このシリーズの目的
このエビデンス記事シリーズでは、JINENボディワークの考え方をさまざまな科学的研究と照らし合わせて紹介しています。
しかし、このシリーズを読み始める前に、JINENのエビデンスに対するスタンスをお伝えしておきたいと思います。
エビデンスマニアにならないこと
近年、「エビデンスに基づいた」という言葉は、あらゆる分野で信頼の証として使われるようになりました。それ自体は良い傾向です。しかし、その裏で「エビデンスがないものは価値がない」「科学的に証明されていないことは信用できない」という極端な態度も生まれています。
私は、この考え方を取りません。
現場が先、エビデンスは後
エビデンスを集めていて分かるのは、多くの場合、優れた指導者や実践者が現場で長年感じてきた事実や経験則が、後から科学によって裏付けられているということです。
たとえば、「ゆっくり動くと上達が早い」ことを、優れた指導者たちは何十年も前から知ってたはずです。髄鞘化(029参照)の研究がそのメカニズムを説明したのは、ずっと後のことです。「やさしく触れたほうが体がゆるむ」ことを、施術家たちは経験で知っていました。C触覚線維(041参照)の発見は2002年です。
つまり、エビデンスは現場の知恵を「追認」することが多いのです。エビデンスからトップダウンに手法を組み立てるのではなく、まず自分で実践し、経験を積み、体で感じる。エビデンスはその参考程度に理解しておければ十分です。
「エビデンスがない」は「価値がない」ではない
現場では、論文に載っていない手法が日常的に生まれています。
スポーツの指導者が試合中に直感で行う指示。武道の熟練者が何十年もの稽古の中で見つけた「コツ」。ボディワーカーがクライアントの体に触れながら、その場で生まれる新しいアプローチ。
これらはエビデンスとして体系化されていないかもしれません。しかし、現場での経験と創発から自然に生まれてくるこうした手法には、科学がまだ追いついていない知恵が含まれていることが少なくありません。
JINENボディワーク自体も、何千時間もの実践の中から生まれてきたものです。エビデンスが先にあったのではなく、実践が先にあり、後から「なぜうまくいくのか」を科学的に説明できるようになった部分が多くあります。
エビデンスの正しい使い方
では、エビデンスは何のためにあるのか。JINENでは、以下のように考えています。
① 時代遅れの手法の見直し
「根性で頑張れ」「痛みは我慢しろ」「もっと強く揉め」、一部の古い指導法や施術法が、科学的に見て逆効果であることを示す。エビデンスは、こうした悪しき常識を手放すための根拠になります。
② 新しい手法のヒント
神経科学や運動科学の新しい発見は、現場の指導者にインスピレーションを与えてくれます。「こういうメカニズムがあるなら、こういうワークが効くのではないか」という仮説を生む土壌になります。
③ 実践者同士の共通言語
「なんとなく効く」ことを他者に伝えるとき、科学的な枠組みがあると伝えやすくなります。エビデンスは、暗黙知を共有可能な知に変換するための道具です。
現場の創発を否定しないこと
最後に、もっとも大事なこと。
エビデンスは、現場での工夫や創発を否定するためにあるものではありません。
指導の1つ1つに論文の根拠がある必要はない。クライアントの目の前で起きている変化を信頼していい。自分の体が感じている「これは効いている」という感覚を、エビデンスがないからといって捨てる必要はない。
体で感じ、実践で磨き、必要に応じてエビデンスを参照する。 この順番を間違えないこと。それがJINENのスタンスです。
なお、本シリーズではポリヴェーガル理論(自律神経の3段階モデル)をはじめ、ミラーニューロン理論、テンセグリティ理論など、学術的に賛否のある理論も参照しています。いずれも臨床や実践の現場で有用性が広く認められている枠組みですが、すべてが科学的に確立されているわけではないことをご了承ください。
このシリーズが、みなさんの実践をより豊かにする「参考」になれば幸いです。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。