「まず筋トレ」は本当に正しいのか
体の不調を感じたとき、「筋力が足りないから鍛えましょう」というアドバイスは最も一般的です。腰痛なら体幹トレーニング。膝が痛ければ大腿四頭筋の強化。猫背なら背筋のエクササイズ。
042の記事で「OSとアプリの比喻」を使い、筋トレ(アプリ)だけではOS(神経系の基盤)のバグは解決しないと解説しました。この記事では、その議論をさらに具体的に掘り下げます。
筋力はあるのに使えていない
実は、多くの「筋力不足」に見える問題は、筋肉自体が弱いのではなく、神経系がその筋肉に指令を出せていないのです。
064の記事で「座りっぱなしがお尻を眠らせる」と解説しましたが、大殿筋の筋力テストでは問題ないのに、歩行時に大殿筋が適切なタイミングで発火しない人は非常に多い。筋肉は存在しているのに、神経系がそれを「呼び出せない」状態です。
こうした人に大殿筋の筋トレを処方しても、代わりにハムストリングスや腰の筋肉で代償してしまい(076参照)、肝心の大殿筋には刺激が入りません。「使えない筋肉を鍛える」というのは矛盾なのです。
神経ケアが先、筋トレは後
JINENのアプローチでは、明確な順序があります。
Step 1:まず「つながり」を回復する(神経ケア)
使えていない筋肉への神経回路を再開通させること。具体的には:
- 軽い触覚刺激(タッピング、セルフタッチ)で対象の部位を脳に「認識させる」
- ゆっくりとした微細な動き(029のスローモーション参照)で、対象の筋肉が「ある」ことを脳に教え直す
- 固有感覚(013参照)のトレーニングで、その部位のボディマップを書き換える
Step 2:次に「使い方」を学ぶ(運動パターンの修正)
神経回路がつながったら、正しい運動パターンを学習する。たとえば、股関節の屈曲を「大腿四頭筋」ではなく「腸腰筋」で行うパターンへの書き換え。
Step 3:最後に「強くする」(筋トレ)
正しい神経回路が開通し、正しい運動パターンが定着してから、初めて負荷をかけた筋トレが効果を発揮します。
なぜ順序が大切なのか
この順序を逆にする(いきなり筋トレから入る)とどうなるか:
- 代償動作が強化される:本来使うべき筋肉が使えないまま、代わりの筋肉(代償筋)が鍛えられてしまう。問題が「強化」される
- 痛みが悪化する:代償パターンに負荷をかけるため、不適切な部位にストレスが集中する
- 「筋トレなのに効果がない」:努力しているのに症状が改善せず、モチベーションが低下する
逆に、神経ケアから入ると:
- 眠っていた筋肉が目覚める:少ない負荷で大きな効果が得られる
- 代償が減る:正しい筋肉が使えるようになると、代償していた筋肉の過負荷が自然に減る
- 「何もしていないのに楽になった」:086の記事の「引き算」の効果
筋トレは「手段」であって「目的」ではない。 体を楽にするという目的に対して、筋トレが最適な手段になるのは、神経系の土台が整ってからです。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献