感覚の研究では、この感覚への気づきが高い人ほど、自分の感情を正確に認識し、適切に調節できることが報告されています [2]

身体感覚が薄いと感情が不安定になる

ここから重要な逆の問題が見えてきます。

体の内側の感覚が薄く、ぼんやりしている人は、感情の認識そのものが不安定になりやすいのです。

自分の体が緊張しているのか、疲れているのか、何を感じているのか分からない。この状態では、脳は体から届くあいまいな信号を頼りに感情を「推測」するしかなくなります。結果として、些細なきっかけで不安が増幅されたり、漠然とした不快感がずっと続いたりする。

感情調節の研究からも、内受容感覚の精度が低い人ほど、感情の認識が困難になり(アレキシサイミアとの関連)、適切な感情調節が難しくなることが示されています [3]

現場で指導していても、感情が不安定になりやすい方ほど、自分の体の感覚への気づきが薄い傾向があります。逆にいえば、体の感覚を丁寧に育てていくことが、感情の揺らぎを根本から軽くしていくアプローチになるのです。

骨盤のグラウンディングが感情の土台になる

身体感覚を育てる上で、特に重要な部位のひとつが骨盤まわりです。

骨盤は体の中心に位置し、上半身と下半身をつなぐ要です。骨盤まわりが安定すると、横隔膜や腸腰筋がしっかり働き、内臓が自然に刺激されます。すると迷走神経(006参照)を通じた「内臓から脳への情報」がしっかり届くようになり、内受容感覚が豊かになっていきます。

呼吸の研究からも、骨盤底筋と横隔膜は連動して機能しており、骨盤の安定が深い呼吸の前提条件になることが知られています [4]。深い呼吸は迷走神経ブレーキを強化し(010参照)、副交感神経を優位に導きます。

つまり、骨盤が安定する → 深い呼吸ができる → 内受容感覚が豊かになる → 感情の認識と調節が安定する、という連鎖が生まれるのです。

しかし現代人の多くは、骨盤まわりの感覚やコントロール力が弱くなっています。横隔膜がしっかり上下しない呼吸、腸腰筋のかわりにもも前や腰で頑張る座り方が習慣化し、インナーマッスルが正常に働いていない。

この身体の土台を立て直すことが、心身の安定にとって非常に重要です。

JINENが「感じる」を起点にする理由

JINENボディワークが「動く」より先に「感じる」ことを大切にするのは、まさにこの内受容感覚を育てるためです。

骨盤のワーク(丸める・反る)で大切にしているポイント:

  • 動かす起点は「下腹(股関節の奥)」:腰の筋肉ではなく、下腹の深層部(腸腰筋)を使って骨盤を転がす
  • 坐骨で座面を感じながら行う:坐骨の位置を意識することで、骨盤の動きと「体の底」の感覚が結びついていく
  • 背骨は「動かされる」もの:骨盤が転がった結果として、背骨や上半身が勝手に連動する

筋力や可動域を増やすことより先に、まず「今ある体のセンサーを正しく使えているか」を問い直す。感情を「心」だけで解決しようとするのではなく、体の内側の感覚を育てることで、感情の揺らぎを根っこから軽くしていく。 それが、身体からのアプローチの力です。

補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Barrett, L. F. (2017). The theory of constructed emotion: An active inference account of interoception and categorization. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 12(1), 1–23. ↩︎

  2. Critchley, H. D., Wiens, S., Rotshtein, P., Öhman, A., & Dolan, R. J. (2004). Neural systems supporting interoceptive awareness. Nature Neuroscience, 7(2), 189–195. ↩︎

  3. Herbert, B. M., Herbert, C., & Pollatos, O. (2011). On the relationship between interoceptive awareness and alexithymia: Is interoceptive awareness related to emotional awareness? Journal of Personality, 79(5), 1149–1175. ↩︎

  4. Hodges, P. W., Sapsford, R., & Pengel, L. H. M. (2007). Postural and respiratory functions of the pelvic floor muscles. Neurourology and Urodynamics, 26(3), 362–371. ↩︎

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