「体のことがよく分からない」と話す人が、動悸や胃の締めつけには細かく気づいていることがあります。矛盾して見えますが、そもそも「感じる力」を1つの能力と考えることに無理があるのかもしれません。
内受容感覚とは、心拍や呼吸など、体内の状態を受け取る働きです。研究で広く使われてきた3次元モデルでは、次のように分けます[1]。
- 正確さ:心拍検出課題などで、体の状態をどれだけ正確に捉えられるか
- 感受性:自分は体に気づきやすいと、どの程度考えているか
- 気づき:課題の正誤と自信の程度がどれだけ対応するかという、メタ認知
一般成人80名を対象にした研究では、この3つは区別でき、正確さはほかの2つから部分的にしか予測されませんでした[1]。つまり、自己評価と課題成績は同じではありません。「鈍いと思っているから、実際にも正確さが低い」とは限らないのです。
モデルとして限定して使う
ここには重要な限界があります。別の健常者159名の研究では、3つの関係が、心拍を数える課題と心拍を弁別する課題で異なりました[2]。また、2019年の理論レビューは、「どう測るか(客観的な課題か、自己報告か)」と「何を測るか(正確さか、注意の向きやすさか)」を分けて整理し直す必要があると提案しています[3]。心拍課題自体の妥当性にも議論があります。
そのため、「感じる力は科学的に3つだ」と断定することはできません。ただ、体を感じる力も一つではなく、いろいろな側面があるのだな、と参考程度に考えればいいと思います。
不安と感覚の正確さについて
不安と心拍の内受容感覚の正確さを調べた、55研究の事前登録済み系統的レビューとメタ解析では、両者の関連を支持する証拠は見つかりませんでした[4]。これは、不安が別の側面によって生じると証明した結果ではありません。ただ内受容感覚の正確さだけで不安を説明するのは難しいことを示します。
これらの研究からいえるのは「体を感じる力」はさまざまな側面があり、簡単には測定できないし、不安との関係もまだわかっていることは少ないということです。
JINENボディワークでは、精神的な安定や体の働きを向上させるために「体を感じる力」を活用することはあります。しかし、別の記事でも書いたように、体を感じようとすることが不安を強くする逆効果につながることも、稀にあります。
そのため「感じる力を高めないとだめだ」「もっと正確に感じられないとだめだ」と固定的に考える必要はありません。
体の変化に気づいたら、まず掘り下げずに感じ取る。このくらいでもいいですし、感覚を深めることで不安や精神的な揺らぎが強くなるなら、別の行動をして気をそらした方がいい場合もあるでしょう。「感じる」は、あくまで基本的な原則や手がかりとして使うということです。
ただ私がボディワークの現場で感じているのは、「体を感じる力がない」と思っている人にも、入口はすでにあることが多いということです。
足裏のどちらが床に広く触れているか、仰向けになったとき背中のどこが床に預けられているか。
全身を一度に感じようとせず、動く前後の小さな違いを尋ねると、それまで「分からない」と話していた人が、自分の言葉で変化を捉え始めることがあります。
そうして少しずつ、体の感覚が深まり、自分の実在感を強くしていけることは多いです。
JINENの言葉でいうと
JINENの軽集中は、意識の一部を体に残しながら、注意を固定しすぎない姿勢です。また、関節や背骨を小さく分けて動かし、動く前後の違いを確かめていくボディリマッピングでは、感じる対象を具体的に絞ります。
これらは、上記の3次元モデルによって効果が実証された方法ではありません。
ただ、感じる力を1つの才能として決めつけず、注意の向け方や、自分の感覚への意味づけを少しずつ見直す実践は、研究の知見と対立するものではありません。
感じにくいところがあっても、それは「自分の体とつながれない」という宣告ではありません。
すでに分かる重さや接触から始めればいいのです。「自分には感覚がない」と諦めかけている人ほど、まずは床に触れている足裏や背中の小さな差を確かめてみてください。体との付き合い方が楽になり、自分の感覚をもう一度信頼していく入口になるかもしれません。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
1. Garfinkel SN, Seth AK, Barrett AB, Suzuki K, Critchley HD (2015). Knowing your own heart: distinguishing interoceptive accuracy from interoceptive awareness. Biological Psychology, 104, 65-74. PMID: 25451381. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25451381/
2. Forkmann T, Scherer A, Meessen J, Michal M, Schächinger H, Vögele C, Schulz A (2016). Making sense of what you sense: Disentangling interoceptive awareness, sensibility and accuracy. International Journal of Psychophysiology, 109, 71-80. PMID: 27702644. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27702644/
3. Murphy J, Catmur C, Bird G (2019). Classifying individual differences in interoception: Implications for the measurement of interoceptive awareness. Psychonomic Bulletin & Review, 26, 1467-1471. https://doi.org/10.3758/s13423-019-01632-7
4. Adams KL, Edwards A, Peart C, Ellett L, Mendes I, Bird G, Murphy J (2022). The association between anxiety and cardiac interoceptive accuracy: A systematic review and meta-analysis. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 140, 104754. PMID: 35798125. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35798125/