【176】驚いたあと、どれくらいで戻れるか:驚愕反射の馴化と感作

Sep 01, 2026

突然の音にびくっとするのは、心の弱さではありません。驚愕反射は、急な刺激に対して意志より先に起こる防御反応です。人では、まぶたを閉じる瞬目反応を指標に測ることができます。

同じ刺激を繰り返すと反応が小さくなる現象は、馴化と呼ばれます。ただし古典的な二過程理論では、繰り返しによって反応が弱まる過程だけでなく、反応しやすくなる感作も働き、観察される反応は両者の組み合わせで決まると考えます[1]。「繰り返せば必ず慣れる」とは限りません。

びっくりしやすい、過敏に反応してしまう、というお悩みの参考になればと思います。

予期していると、反射は大きくなる

健常者9名を対象にした実験では、電気刺激を予期している時間帯と、安全だと分かっている時間帯で、音に対する瞬目反応を比べました。予期している時間帯では反応の振幅が大きく、始まるまでの時間も短くなりました。この差は、参加者が実際に電気刺激を受ける前から見られました[2]

ごく小規模な研究なので、数値をそのまま日常へ当てはめることはできません。それでも、驚きやすさが刺激の性質だけでなく、「何か起きるかもしれない」という文脈に左右されることを示す初期の実験として参考になります。 日常的な言い方にすると「警戒していると、驚きやすくなる」といえます。

「慣らせばいい」には条件がある

刺激に慣れさせる反復練習で、驚きにくくなっていく、ということは一般的に知られていると思います。 しかし慣れるための反復が逆方向に働いた例もあります。

ハイイロアザラシを使った研究では、立ち上がりの急な音を繰り返した個体に、逃走や長く続く回避行動の感作が見られました。感作した個体は、音源近くの慣れた餌場まで避けました。一方、最大音圧が同じでも立ち上がりの緩やかな音では、回避反応が弱まりました[3]

ただし、これは人の研究ではありません。しかも研究全体の個体数は少なく、同じ最大音圧の2種類を比べた実験は、未経験の若い雌2頭だけでした。この結果から、人でも苦手な刺激の反復が同じ経過をたどるとは言えません。示せるのは、刺激の与え方によって馴化と感作が分かれうるという、動物での例です。

そのため、人間にそのまま当てはめることはできませんが、単に「刺激にさらすほど慣れていく」とはいえませんし、逆に過敏になる場合もある、ということは人間にも共通するのではないかと思います。

ボディワークでどうアプローチするか

驚愕反射をはじめとした、反射的な反応自体にいいも悪いもありません。それは人間が生存のために身につけてきた能力であり、そのおかげで危機を回避できるからです。

多くの方が悩んでいるのは、過度に物事に驚いたり、脅威を感じたりしてしまうことや、緊張や不安が持続してしまうことではないでしょうか。過敏さ、脅威の反応の出やすさは改善できることがああります。また、大事なのは反射的な反応が出た後に、普段の状態に切り替えられることです。 人間は原理的に「反射をなくす・抑える」ことはできませんし、目指す必要もありません。

大事なのは、過度に働く状態ならそれをやわらげること、普段の状態に戻れることです。

普段の状態に戻る方法の一例を紹介します。

意識の一部を足裏や坐骨の重さに置くアンカーは、その一例です。床との接点を感じ、吐く息に合わせて肩やあごの余計な力に気づく。さらに、足裏と床の接点で体を支える床支点をつくると、驚いたあとにも「ここに戻ればいい」という具体的な手がかりを持ちやすくなります。

もちろん既存の研究から、アンカーや床支点によって驚愕反射が小さくなるとは言えません。それでも、私の経験では、驚きやすさそのものを何とかしようとするより、反応したあとに足裏、呼吸、体の重さへ戻る練習をしておくほうが、日常で立て直しやすくなります。

これは、苦手な刺激に無理にさらして慣れることとは違います。 安全なときに、自分が戻りやすい身体感覚を少しずつ見つけておくのです。

驚かない体を目指す必要はありません。驚いた自分を責めず、揺れても戻れる場所を増やしていく。そうすると、いつ起こるか分からない反応を警戒し続ける生き方から、少しずつ楽になれる可能性があります。びくっとしたあと、なかなか落ち着けない人は、まず安全な場所で、足裏や坐骨の重さに戻る練習から試してみてください。

補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

苦手な刺激にご自身を意図的にさらすことは、この記事では勧めていません。強い不安や、過去の体験に関連した反応が続く場合は、専門機関にご相談ください。

参考文献

  1. Groves PM, Thompson RF (1970). Habituation: a dual-process theory. Psychological Review, 77(5), 419-450. PMID: 4319167. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4319167/

  2. Grillon C, Ameli R, Woods SW, Merikangas K, Davis M (1991). Fear-potentiated startle in humans: effects of anticipatory anxiety on the acoustic blink reflex. Psychophysiology, 28(5), 588-595. PMID: 1758934. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1758934/

  3. Götz T, Janik VM (2011). Repeated elicitation of the acoustic startle reflex leads to sensitisation in subsequent avoidance behaviour and induces fear conditioning. BMC Neuroscience, 12, 30. PMID: 21489285. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3101131/

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