はじめに:痛いところだけを見ても分からないことがある
後頭部から目の奥にかけて痛む。首を揉むと一時的に楽になるものの、また戻ってくる。
こんなとき、痛む場所そのものだけに原因があるとは限りません。首の上部と頭・顔から届く痛みの信号は、脳幹から上位頸髄にまたがる領域で、同じ二次ニューロンへ集まることがあるからです。この領域は三叉神経頸髄複合体と呼ばれます。
別々の道から来た信号が、同じ窓口に入るようなものです。この「収束」により、頸部に由来する痛みが頭痛として感じられることがあります[3]。ただし、痛む場所と原因が「必ず違う」という意味ではありません。
首と頭は、互いの反応に影響しうる
この関係を調べた代表的な研究があります。いずれも麻酔下のラットを用いた基礎研究です。
2003年の研究では、硬膜と頸部の両方から入力を受けるC2後角の侵害受容ニューロン29個を記録しました。硬膜へ刺激を加えると、頸部からの入力に対する反応が増し、71%のニューロンで反応する皮膚領域の拡大がみられました[1]。
2002年の研究では、硬膜と大後頭神経の両方に反応するニューロン67個を記録しました。大後頭神経や、その支配領域の皮膚・筋への刺激後、一部のニューロンで硬膜からの入力への反応が高まりました[2]。
つまり、実験条件では、頭側の刺激が首側への反応を、首側の刺激が頭側への反応を強める方向が示されています。ただし、これは痛みの広がりや関連痛を説明する仕組みの候補であり、人の頭痛の原因や、特定の施術の効果を直接証明した研究ではありません。
「首が原因」と決めつけない
人の臨床では、頸椎に由来する痛みが頭痛として知覚されうることは認められています。一方、頸原性頭痛は症状や触診だけでは「疑い」までしか判断できず、確定には頸部の構造や神経への診断的ブロックで痛みが消えることの確認が必要だとするレビューがあります[3]。2014年の更新レビューでも、多くの対応法はエビデンスが限定的で、運動療法は手技療法の有無にかかわらず、頸原性頭痛が疑われる人の選択肢になりうる、という慎重な整理です[4]。
したがって、「首がこっているから頭痛の原因は首だ」とは言えません。急に始まった強い頭痛、いつもと違う頭痛、しびれ・発熱・意識や言葉の異常などを伴う頭痛は、セルフケアより先に医療機関へ相談してください。
と、ここまで慎重な書き方をしましたが、経験上は頭痛と頸部の問題が重なることはとても多く、首をゆるめることや頭頚部のポジションを修正する長期的なアプローチで頭痛がやわらぐことは多くあります。
ただし、頭頚部のポジションの修正・姿勢改善は手技療法だけで改善することは少なく、普段からの自分自身で姿勢改善を継続することが大事です。
JINENの言葉でいうと
JINENでは、痛む場所を強く変えようとする前に、負荷の入口を分けて観察します。頭の位置、あごの力み、目の使い方、肩甲骨や胸郭の動きなどです。これらが頭痛の原因だと決めつけるのではなく、どの条件で楽になるか、悪化するかを丁寧に見ます。
首だけを揉み続けるのではなく、首に負担を集めている条件を探る。この視点は、収束と関連痛の仕組みと矛盾しませんし、実際に改善することは多くあります。
治療だけに頼ってきたのに改善しないという場合は、自分自身でのボディワークの実践も取り入れてみてください。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。 急に始まった強い頭痛、いつもと様子の違う頭痛、しびれや発熱などを伴う頭痛は、必ず医療機関にご相談ください。
参考文献
1. Bartsch T, Goadsby PJ (2003). Increased responses in trigeminocervical nociceptive neurons to cervical input after stimulation of the dura mater. Brain, 126(Pt 8), 1801–1813. PMID: 12821523. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12821523/
2. Bartsch T, Goadsby PJ (2002). Stimulation of the greater occipital nerve induces increased central excitability of dural afferent input. Brain, 125(Pt 7), 1496–1509. PMID: 12077000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12077000/
3. Bogduk N (2004). The neck and headaches. Neurologic Clinics, 22(1), 151–171, vii. PMID: 15062532. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15062532/
4. Bogduk N (2014). The neck and headaches. Neurologic Clinics, 32(2), 471–487. PMID: 24703540. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24703540/