はじめに:リラックスが難しい
深呼吸をすると息苦しい。力を抜こうとすると、かえって肩に力が入る。瞑想やボディスキャンを始めると、そわそわして続けられない。
こうした反応は、やり方の下手さだけでは説明できません。
リラックスの練習中に不安が高まる現象は、リラクセーション誘発性不安(relaxation-induced anxiety)と呼ばれ、1980年代から研究されています[1][2]。
起こる割合は一定ではありません
初期研究は小規模で、PubMedには抄録も収録されていません。そのため、「何割の人に起こる」と一般化するのは避けるべきです[1][2]。
抄録で対象と結果を確認できる1988年の研究では、慢性的な不安を抱える30名が、録音に沿った漸進的筋弛緩法(順番に筋肉を緊張させて緩める方法)を1回行いました。そのうち5名、17%が練習中の不安増加を報告しています。不安の増加は、内的統制の傾向、不安になることへの恐れ、コントロールを失うことへの恐れと関連していました[3]。
この結果から分かるのは、リラックスで不安が増す人が実際にいることです。 一方、30名・1回の練習から、一般人口での頻度や原因までは決められません。
「急な落差」が関わる可能性
近年の研究では、全般性不安症32名、大うつ病34名、対照30名が、リラックスした後に不快な映像を見る課題などを行いました。解析では、落ち着いた状態から否定的な感情へ急に移ることへの敏感さが、全般性不安症とリラクセーション誘発性不安の関係を完全に、大うつ病との関係を部分的に媒介しました[4]。
これは、「ゆるむこと」そのものより、ゆるんだ後に急に不安が強まる落差を避けようとしている可能性を示します。ただし、媒介分析は機序を確定するものではありません。
別のレビューでは、慢性的な過換気がある人では、休息によって代謝が下がっても換気量が保たれると、二酸化炭素が低下してパニック様の感覚が生じうる、という仮説が示されています[5]。リラクセーション誘発性不安は、ひとつの説明だけで整理できる現象ではないといえます。
JINENボディワークでは
反応が強まるときに、さらに深く呼吸したり、無理に力を抜いたりする必要はありません。JINENでは、まず足裏と床、背中と椅子など、体と外界の接点を確かめます。目を開けたまま、全身ではなく片手だけ、長時間ではなく短時間にする方法もあります。
これは、上記の研究で効果が検証された対応法ではなく、負担を小さくするための実践上の工夫です。
ここまで慎重に書いたうえで、私の現場での経験もお伝えすると、呼吸を深くしようとするより、足裏にかかる重さを感じたり、床を軽く押して返ってくる力を受け取ったりするほうが、落ち着きへの入口になる人は少なくありません。
リラックスを「自分の力でつくるもの」にすると、それ自体が新しい課題になります。一方、床や椅子に支えてもらいながら小さく動くボディワークなら、力を手放すことを急がずに済みます。ゆるむことは命令して起こすものではなく、体が「ここなら大丈夫」と確かめた結果として現れるものだと、私は考えています。
もちろん、こうした実践がリラクセーション誘発性不安に有効だと、今回の研究が直接示したわけではありません。それでも、急な変化やコントロールを失う感覚が負担になりうるという知見と、変化を小さくし、外からもらえる支えを使う実践は矛盾しません。
一般的な呼吸法や瞑想が合わなかったからといって、楽になる道がないわけではありません。ゆるめない自分を責めるのではなく、いまの体が受け入れられる入口を探してみてください。苦しさが増すなら中止し、強い不安、動悸、息苦しさが続く場合は専門機関に相談してください。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。強い不安や動悸、息苦しさが続く場合は、専門機関にご相談ください。
参考文献
1. Heide FJ, Borkovec TD (1983). Relaxation-induced anxiety: paradoxical anxiety enhancement due to relaxation training. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(2), 171–182. PMID: 6341426. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6341426/
2. Heide FJ, Borkovec TD (1984). Relaxation-induced anxiety: mechanisms and theoretical implications. Behaviour Research and Therapy, 22(1), 1–12. PMID: 6365071. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6365071/
3. Braith JA, McCullough JP, Bush JP (1988). Relaxation-induced anxiety in a subclinical sample of chronically anxious subjects. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 19(3), 193–198. PMID: 3069875. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3069875/
4. Kim H, Newman MG (2019). The paradox of relaxation training: Relaxation induced anxiety and mediation effects of negative contrast sensitivity in generalized anxiety disorder and major depressive disorder. Journal of Affective Disorders, 259, 271–278. PMID: 31450137. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31450137/
5. Ley R (1988). Panic attacks during relaxation and relaxation-induced anxiety: a hyperventilation interpretation. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 19(4), 253–259. PMID: 3148637. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3148637/