「もっと鍛えよう」への違和感
「体を良くするには、もっと鍛えよう」「もっとストレッチしよう」「もっとサプリを摂ろう」。健康情報は常に「足す」方向を指しています。
筋トレを追加し、新しい健康法を試し、スケジュールにセルフケアの時間を上乗せする。でも、それで本当に体は楽になりましたか。
JINENの考え方は、その逆です。「足す」のではなく「引く」。余計なものを外していった先に、自然体がある。
人間の脳は「足す」ことに偏る
この「足し算バイアス」は、個人の好みの問題ではなく、認知的な傾向であることが研究で示されています。
2021年にNature誌に掲載された研究では、人は問題を改善しようとするとき、何かを「取り除く」解決策よりも「付け加える」解決策を体系的に好むことが明らかになりました [1]。
たとえば、不安定なレゴの構造物を「安定させてください」と依頼されたとき、ブロックを追加する人が圧倒的に多く、不要なブロックを取り除いた方が簡単で効率的であっても、そちらに気づく人は少なかったのです。
この傾向は認知的な負荷が高いほど強まります。忙しいとき、ストレス下にあるとき、考えることが多いときほど「足す」解決策に飛びつきやすい。
身体における「引き算」
体にもまったく同じことが言えます。
多くの人は、体を良くするために何かを「足す」ことばかり考えます。しかし実際には、不要なものを「引く」ほうが根本的な変化が起こることが少なくありません。
| 足し算アプローチ | 引き算アプローチ |
|---|---|
| 弱い筋肉を鍛える | 邪魔している余計な緊張を外す |
| ストレッチを追加する | 固まっている原因(姿勢の癖、反射)に気づく |
| サプリメントを増やす | 睡眠を妨害している習慣を断つ |
| 新しいメソッドを試す | 今持っている体の声を聴く |
042の記事で「OSとアプリ」の比喩を使いましたが、「アプリ(筋トレ・ストレッチなど)」を足し続けても、OS(神経系の基盤)にバグ(代償動作、残存反射、過緊張)が残っていれば、根本は変わらない。
「引く」とは、このOSレベルのバグを見つけて除去する作業です。
ノイズの除去
JINENのワークの多くは、実は「何かを加える」作業ではなく、「余計なものを除去する」作業です。
- 過緊張を除去する:必要以上に力が入っている筋肉群を、意識に上らせてからゆっくり手放す(057参照)
- 代償動作を除去する:本来は股関節で動くべきところを、太ももの筋肉で代償している。その代償パターンを認識させ、正しい回路に戻す(076参照)
- 原始反射のノイズを統合する:残存する原始反射が姿勢や動きに「ノイズ」を加えている。そのノイズを統合することで、体が本来持っていた効率的な動きが自然に現れる(031〜037参照)
- 思考のノイズを減らす:「正しくやらなきゃ」「もっと頑張らなきゃ」という思考自体が、体を固くするノイズ。081の記事で書いた「意図」の世界に入ると、この思考ノイズが自然に減る
ノイズが消えた後に残るもの、それが「自然体」。 足し算では到達できない、引き算の先にある状態です。
「何もしなくても整っている体」
JINENの最終目標は、「ワークをしている瞬間だけ楽な体」ではありません。
「特に何もしていないのに、普通にしているだけで整っている体」です。
それは、余計な緊張がなく、余計な代償がなく、余計な思考がない状態。つまり、「足したもの」が積み上がった状態ではなく、「引くものがもう何もない」状態。
引き算の果てに、ふと気づく。「あれ、何もしていないのに楽だ」。 これがJINENの目指す自然体です。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
-
Adams, G. S. et al. (2021). People systematically overlook subtractive changes. Nature, 592(7853), 258–261. ↩︎