はじめに:努力不足だけでは説明できないことがある
字を書く、靴ひもを結ぶ、自転車に乗る、新しい動きを覚える。こうした動作に長く苦労してきた人が、「自分は不器用だから」と責めてしまうことがあります。
運動技能の習得や遂行が年齢から期待される水準を大きく下回り、日常生活・学業・仕事などに継続的な影響がある場合、発達性協調運動症(DCD: Developmental Coordination Disorder)という診断概念があります。ただし、不器用さがあるだけでDCDと判断できるわけではありません。
ADHDやASDと運動の困難は重なりうる
ADHDとDCDを扱った2023年の系統的レビューは、両者がおよそ50%で併存すると整理しています。4つのデータベースで2,353報を選別し、ADHDとDCDの併存群を単独群と比較した行動研究15報、脳画像研究10報を検討したものです[1]。
個別研究では、ADHDの子ども20名のうち75%が、保護者質問票による「DCDの可能性」の基準を満たしました。ただし、対象が小さく、臨床診断ではなく質問票による判定です[2]。
ASDのある43名の既存記録を後方視的に調べた研究では、97%超が標準化された運動評価で16パーセンタイル未満、90%超がDCD併存の基準を満たしました[3]。この研究も小規模で、特定の集団を対象としています。「ASDの人の9割がDCD」と一般化できる数字ではありません。
これらの研究が示すのは、ADHD・ASDとDCDは併存する可能性があること、注意や対人面の特性だけでなく、運動面も評価する価値があるということです。
大人にも運動以外の負担がみられる
16〜60歳の成人1,476名をオンラインで調べた研究では、Adult DCD Checklist上で「可能性あり」または「可能性が高い」とされた人の困難に、性別と年齢による違いがみられました。女性は粗大運動と非運動面、男性は微細運動の困難をより強く報告し、16〜25歳は26歳以上より非運動面の困難を多く報告しました[4]。
重要なのは、これはオンライン質問票による調査で、医療機関でDCDと診断された成人の有病率を示す研究ではないことです。それでも、運動の困難が日常の参加や周辺の負担と結びついている可能性、教育・医療・職場で見落とされうる可能性を考える材料になります。
JINENボディワークとの関連
JINENボディワークは、これまでに多くの「動きがぎこちない」「運動が苦手」「スポーツや筋トレでも体を傷めて上達しない」という方たちに繰り返し指導し、その経験の中から独自のプログラムをつくりだしてきました。
そして、体の不器用さが強い方には、まず大きく全体的に動かす、体の動く部分から分けて動かす、体の感覚に刺激を入れる、といったアプローチから指導しています。体が不器用なタイプでも、繰り返し丁寧に行うことで、体は使えるようになっていきます。
今回消化したの4研究は、ボディワークの介入効果を調べたものではありません。したがって、「体を整えればDCDや発達特性が変わる」とは言えません。ここは慎重に分けて考える必要があります。
そのうえで私は、運動の困難が実際にあるのなら、体を通して学び直す意味まで否定する必要はないと考えています。診断や専門的支援とは別に、まだ試していない動き方や学び方が残っているかもしれないからです。
現場では、「右腕を動かす」のように全体へ命令するのではなく、肩、肘、手首をひとつずつ分け、床や壁との接点を確かめながら動いてもらう、といったことを行います。すると、ひとまとめに「苦手」だった動きの中にも、分かる部分と分からない部分が見えてきます。JINENでいうボディリマッピングは、こうして自分の体の位置や動きを、少しずつ捉え直していく実践です。
全身のスムーズな協調が難しいときに、全身を一度に合わせるのではなく、分けて感じ、あとからつなぎ直すという手順には、実践する価値があります。少なくとも、速さや周囲との比較を基準にして失敗を重ねるのとは、まったく違う運動経験になります。
「不器用だから」で終わらせてきた人にこそ、競わず、小さく分けて体を動かす方法を試してほしいと思います。できることがひとつ見つかるだけでも、体への見方は変わります。体への見方が変わることで、日常で何かを選ぶときの気持ちまで、少し楽になる人もいます。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。 診断については、必ず専門機関にご相談ください。 この記事は特定の状態の診断や、診断の否定を目的とするものではありません。
参考文献
1. Pranjić M, Rahman N, Kamenetskiy A, Mulligan K, Pihl S, Arnett AB (2023). A systematic review of behavioral and neurobiological profiles associated with coexisting attention-deficit/hyperactivity disorder and developmental coordination disorder. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 153, 105389. PMID: 37704094. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37704094/
2. Montes-Montes R, Delgado-Lobete L, Rodríguez-Seoane S (2021). Developmental Coordination Disorder, Motor Performance, and Daily Participation in Children with Attention Deficit and Hyperactivity Disorder. Children (Basel), 8(3), 187. PMID: 33804502. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33804502/
3. Miller HL, Sherrod GM, Mauk JE, Fears NE, Hynan LS, Tamplain PM (2021). Shared Features or Co-occurrence? Evaluating Symptoms of Developmental Coordination Disorder in Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders, 51(10), 3443–3455. PMID: 33387238. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33387238/
4. Cleaton MAM, Tal-Saban M, Hill EL, Kirby A (2021). Gender and age differences in the presentation of at-risk or probable Developmental Coordination Disorder in adults. Research in Developmental Disabilities, 115, 104010. PMID: 34139601. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34139601/