なぜあの人は「音に敏感」で「すぐびくっとする」のか
ドアがバタンと閉まると体がびくっと固まる。急に声をかけられると過剰に驚く。映画の爆発音で体がこわばる。暗い場所が極端に怖い。
「自分は神経質なだけ」と思っているかもしれません。しかし、これらの反応の背後には、乳児期に統合されるべきだった2つの原始反射の残存が隠れている可能性があります。
恐怖麻痺反射(FPR):最初の「フリーズ」
恐怖麻痺反射(Fear Paralysis Reflex:FPR)は、受精後約5〜8週で発現する、人間が最初に獲得する反射のひとつです。脅威を感じたとき、胎児が全身を硬直させて「凍りつく」反応です。
発達神経生理学の専門研究から、FPRが統合されずに残存すると、以下の特徴が大人にも見られることが報告されています [1]。
- ストレス下での「フリーズ」反応(動けなくなる)
- 全般的な不安の高さ、感覚過敏
- 新しい環境への極端な恐怖
- アイコンタクトの回避
- 筋肉の慢性的な硬直(特に首・肩・背中)
FPRはポリヴェーガル理論のでいう「凍りつき」反応(005参照)の原型ともいえる反射です。FPRが残存している人は、脅威に対して「闘争・逃走」以前の「凍りつき」が最初に発動しやすくなります。
モロー反射:最初の「ファイトorフライト」
モロー反射は、FPRの次に発達する原始反射です。突然の音、体勢の変化、光の変化などに対して、腕を大きく広げ(伸展相)、続いて抱きしめるように閉じる(屈曲相)反応です。
小児神経学の研究から、モロー反射は脳幹が支配する原始的な驚愕反応であり、生後4〜6ヶ月で皮質の成熟に伴い統合されることが示されています [2]。しかし統合が不完全だと、以下のパターンが大人にも残ります。
- 過剰な驚愕反応(びくっとする)
- 感覚刺激への過敏(音、光、においなど)
- 感情の不安定さ
- 慢性的な肩の挙上(いかり肩)と浅い呼吸
- 前庭系の過敏(乗り物酔い)
モロー反射が残存すると、体は常に「臨戦態勢」にあるようなものです。交感神経が慢性的に優位になり、副腎からのアドレナリン分泌が促進され、過覚醒状態が続きます。
FPRとモロー反射の関係
FPRとモロー反射には発達的な順序関係があります。
FPR(凍りつき)→ モロー反射(闘争・逃走の原型)→ 成熟した驚愕反応(大人の正常な反応)
FPRが十分に統合されないと、次のモロー反射の統合も阻害されます。そしてモロー反射が統合されないと、より高次の姿勢反射(バランス反応、保護伸展反応など)の発達も妨げられます [1-1]。
つまり、この2つの反射は過緊張の「2大バグ」なのです。FPRは「全身が固まる」パターン、モロー反射は「上半身が過剰に反応する」パターンを作り出し、慢性的な過緊張の土台になります。
JINENの「フリーズ解除」ワーク
JINENボディワークでは、この2つの反射に直接アプローチするワークがあります。
FPRへのアプローチ:
- 仰向けでの安全な環境での丸まり→伸び:胎児期の屈曲・伸展パターンを安全にたどり返す
- 穏やかなタッチと声かけ:フリーズのパターンを安全に「解凍」する(019参照:安心感が鎮痛効果を持つ)
- ゆっくりとしたアイコンタクト:社会的関与システム(005参照)を活性化し、フリーズの閾値を上げる
モロー反射へのアプローチ:
- スターフィッシュポジション(大の字)からの収縮:モロー反射の伸展・屈曲パターンを意識的・随意的に再統合する
- 段階的な感覚刺激への慣れ:音、光、前庭刺激を少しずつ導入し、過敏な反応の閾値を正常化する
- 呼吸法:横隔膜呼吸を通じて迷走神経ブレーキを作動させ、モローの交感神経優位状態を緩和する
過緊張の「原因」が、乳児期の反射にあるかもしれない。この可能性を知るだけで、「力を抜けない自分」への見方が大きく変わるのではないでしょうか。
参考文献
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
-
Goddard Blythe, S. (2005). Reflexes, Learning and Behavior: A Window into the Child's Mind. Fern Ridge Press.↩︎↩︎
-
Futagi, Y., Toribe, Y. & Suzuki, Y. (2012). The grasp reflex and Moro reflex in infants: hierarchy of primitive reflex responses. International Journal of Pediatrics, 2012, Article 191562.↩︎